泣いた月

ダイナゴン

第1話

ある村に、仲の良い親子が住んでいました。


母さまとピリーの2人家族です。


ピリーはとても賢くて、優しい少年だったので、


母さまは心から幸せでした。


ある朝、母さまが目を覚ましませんでした。


2日、3日、いくら待っても母さまは目を覚ましません。


でも、ピリーは母さまを起こそうとはしませんでした。


母さまが疲れているのを知っていたのです。


日々、やつれていくのを知っていたのです。


5日がたちました。


母さまの体になぜだか虫が寄ってきます。


『起こしちゃだめだよ』



ピリーは、村でいちばん高い丘に行きました。


深くて大きな穴を掘りました。


そこに母さまを連れてきて、ゆっくりとねかせました。


だんだんと母さまの顔が見えなくなっていきます。


母さまの体が完全に見えなくなったとき、ピリーの目からポロポロと涙がこぼれました。


「母さま、母さまがいなくても僕大丈夫だよ。心配しないで。」


本心ではありません。


ピリーは母さまが病気だと知っていたのです。


大きくなった自分の横に、母さまが立つことはないと知っていたのです。


母さまが目を覚まさなかったあの日、もう二度と母さまの太陽のような笑顔を見ることはできないと分かっていたのです。


もう、母さまの優しい声に名前を呼ばれることはないと、


もう、母さまの温かい胸の中に飛び込むことはできないと、


全部全部知っていたのです。分かっていたのです。


ピリーは1度家に帰り、母さまのお気に入りのハンカチを持って、もう一度あの丘に戻りました。


そして母さまのハンカチを胸に抱きながら大声で泣きました。


何度も心の中で月に祈りました。


どうか、母さまを返してください。


たった8歳の少年の成長を月はずっと見ていました。


この悲しくて優しい頼みも聞いていました。


この少年の望みを聞いてあげたい。


月は何度もそう思いました。


でも、月には、見ていることしかできません。


月は静かに1粒の涙を流しました。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

泣いた月 ダイナゴン @yyyyyui

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ