第22話 失踪

空に暗雲が立ち込めていた。


「雨でも降るのかしら。」


ローズは手をかざして空を見上げた。

ポツポツと雨粒が落ちてくる。

早く建物の中に入らないと濡れてしまう。

慌てて、軒下に避難した。


「雨って珍しいね。」


シオリが呟いた。


「そうだね。王都はあまり降らないみたいだしね。」

ぼくは答えた。

イリエ村では時々雨は降っていたが、王都は、晴天の日が多いらしい。

あまり気にしていなかったが。


その頃、王城では少し騒ぎになっていた。


「騎士団長が見当たらないのですが…。」


最初は体調不良で休みかと思われたが…。

一日、二日経ち、三日たっても連絡が無い。

アルは仕方なく、ワットが抱えていた溜まっている業務をやり始めた。


無断欠勤する人ではないのだけど。

体調を崩したにしても彼には妹さんがいたはずだし‥。

考えても分からなかった。


アルはワットの家を訪ねてみたが、家には帰っていないようだった。


「どうしたんだ、一体‥」


とりあえず、ローズに聞いてみることにした。


「そんな事になってたの?来ないからあきらめたのかと思っていたわ。」


ローズは両手を組んで食堂のテーブル席に腰かけていた。

騎士団長の失踪。

彼は強いので捕らえられるとか、殺されるとは考えにくい。


「見つけたら、お願いします。」

頭を下げるアル


「そうね。わかったわ。」


ぼくとシオリは一緒のテーブルにいた。


「何か起きてるのかな…。」


「そうかもね。」


ぼくはシオリの手をぎゅっと握った。



****



ぼくたちは夕飯を食べて宿へ向かう途中だった。

シオリが急に向こう側の路地に走っていく。


「シオリ?え?どうした…。」


そこには深くフードを被った魔術師が立っていた。


「これで勇者は私の物です。最初からこうすれば良かった。」


シオリは無表情でこちらを見ている。

何か魔法をかけられたのかもしれない。

暗がりの中でよく見ると、もうひとり誰か立っていた。


「ワット?」


背格好がよく似ている。

金髪だし間違いはない。

彼も魔法をかけられているのだろうか。

虚ろな表情で感情が見えない。


「さようなら。勇者の友達。」


フードの魔術師は魔法陣を描き、光があふれる。

これは知ってる…以前シオリが城で使ったあの魔法だ。

次の瞬間、3人はその場から消えてしまっていた。

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