幻炎(かげろう)

ToKi

幻炎(かげろう)

私は、風の通り抜ける道を歩いていた。


傲慢さを棚引かせていた。


暑さに倒れそうになった。


それなのに、日陰を試みなかった。


歩くことが、私にとって有効な手だった。


人は、陶酔と溺れるという言葉を使い分ける性質を持っていることを、私は見つけた。


他人を侮蔑する時、溺れる、溺れ死ぬと人は言う。寛大な広間を俗世に遍満する分別癖に重ね合わせる。そうやって先ずは広間の鏡を叩き割り、宝探しをしたんだい、と後々浸る泥水の生々しさなど目にもとめず、浸りたいが為に床に穴をあける。瓦屋根の海は、お天道様を投写するには透き通り過ぎていた。


お天道様で思い出した。私の祖父は、私によく暁闇の只中に崩れ去る、砂の王国の逸話を聴かせてくれた。


昼間の今、砂の王国の逸話を傍らに流し、私は幻炎に目をやった。


見えない。見えていない。それでも、見たかった。


どうしても見たかった。私は裡で繰り返した。


もう一度、幻炎を眺めた。見るということは、これ程に苦痛なものなのか。私は瑞々しさの縁の真ん中に位置するアスファルトに、その幻炎に、砂の王国の舞と細雪の姿をみた気がした。

まだ目の前を舞っている。

最後の一片まで待っていようか。



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幻炎(かげろう) ToKi @Tk1985

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