見慣れた顔

 故人の夢を見た。いつか会いに行きたい、そう思っていた。でもそれが果たされたのは夢の中だった。現実ではもう決して会うことの出来ない存在に、夢では出会えた。何を話したのかも、どこで会ったのかもよく覚えていない。でも、会えたことが嬉しくて、嬉しくて、涙を零していたことは覚えている。そしてそれを見て、あの人は困ったような顔で私を見て、優しく笑っていたのも覚えている。私の目線より少し上で優しく微笑むその顔は、いつも私が見ていた笑顔と同じだった。

 目が覚めると、噛み合わない歯車が軋むように心の奥底が痛んだ。でもきっと私だけではない。世界中の人が彼の死を目の当たりにしている。そして、立ち直れずに毎日引き裂かれるような思いで生きている人達がいる。そんな人達にも、優しい彼の笑顔を思い出して欲しい。夢で会えるなら、どうか会わせてあげて欲しい。彼の美しい思い出が今は凶器となっても、いつかその傷を必ず癒してくれるから。

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夢心地の物語 阿久津 幻斎 @AKT_gensai

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