裏切りの代償

山口遊子

第1話 裏切りの代償


 短期間で戦力を消耗し尽くしたJ国はついに降伏した。


 J国首都。進駐軍はかつての国会議事堂近くで破壊を免れたホテルを接収し進駐軍総司令部を置いた。


 進駐軍総司令部。治安対策室で室長と次長、士官で会議が開かれた。議題は被占領民の慰撫である。


「……。食料等の配給は従来通り行うということでいいな。

 被占領民の不満解消、ガズ抜き案としてコストがかからず簡単に実施できるいい方法は何かないかね?」


「スケープゴートを見繕うのが手っ取り早いのではないですか?」


「スケープゴートとなると逆効果ではないか?」


「被占領民の中から見繕えばとうぜん逆効果ですが、それ以外から選べば効果は高いでしょう」


「?」


「室長。被占領民から最も恨まれているのは誰だと思います?」


「われわれかね?」


「いえいえ、われわれ以上に恨まれている存在がいるではありませんか」


「ああ、そういえば唾棄すべき売国奴がいたな。

 戦争前はこの国の防衛力強化の足かせとなってそれなりに役立ったが、中央でのポストないしこの国での有力ポストを寄こせとうるさくせがんで本国政府も手を焼いているようだ。上と相談してみるが、おそらく承認されるだろう。

 進めてくれ」


「了解しました」



 1カ月後。占領軍からJ国民に配給されるべき物資を横流ししたと数名のJ国民が占領軍憲兵隊によって逮捕された。


 逮捕者から引き出した情報から戦前はJ国内の情報を流し、J国内の分断を図っていた組織のリーダーおよび主要メンバーであったJ国元国会議員数名を始め多数の構成員が芋ずる式に逮捕された。逮捕者数は実に3000名を超えた。


 軍事検察官による彼らへの尋問の結果、物資の横流し以外の重大犯罪も露見し、軍事法廷で彼らの約半数は死刑が宣告された。死刑は順次銃殺によって執行され、その模様はテレビ中継された。


 残りの半数は懲役10年から無期懲役の宣告を受け進駐軍本国に護送された。彼らについての記録はそこで途切れている。


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裏切りの代償 山口遊子 @wahaha7

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