第一章 22 「サシ飲み」

商都として名高いダンドルンだが一歩市場を抜けると住宅街が広がっており、ゆったりとした時間が流れている。


「冒険者ってあんなんばっかなん?何か冒険者の印象が一気に悪くなったんだけど」

「ならず者が多いとは聞くけど、今日のはちょっと特殊かもね…」

街角の広場に置かれたベンチに座ったアカリ達は、露店で買った果実水を飲んでいた。

「しかし、あれじゃ依頼しても期待できないな」

「…ちょっとね。商人に聞いて回った方が良いかも」

「商人…か」

「うん。商人達は独自の情報網を持ってたり、大陸中を回ったりしてるから。もしかするとだけど」

そこまで言ってリアはしかめっ面をする。

「…ただ、情報も商品って知り合いの行商人は言ってたわ。多分、冒険者に依頼出すより高いと思うわ…まあ、闇雲に依頼を出すよりはいいとは思うけど」

「今は先立つものが心許無いからなぁ…」

今後、ルドルフから支払われる報酬に期待する事にする。

「ま、商人に的を絞って聞き回るのは正解かもな。ありがと、リア。思い付かなかったわ」

「え、あ…ちょっと…⁉︎」

アカリは感謝と共にリアの頭を撫でてみる。すると一気にリアの顔が紅潮し、モジモジと俯いた。

「…やめなさいよ…恥ずかしいじゃない…」


- か、可愛ええのう




商人への聞き込みは翌日にしようと、その日は食堂で軽く夕食を取って領事館に戻る事になった。

領事館の玄関には朝の侍女が出迎え、部屋まで引率する。

「アカリ様、公爵閣下から戻られたら自室へと案内する様、申し付けられております。外でお待ちしておりますので、支度が整いましたらお声掛け下さい」

「はーい」

アカリは腰に着けていた装備を外してバックパックにしまうと、それをリアに預ける。

「んじゃ、ちょっとルドルフさんからお金ふんだくってくるわ」

「…もう、ホント心臓に悪いからそーゆー不敬な事言わないでよ」

「あはは」

部屋を出ようとしたところで、リアが不安気に声を掛けてきた。

「アカリ!」

「ん?」

「…その…一応気を付けてね?」

「ほいよ」

リアは考えすぎだとは思うが、心配される分には悪い気はしない。彼女を安心させるべく、アカリは微笑んだ。

「まかせなさーい」



案内された迎賓室はアカリ達の泊まるそれとはまた別格で、とにかく広かった。調度品も多く立派である。

「よく来た、アカリ」

「お邪魔しまーす」

迎え入れるルドルフはというと、立派な燕脂色のガウンを着ている。まさにザ・貴族といった様相だ。

「畏まるなよ?俺はお前の素が気に入っている」

「あ、っそ。じゃあ遠慮しないから、後で処すとか言い出さないでね?」

「クハハハ‼︎それで良い‼︎」

そう言って笑うとルドルフはソファーに座るようアカリに促す。

猫脚の重厚感あるローテーブルには酒瓶が幾つか置かれ、二人分のグラスも用意されていた。

「酒はいける口か?」

「強くはないけどね。好きではある」

「よしっ」

そう言ってルドルフ自らグラスに琥珀色の酒を注ぎ、アカリに手渡してきた。

「まずは…そうだな。俺達の危機を救ってくれた事、改めて感謝を。そして出逢いに、だな」

「出逢いに」

グラスを掲げるルドルフを見習ってアカリも乾杯し、二人とも一気にグラスを仰いだ。

「さて、まず率直に聞こう」

二杯目の酒を注ぎながら、ルドルフはニヤッと笑いながらアカリを見る。

「アカリ、お前は異世界人だな?」

「ぶっ⁉︎」

突然の質問にアカリは酒を噴き出しそうになって蒸せる。


- なにいきなりぶっ込んでくるかなこのオッサン⁉︎


「ケホ、ゲホッ…唐突に聞くね…」

「曲がりなりにも俺は帝国六大公爵の一人。異世界人を召喚する儀式の存在も、過去の召喚された勇者達のことも、知識はあるからな」

それは当然だろうが、前回勇者が召喚されたのは二百年も前と聞く。そう簡単に結び付くものかとも思う。

「どうしてそう思った?」

「どうしても何も、お前の持つ高性能なマスケットはどう考えてもこの世界のものではない。見慣れぬ格好といい、お前がこの世界の出では無いと分かるさ」

「…それで?俺が異世界人だとして、どうする気?」

ルドルフを牽制する様に睨み付けるアカリ。

「どうもしない。むしろ俺はお前と良い関係でいたいと願っている」

ルドルフは酒を煽り笑う。

「お前は強く美しい。そしてこの俺に臆する事なく対等に話してくれる。俺はそれが何より嬉しかったのだ。

当然、お前を利用しようなどとは思わぬし、むしろ手助けをしたいとも思っている」

アカリは一瞬は訝しんだが、ルドルフは直情的な脳筋タイプである。直感で嘘を言っていない事は信じられた。

「…ルドルフ様、確かに俺は異世界人だよ。気付いたらこの世界に投げ出されて、気を許せる相手も途中で出逢ったリアしか居ない。なんで、正直に言えばルドルフ様が味方になってくれるってのはスゲー嬉しい」

アカリは真っ直ぐにルドルフを見る。

「だから改めてお願いするけど、助けてくださいませんか?」

「勿論だ。俺は恩を忘れん」

ルドルフが差し出す手を、アカリは強く握る。

「出逢いに感謝し、今宵は呑み明かそう。異世界の話も聞かせてくれ」

「喜んで」

こうして始まったルドルフとのサシ飲みは盛り上がっていくのだった。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜


この後からちょっと際どい話が続きます!

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