第一章 05 「代償は命で」
アカリは盗賊達が集まる村の中心部の様子を建物の陰から確認する。
数刻前と盗賊達の様子は特に大きくは変わっていない様に見えた。
「…銃声に気付いていない、か」
アカリはさらに彼等の会話が聴こえる距離まで前進すると、置いてある木箱の陰に身を隠した。
「しかし、お頭はいいよな。あんな可愛いエルフ女を独り占めできてよ。こんな事なら母親エルフぐらい殺さずにとっておけば良かったぜ」
「ああ。さっきもエロい悲鳴とでっけー音がしてたが、どんだけ激しく犯してんだ?」
「きひひひ‼︎女痛ぶるのが趣味だからな、お頭は」
盗賊達の下品な会話が聞こえてくる。
アカリの装着している電子イヤーマフは高性能な集音機能が付いた軍用品だ。
「銃を知らなければ銃声も攻撃だと認知されない…か」
どうやら盗賊達は銃声を頭目がハッスルしている音と勘違いしたらしい。
「何だかコソコソやるのもバカらしくなってきたわ」
ため息混じりにそう言うと、アカリはライフルを構える。
最初の標的は弓を持っている二人だ。飛び道具さえ無力化すれば危険度は一気に下がるだろう。
弓持ちの一人に狙いを定めたアカリはヘッドショットで一発、間髪入れずに照準を変えてもう一発。
「な、なんだぁ⁉︎」
二発の銃声に盗賊が何が起きたと騒ぎたてる。
「おい‼︎ベックが倒れてんぞ⁉︎」
「ユージンの野郎もだ‼︎って、こいつ死んでやがるぞ⁉︎」
突然の事態に慌てふためく盗賊達。
「て、敵襲だああ‼︎」
剣を抜き身構える。だが、銃を知らない彼等は自分達の置かれた状況を正しく理解出来づにいた。
「敵襲ったって、何処からだ⁉︎コイツら矢も刺さってねーのに死んでんぞ⁉︎」
「知るか‼︎魔術師かもしんねぇ‼︎」
− へぇ、魔術師か
アカリはその単語に興味が湧いた。どうやらこの世界には魔術があるらしい。
それはさておきと、アカリは堂々と物陰から出て盗賊達の元へと歩きだす。
「こんにちは、悪人共」
突然現れて陽気に声を掛けてくる相手に、怪訝な表情を見せる盗賊達。
「何だぁ?女だと…⁉︎︎」
「襲ってきた魔術師か⁉︎」
だが相手の姿をよく見た彼等は、すぐさま態度を豹変させた。
「おいおいおい、とんでもねぇ美人じゃねーか」
「少し若いが堪んねーぞこりゃ」
− 美的センスは日本と同じで良かった
日本的美少女の自分の容姿が異世界でも通じる事に内心安堵する。
とりあえず、魔術や魔術師について少しでも聞き出してから殲滅しよう考え、会話を試みようとするが…
「オッサン達さ、ちょっと教えて欲しいんだけど魔術って言ったよね?それについてちょっと教えて…」
「グヒヒヒッ‼︎こりゃ俺達にもツキが回ってきたな」
「応よ‼︎頭が戻る前にとっ捕まえて輪姦そうぜ‼︎」
こいつらは猿かと、眩暈を覚えるレベルのお下劣さである。
「いや、だから魔術について…」
「おい魔術師の女‼︎その妙な杖捨てやがれ‼︎この距離なら魔術の詠唱は出来ねーだろうが‼︎」
「どういうつもりだかしんねーが、飛んで火に入る夏の虫ってやつだぜ‼︎」
「……」
「なーに、悪い様にしねーよ。俺達は上手いからよ?すぐに快感になって自分で腰振るメス豚にしてやんよ‼︎」
「「「ギャハハハハハ」」」
− あ、駄目だコイツら。殺そう
アカリが無言でトリガーを引いた瞬間、一番手前にいたモヒカン男の頭が弾ける。
「は…?」
アカリは事態を理解出来ずに固まる男達を問答無用で殲滅し始める。
「こいつ、詠唱してねーぞ⁉︎」
「ヤベェぞ殺せ‼︎」
一体、二体と死体が増え、ようやく盗賊達が一斉に剣を振りかざしてアカリに襲い掛かる。
「おせーよ」
大振りな立ち回りの攻撃を避けながら脇腹に二発。
「きええええええい‼︎」
そこを攻撃してきた禿げ頭にハイキックをお見舞いし、吹っ飛ぶ男に三発と次々に盗賊達を沈めていくアカリ。
− 空手習っててよかったぁ‼︎
「ひいいいいい‼︎」
「バケモンだあああ‼︎」
やがて二人だけになった盗賊は戦意を喪失し、悲鳴を上げながら逃げだす。
「呆気なさ過ぎてちょっと残念だよ。ま、あのエルフっ娘の分も含めて代償は払って貰おうか」
その男達の情けない姿に溜息を吐くと、無言で照準を向けて逃げる二人を射殺するのだった。
アカリは周囲を見渡した。
納屋の頭目を除いて広場に転がる死体は、事前に把握していた通りの九人分。
「…ふう」
警戒を解いたアカリが納屋へ向かうと、先程のエルフの少女が納屋の前に立ってこちらを見ていた。
「危ないから隠れてろって言ったのに」
「か、隠れてたけど…凄い音がするし、悲鳴も…」
どうやら戦闘音が気になって様子を見に出てきてしまったらしい。まあ無事なら良いかとそれ以上は何も言わない事にする。
「そ、それより!貴方強すぎて、さぞ高名な魔術師様なのかしら⁉︎」
少女は慌てた様子で口調に変えて尋ねてきた。
「いや、そういうんじゃないけど…」
アカリはどう答えたら良いのか悩む。
異世界から来ましたと言ったところで信じてもらえるか分からないし、かと言って魔術師だと誤魔化そうにもこの世界の知識がない以上は話を合わせる自信もない。
「うーん…」
− とはいえ、協力者は欲しい
異世界知識が現状皆無。この状況を打破するに、少女の存在は貴重だ。だとすれば少なくとも中途半端な対応はマイナスな印象を与えてしまうだろう。
「俺も君に相談があるけど、とりあえず村人を弔ってからにしようか」
「あ……」
きっと、自分が助かった安堵感やアカリの戦いの様子を見た興奮状態で村の現状を一時的に失念していたのだろう。
少女はそれに恥、大きな喪失感に再び涙を溢れさせる。そしてか細い返事と共に頷くのだった。
「…はい」
村の危機を救った英雄。
本来なら、そう感謝されて謝礼を貰ったりする異世界転生序盤イベントの様なものだったが、アカリが来た時には既に手遅れであった。
まあ自分が野営をもう少し下流に移動してからする、もしくは村を見つけていればもう少し違う結末になっていたかもしれない…そう一瞬思うが、直ぐに意味は無いと否定する。
- ま、あの娘を助けられただけマシ…と思うしかないな
村人の遺体は既に火災を起こしている民家に盗賊によって投げ込まれ焼かれてしまっている。そしてその火災も治る気配は無い。水を井戸から汲んで来たところで焼け石に水でしかなく、燃え尽きて自然鎮火するのを待つしかないだろう。
− この焼け跡が墓標がわり、か
少女もそう察しているのだろう。
彼女は燃える民家になるべく近付いた地面に、木を組んで作った十字架の様な物を刺して祈っている。
「…村には」
少女が絞り出す様に語り出す。
「戦える大人は私の両親と狩人のダブおじさんしか居なかった。あとはもう年寄りしか居ない小さい…けど幸せな村だったわ」
「…」
「両親は私がまだ産まれる前、遥か北方の戦乱で国を失いこの村に流れ着いたそうよ。そんな両親をこの村の人達は、種族が違うのに温かく迎え入れてくれて…私が産まれた時も皆んな盛大に祝ってくれたと聞いてるわ。そんな村だったけど、もう盗賊や魔獣から守るのも限界があるって、集団移転の話もあって…でも皆んなこの村が好きで、せめて長命種である自分達だけになるまでって父様達が…」
「…そう」
少女は俯いたままで、その表情は見えない。
「あの時、集団移転していればとか思うと悔しい…けど、それが両親の意思だった…」
少女が顔を上げた。
そこには悲壮感漂えど、絶望してはいない少女の姿があった。
「…ブエダ村、最後の一人として貴方に御礼をしないと」
- ああ…強いなこの娘は。
助けられて良かったと改めて思う。
「…悪いね」
「ううん…此処では何だから、私の家に行きましょう」
アカリはそう言って歩き出す少女の背中を追う事にした。
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