第11話:海に向かって。

「詩織ごめんね、こんなことになって・・・ほんとにごめん」


そう言って聖子が柊一郎の後ろから詩織を覗き込んだ。


「私のせいだよね・・・ごめんね」

「もう悪いダチとは縁切るからさ・・・許してね」

「友達でいてよね」


「聖子のせいじゃないよ、謝らなくていいから」


「間に合ってよかった」


矢形はそういった。


「そうじゃなかったら、あの5人のほうが病院送りになってただろうからな」


「矢形さん助かりました、ありがとうございました」

「なにかあるたびに世話かけて申し訳ないです」

「詩織に、妹になにもなくてよかったです」


そう言って柊一郎は深々と頭を下げた。


「おまえに、こんな可愛い妹がいたなんて初耳だぞ」

「ほんとに妹か?」


「まじで、正真正銘妹です・・・血は繋がってないですけど」


聖子は、そうだというように矢形の方を向いてうなずいた。


「とは言え、ひとり怪我をさせたわけだからな、あとでおまえも出頭・・・な」


そう言って矢形はクズを引き連れて引き上げて行った。

詩織は柊一郎に寄り添われて部屋を出た。

外はもうすっかり夜が更けて星がまたたいていた。


「聖子、悪い、タクシーでも拾って帰ってくれないか」

「俺は詩織を乗せて帰るから」


そう言って札束を聖子に渡した。


「いいよそんなの・・・」


「いいから、ほんとは送ってやりたいんだけど、できないから」


「分かった・・・詩織、じゃ〜またね」


聖子も柊一郎と詩織に謝りどうしでタクシーを拾って帰って行った。


「まだ、震えが止まらないか?」


柊一郎はもういちど詩織を抱きしめた。

詩織の震えが止まるまで・・・ずっと抱きしめていた。


「詩織、帰ろう」


「あの・・・さっき聖子が言ってた暴走族の総長って?」

「本当なんですね」


「昔の傷だよ、今日のことで、俺の体が昔の俺を思い出したみたいだけどな」


「ごめんなさい、私のせいで・・・」


「可愛い妹のためならいつだって命かけるぜ」


詩織ははずかしそうに下をうつむいた。


「あの・・・このまま帰りたくないです」

「海が見たいんですけど、いいですか?」


海が見たいと言うのはただの口実だった。

詩織はどこでもいいから柊一郎と、このままふたりきりでいたかった。

ふたりの時間がずっと続けばいいのにと願った。


「いいよ、連れてってやるよ」

「俺も今、なんとなくそう思ってたとこだから」

「乗れよ」


詩織は柊一郎のバイクの後ろに乗るのははじめてだった。

その真っ黒い車体は暗闇に溶け込むようにふたりを乗せて走り出した。


柊一郎の背中の感触も、抱きしめることも流れ行く町の明かりも、心地よく

ほほを撫でていく風もなにもかもが詩織には新鮮な出来事だった。


詩織は柊一郎の背中にもたれて胸がキュンとなった。


柊一郎は今夜の出来事が詩織にとってトラウマにならなきゃいいのにって

思いながら夜の海に向かって走った。


つづく。

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