第9話:詩織のピンチ。

柊一郎と詩織の関係は、とくに何事もなく、プラトニックなまま進展する気配も

なく日々過ぎて行った。


ある日、珍しく残業していた柊一郎のスマホに聖子からメッセージが入った。

どうせまた、からかい半分のいたずらだと思ってスマホを確認してみると


「詩織が、なんかヤバいことになってるかも」

「すぐに来て、並木通り入口の、Kって名前のスナックの前で待ってるから」


昔の馴染みってやつで・・・Kなら柊一郎もよく知っていた。


(詩織がヤバいことってになってるって?)

(夕方、誰かに呼び出されて出かけて行ってたのか・・・)

(詩織を呼び出した相手は聖子か?)


いったい何があった・・・ヤバいことってのは聞き捨てならなかった。


やりかけの仕事をほうって、すぐにバイクでスナックKまでぶっ飛ばした。

Kに到着すると店の前で聖子が手招きしていた。


「何があった?・・・詩織は?」

「ん・・はっきりとは分かんないんだけど・・・」


聖子が言うには、聖子の先輩から連絡が入って、 これから飲み会やるんで、

メンバーが足りないから応援頼むって言われたらしい。

聖子は普段世話になってる先輩の頼みを断りきれず、 詩織を呼び出して、

店に行ったらしい。


店に行くと男性側は8人、女性側は聖子と詩織を入れて5人。

聖子は適当にあしらって、さっさと詩織を連れてとんずらしようと思ってたらしい。


最初は普通に盛り上がってたんだけど、そのうちひとりずつお持ち帰りになって、

聖子は無視やりひとりの男に店の外に 連れ出されたらしい。


あとに残ったのは詩織と3人の男だけ・・・。 なんかヤバいかもって思った聖子は、男を振り切って店戻ってみると 席にはもう誰もいなくて、急いで店のマスターに

問いただしたところ 男3人が若い女を連れて裏口から出て行った、ということらしかった。


考えられることはひとつ・・・詩織は拉致されたのだ。


すると詩織の携帯から


「シュウちゃん、助けて」


ってラインが入った。


「そのまま切るなよ、すぐに行くから」


柊一郎はそうメッセージを残しておいてから、すぐに矢形さんに連絡した。

ことの詳細を告げて、詩織のゆくえを探しはじめた。


詩織のスマホには、女の子という事もあって何かあるといけないので

柊一郎がGPSを起動してあった。

それを頼りに聖子をバイクの後ろに乗せて走った。


(俺のバイクの後ろに最初に乗せるのは惚れた女だけだと思ってたんだけど・・・)


そんなこと知らない聖子は柊一郎にしがみついていた。


「飛ばすぞ」


「うん」


今まで柊一郎は自分のバイクの後ろに一度も誰も乗せたことがなかった。

詩織ではなく聖子が第一号になったわけだ。


途中で詩織のスマホからの連絡が途絶えたので、もしかしたらスマホを

取られたか壊されたかもと柊一郎は思った。

スマホから連絡が途絶えた場所に辿りつくと、そこは古ぼけた貸しビルで、

見ると二階の一箇所だけ明かりがついてる部屋があった。


柊一郎は、すぐさま階段を駆け上がって、明かりのついた部屋のドアを 蹴り

やぶった。

すると、さるぐつわをされてソファに寝かされている詩織が、すぐに目に入った。


部屋の中には男が5人・・・聖子は3人と言ったが、ふたり増えていた。


つづく。

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