第4話:ひとつ屋根の下。

そういう訳で息子と娘の思惑をよそに誠一と美穂子の結婚式は地味に

披露宴はなしで行われた。


本当は籍を入れたら、それでおしまいなはずだったが、 詩織の母親が

ウェディングドレスが着たいと、わがままを言いだしたため 結婚式だけは

挙げることになった。

どうも前の旦那さん「詩織の実の父親」とは式を挙げずに一緒になったらしい。


「おめでとう、お母さん」

「お母さん、綺麗だよ、ウェディングドレスよく似合ってる・・・」


ウェディングドレスの母親は綺麗で、お世辞ではなくまだまだ充分イケた。


「ありがとう」


母親は優しく微笑んで


「新しい家庭が増えるけどよろしくね」 とそう言った。


(自分もいつか、こんなふうに素敵な人と出会ってウェデングドレスを着る時が

来るのかな)


って詩織は思ったりした。


そして、柊一郎と詩織が参列する中、結婚式はつつがなく終了した。


この時点で、渡辺 詩織は吉岡 詩織になった。


詩織は自分の苗字が吉岡になることには、特に抵抗はなく、むしろ、吉岡と言う

響きが新鮮にさえ感じた。

心の中で自分の名前を何度も言ってみたりした。


(よしおかしおり・・・か・・・)


そんなわけで、ひとつ屋根の下に暮らすことになった柊一郎と詩織。

最初っからお互いを受け入れてないふたりは、朝、すれ違っても挨拶はなし。

最初に口をきいたのは朝のトイレだった。


いつものように柊一郎はトイレの前にいた。

トイレのドアノブを回したが、誰かが先に入ってるのかロックがかかっている。


「誰?誰が入ってんの?」


「あの・・・私です」


詩織の声だった。


「あ〜〜〜そうだった・・・いるんだよな・・・」

「悪いけどさ、漏れそうだから・・・早めで頼むわ」


「少し、お待ちください」

「あの、すいません、ドアの前にいらっしゃるんですか?」


「そうだよ・・出てくるの待ってんの・・・それがなにか?」


「もう少し離れるか、どこかに行っててもらっていいですか?」


「なんで?」


「そこにいられると、気になって、その〜出るものも出ません」


「ったく・・・」

「早くしろよよ・・・長いのごめんだから・・・」


「そんな偉そうに、いくら年上だからって上から目線で言わないでください」

「我慢できないんだったら外でどうぞ」


「そっちこそ偉そうに・・・たく、俺の家でもあるんだぞ」


「がさつ・・・低レベル・・・とにかく、どっかへ行っててください」


朝ごはんの時も、無言。

両親はふたりに気をつかって話題をふるが無視。

お互いどこが嫌いと言うわけじゃないが、同世代だからと言う理由も

あって少しは意識してるのかもしれなかった。


だいたい年頃の男と女がいきなり一緒に暮らし始めたって、抵抗あるだろ。

最初っから馴染めるわけがないんだ。


やれやれな先が思いやられる二人だった。


つづく。

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