第3話:もう一人の女の子。

「しゅう、突然なんだけど・・・ 今度、オレ結婚しようと思うんだ」

「どう思う?」


柊一郎しゅういちろうのところもいきなりだった。


「いきなりだな・・・」

「ふ〜ん、そうなんだ・・・どう思うって・・・」

「もう、決めてんだろ・・・好きにすればいいじゃん」

「親父の人生だし・・・親父がどこの誰と一緒になろうが俺がとやかく

言うことじゃないし」


「その人と何処でどうやって知り合ったんだよ」


「美穂子さんは俺の会社にパートで入社してきたんだ」

「会社の食堂全般の家事や掃除・・・そいう仕事をやってて・・・」

「まあ、社内恋愛ってやつかな」


「で、手つけたのか、このエロ親父」


「手つけたって人聞きの悪い」

「ちゃんと手順踏んで、付き合ってくださいって頭を下げて筋を通したさ」


「まだ見てないけど・・・親父のことだから美人なんだろ、その人」


「まあな・・・」

「それもあるけど、性格がさ、素敵な人なんだ・・・」

「おまえも気に入ってくれると思うぞ」

「じゃ〜連れて来てもいいな・・・今度の日曜、その人に会ってくれ」

「一応紹介しとくよ、だから、おまえ家にいてくれよ」


「わかった」

「どこにも行くなよ」


「ウンコ以外はどこにも行かないよ」


その時は、詩織と同じで親父が幸せになるならと柊一郎は軽い

気持ちでいた。


そんなこんなで一週間が経った。


そして日曜日の午前中。

父親は結婚相手の女性を家に連れて来た。


「美穂子さん、紹介しとくね、こっち息子の柊一郎」


「こんにちは、はじめまして渡辺 美穂子です」


「どうも〜・・・はじめまして柊一郎です、よろしく」


親父の彼女は品のいい垢抜けした綺麗な女性だった。


(思ったとおり親父はいい趣味してるな) って柊一郎は思った。


でも、その女性の後ろに隠れるようにして、もうひとり女の子が

いることも柊一郎は見逃してはいなかった。


見た目で言うなら柊一郎より少し年下か・・・。

髪が肩より長く、壊れそうなくらい繊細に見えてて・・・柊一郎は

その子をひとめ見て


「可愛い」と思った。


親父の彼女、渡辺 美穂子の後ろに隠れていた女の子。

母親に急かされるように、誠一と柊一郎の前に出ると申し訳なさそうに

小声で挨拶した。


「はじめまして渡辺 詩織です」


「あ、どうも〜吉岡・・・柊一郎っす」


柊一郎は丁寧とまではいかないが、とりあえず詩織に挨拶した。


(まじで・・・この人たちと家族になるのか?)

(母親はいいとしても・・・)

(俺とタメくらいの女とひとつ屋根の下かよ)


柊一郎は女兄弟がいなかったので、年頃の娘を相手にこれからどう

対処すれば いいのかと、少し戸惑った。


詩織も同じように思っていた。


(この人と兄弟になるの?)


誠一と美穂子の結婚の時期がもっと早くて、柊一郎と詩織が幼い頃なら

それほど違和感は感じなかったんだろう。


全員の挨拶を終えて渡辺家が帰ったあとの吉岡家。


「おやじ、聞いてないぞ」

「俺と歳が変わらない娘がいるなんてさ」

「これから、ひとつ屋根の下で一緒に過ごすのか・・・あれと」

「勘弁しろよなよ~」

「俺、家出ようかな・・・」


「俺が幸せになるためだと思って、そのくらい辛抱しろ」

「すぐに慣れるって、若いんだし」

「それに四六時中顔を合わしてるわけじゃないだろ?」


吉岡家から帰った渡辺家では・・・。


「お母さん、聞いてないよ」

「私と歳が変わらない男の人がいるなんて・・・知らないよ」

「ひとつ屋根の下で一緒に過ごすんでしょ」

「なんか・・・やだな」


「お母さんが幸せになるためなんだから、そのくらい辛抱しなさい」

「すぐに慣れるって、若いんだから」

「それに四六時中顔を合わしてるわけじゃないでしょ?」


柊一郎の父親と同じようなことを言っている美穂子さん・・・だから、

ふたりは気が合うんだ。


つづく。


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