第20話


「ブッヒイイィッ……⁉」


 僕の放った矢で、宙に浮かんだオークたちがバラバラになる。


 ユイの【糸】や【バルーントラップ】に引っかかって動けなくなったモンスターは、僕にとっては格好の的だった。


「あ、落ちましたっ」


 ユイは当然といった様子で、鼻歌交じりに魔石を拾って袋に収納していたけど、サクラは慣れてないのか唖然としてる。


「……クルスの弓、物凄い命中率と威力だ……」


「あ、そういえば僕のスキルについてサクラに詳しく話してなかったね。【互換】スキルで【HP100】を命中値に置き換えて、そこから腕力に切り替えれば、あら不思議ってなるわけ」


「な、なるほど……凄い、格好いい……」


「え?」


「クルスって、素敵だなあって……。何かおかしいかな?」


「え、い、いや、おかしくないよ。サクラのイメージが前とちょっと違って見えたから戸惑っただけだよ」


「そ、そうかな? 私はいつもこんな感じだが……」


「……」


 確かに無理してる感じには見えない。


 それにしても、サクラがまさかのJC=女子中学生だったとは……。


 彼女については、戦ってるときは男勝りな女性だとばかり思ってたけど、見事に騙された格好だ。山賊の恰好がやけに似合ってて子供っぽくは見えなかっただけに。


 まあでも、よく考えたら中学生でも大人びた子は結構いるだろうからね。こうして普通に会話してみると物腰が柔らかくて、逆にとても女の子っぽい印象だ。


 これはスイカと塩の関係性に似てるかもしれない。最初のイメージがあるだけに、より甘く感じるんだ。


「……」


 そのときほんの少しだけ、よからぬことを考えたのは内緒だ。


 これって愚者タイムっていうのかな? 賢者タイムがあるなら、そういうのだってあると思うんだよ。響きは悪いけど……。


「ゴアアアアアアアァァッ」


「なっ……⁉」


 突然、大きな岩が前方から勢いよく転がってきた……と思ったら、それが変形して人型になった。そこでサクラが目を見開く。


「クルス、ユイ、私が罠を仕掛けるから離れて! あいつは稀に見かけるレアモンスターで、倒せば経験値が凄く入るんだが、硬くて物理じゃ倒せない!」


「えっ……」


「ゴゴゴッ」


 岩のモンスターは、こっちへ迫ろうとしていたが、サクラの罠によってろくに進めずにいるようだった。


 ただ、【バルーントラップ】にかかっても重いのか微かに宙に浮く程度だ。しかも動けるようになるのが早い。


 そのことから、この岩の化け物がかなり強力なモンスターであることがわかる。


 確かにいかにも堅そうだし物理攻撃がまったく効かない可能性もある。例のおばあさんが言ってたのはこいつのことだろうか。


 でも、効かないと言われると試したくなる。僕は器用値から腕力値を100にして切り替えて矢を放ってみることに。


「グオオオオォォォッ!」


「あ……」


 ありゃ、一発で木っ端微塵になってしまった。よく考えたら急所を狙えるし破壊力も抜群なんだった。


「……う、嘘……」


 サクラが脱力しちゃってる。既に杖の先から火球を出してて、無駄になってしまったのでなんとも気まずい。


「……ご、ごめん、サクラ。僕が倒しちゃって――」


「――やった! クルス、凄いっ!」


「え……」


 怒られると思ったら、喜んだ様子で抱き付かれてしまった。な、なんか胸が当たってるし、しかも意外と大きいっていうか……。


「そ、そんなに大きい……じゃなくて、凄いかな?」


「うん……一発であんなのを倒せるなんて思わなかった! 念のために確認するけど、クルスは右列じゃないよね?」


「ち、違うよ。僕はれっきとした左列だよ」


「よかった……。私、こんなに頼りがいのある人が味方だから嬉しいんだ……」


「……」


 この子、隙がないように見えて意外と無防備な子なのかな? まあよく考えたらまだ中学生だしね。


「じー……」


「はっ……!」


 ユイからじっと見つめられて、抱き合っていた僕たちはお互いにハッとした顔で離れた。


「浮気はダメですよー? ほら、これ見てください。ゴーレムさんの魔石が落ちてました!」


「あ、そうなんだ。気づかなかった……。レアモンスターでしかも魔石なら、結構な値段になりそうだね」


「ですね!」


 ユイのやつ、結構怖い目をしてたような……って、そうだ。そういや、レアモンスターって経験値も旨いってサクラが言ってたっけ。それならレベルも上がってるかもしれないってことで、レベルを確認することに。


 おお、20から23になってる。山へ来てここまでモンスターとはあまり戦ってなかっただけに、相当に経験値が旨かったってことだね。


 それならユイはどうなってるかと思って、レベルを確認したら同じく23だった。あれ? 彼女はゴーレムとの戦闘には参戦してないはずなのに……。それじゃあ僕が知らない間に【糸】スキルをゴーレムに使ってたのか。ちゃっかりしてるなあ。


「……ごくりっ」


 僕はユイから【観察眼】を借りて、サクラのステータスも確認する。彼女については仲間になったばかりだから知らないことも多いし、ついでに詳細を知っておこうと思って。



 変動ステータス


 名前:久遠 桜

 性別:女

【年齢:14】

 レベル:20


 HP:17/22

 SP:94/117

 腕力:1

 俊敏:1

 器用:5

 知力:1

 魔力:18

【体験人数:0人】

【スリーサイズ:86.61.87】

【下着の色:桃色】


 固定ステータス


 才能:A

 人柄:B

 容姿:A

 運勢:D

 因果:B


 スキル:【バルーントラップ】【魔力50%上昇】【SP+100】


 装備:皮のマント 皮の服 皮の靴 ロッド



「……」


 おおっ、やっぱりおっきいんだなあ……。


 年齢詐称の可能性もあるってことで一応調べたんだけど、本当に14歳=中学生だった。


【観察眼】スキルで下着の色まで調べたのは、ちゃんとした理由がある……っていうのは真っ赤な嘘で、単純にスケベ心だ。


 僕も男だからね、しょうがないね。いわゆる、スーパー賢者タイムの反動で起きたスーパー愚者タイムってやつだ。


 もうここまで来たら、毒を食らわば皿までだ。


 を発揮しちゃおうかってことでサクラのほうを見やったら、ユイがむっとした顔で立ち塞がってきた。


「ユ、ユイ?」


「クルスさん? 何か悪いこと考えてないですかぁ?」


「え、え? べ、別に、そんなことは……」


「なんか、目が泳いでますし鼻の下も伸びちゃってますよ?」


「えっ⁉」


「冗談ですよお。ほら、ぼーっとしてないで、早く行きますよ?」


「あ、う、うん!」


 またしてもチャンスを逸してしまった。ユイって一見鈍いように見えて、意外と鋭い子なのかもしれない。まあ巫女さんだしね……。

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