金欠医大生、小説を書く

松瀬 修

プロローグ

 眠気覚ましに運転席の窓を何センチか開けると生暖かく湿った森の空気と忙しない蝉の鳴き声が車の中に押し入り、カーオーディオから流れるジャズをかき消そうとする。ツマミを回してジャズの音量を上げると同時に、週末の試験勉強で重くなった瞼を必死に持ち上げ北澤肇きたざわはじめはアクセルを踏み込んだ。

 ドイツ製のエンジンは心地よく吹け上がり、体がシートに押し付けられる。そして愛車の白いポロは森の中のバイパス道路を風のように駆け抜けてゆく。


 どうしてうちの大学は毎週月曜に試験があるんだよ、週末まともに休めないじゃないか。試験勉強のストレスで小遣いがお菓子やら何やらに消えていくし、良いこと1つもねえな。

 肇はそう心の中で悪態をつきながら実家への道を急ぐ。

 この道にはオービス置かれてないはずだからもうちょいスピード上げるか。それにしても家に着いたら父さん幾らくれるかな。つい数週間前にも金をせびりに帰ったからな……。

 彼女ができてからというもの、出費が異常に増えてる気がする。かと言ってバイトをする時間も体力も無いから仕方ないよな。第一、2年になったらバイトするなって言ったの父さんの方だし。


 肇は一度大きなため息をつき実家への道を急いだ。

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