バグが使える君と、神を見つけに行こう。

かなえ@お友達ください

全ての始まり

「ねえ、いきなりだけどさ。僕たちって『こうしよう』って思う前にすでに体が動いてるんだって」

「はぁ? どういうことだよ」

 いつも通り学校が終わり、放課後に公園で遊んでいると幼馴染の彼、平野ひらの 侑芽ゆめはいきなりよくわからないことを言い出す。


「たとえばさ……今手、あげてみて」

「?……ん」

 彼の意図がよくわからないまま、とりあえず言われた通りに利き手を上げる。


「じゃあ、今なんで手を上げたの?」

「なんでって……お前が今上げろって言ったんだろ」

 パン、と手を叩き、再び意図のわからない質問をする侑芽。

何故と言われたら、侑芽に手を上げろと言われたからに決まっている。


「って思うんだけど……実は君が僕の指示を聞いて手を上げようと思う前に、君はもう手を上げてるんだって」

「はあ? じゃあ……ん?」

 侑芽の説明を聞いてもピンとこず、手を上げたまま頭の中で思考がこんがらがる。


「つまり僕たちがこうしよう、ああしようって思う前にすでに僕たちは行動してるんだよ」

「じゃあ、俺はなんで今手を上げたんだよ」


 右手が疲れてきていることに気づき、やっと手を下ろす。


 下げた手を見ながら侑芽の言ったことを反復させて考える。


 本当に侑芽の言ったことが本当ならこの手を疲れたから下げよう、と考える前に俺はすでに手を下げていたということか?


「それは、分かんない」

「ほーん」

 特に深く考える気にならず、座っているベンチに手をつけながら足をプラプラさせる。


「あの、僕から言っといてアレだけど嘘だとか言わないんだね」

「んー……なんでだろな」

「昨日の夜家族に言ったら全く相手にされなかったからさ」


 少し悲しそうな、どこか諦めたような顔をしながら侑芽は口を開く。


 確かに俺も、侑芽の言っていることはよくわからない。


 だが何故か、侑芽の言っていることが嘘だとは思えなかった。



「……僕、何言ってんだろ?」

「は?」

 悲しそう顔からいきなり真顔に戻り、意味のわからないことを呟く侑芽。


「一回試したのに。なんで?」

「な、何言ってんだ? おい!」

 なんだか嫌な寒気がしてきて、肩を揺らしながら侑芽に叫ぶように話しかける。

侑芽は心ここに在らずといった感じで、俺の呼びかけには全く応じてくれない。


「あのさ、実は僕、答え知ってるんだ」

「答えってなんだ!? おいって!」

 侑芽の目からは全く生気を感じられず、きっと先ほどからぶつぶつと言っている言葉は俺に話しかけているのだろう。

だが、全く目は合わない。


「多分ね、この世界は⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎」

「うっ……え?」

 侑芽の口から出た、何か。

言葉なのだろうが、脳が意味を処理できず、雑音としてしか認識されない。


「あ、あれ?」

 俺が状況が理解できず固まっていると、侑芽は真顔を崩して驚いた表情になり、こちらに向き直る。


「なんで……? なんで⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎されないの?」

「それやめてくれ!なんか……気持ち悪い」

 耳を押さえて侑芽に話しかける。

あの雑音が聞こえるたびにどこか不安な気持ちが煽られ、目の前の視界が歪む。


「も、もしかして、君も……でもなんで? 前はいつも通り⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎されたのに……」

 耳を押さえると侑芽の言葉は聞こえなくなるが、その不快な音だけが鮮明に聞こえる。


「う、うーん……⬛︎⬛︎には耐性がないの? どういうこと?」

「うぁ……」

 声が漏れて、いつのまにかベンチからずり落ち、体勢はうずくまるような形になっていた。



「ってあ! ごめん、大丈夫?」

 すると背中がさすられ、顔を上げると困惑を隠しきれないながら、どこか嬉しそうな顔をした侑芽の顔が見える。


「でも、すごい……まるでみたいだ!」

「ゆ、侑芽……?」

 手を取り、立ち上がる。

視界がだんだんはっきりしてくるが……


 今度は思考が謎で埋め尽くされる。


「あのね、少し話したいことがあるんだ」

「いや……え?」

 なのにも関わらず何もなかったかのように話し始める侑芽。



 彼は、一体「何」なんだ?


 



          

 

 

 


 

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