第11話 午後の会遇
午後のリモート外交は予定より早く終わった。やはり、どの宇宙団体もこの戦局を睨みながら立ち位置を決めかねているようで、こちらとは付かず離れずの関係を保とうとしているのが手に取るように分かる。遣り取りも適当で、形式的な話ばかりを一方的にして、すぐに終わるものばかりだった。私は相手の外観を見て内心で驚くことだけで、相手が話していることの内容はほとんど分からないから仕方ないのだけど。まあ、宇宙にはいろいろな種族がいるというのだけは分かった。ああ、そもそもここ、別世界か。
午後の時間が空いたので、私はアルクメーデーを誘って城内の散歩に出かけた。アルクちゃんだけに、散歩。ふふふ。
城の敷地は広い。どこかのテーマパークなんて比ではない面積だ。全部を徒歩で回っていたら数日はかかるだろう。とりあえず今日は、この広い中庭だけにしておくか。
整えられた遊歩道の左右には、腰高の植物が植えられていて、ブロック状に綺麗に剪定されている。よく見ると一つ一つの植木は何かの木だ。きっと元の私のサイズなら、柿の木くらいの大きさなのだろう。何か不思議な感覚だ。
思わず見上げると、天空では雲の上で戦闘が続いていた。おそらく大気圏外での戦闘だろうが、ピカピカと空で何かが光っている。
ああ、やっぱり戦争中なんだ……。
日本にいる時と同じような感覚に襲われた。
「いかがされました?」
ついて歩いていたアルクメーデーに声を掛けられる。
「ううん。ちょっと……。ねえ、アルクメーデー、城の外の人たちは、どんな生活をしているの? 少し見ることはできないかしら」
アルクメーデーは左腕のブレスレッドに触れながら答えた。
「情報データベースで最新資料を探せば、映像があると思いますが……」
「ううん。そうじゃなくて、直接この目で見てみたいの。実際に人々にお会いして」
顔を上げたアルクメーデーは少し間を空けた後、左腕から右手を離した。
「分かりました。でも、そうなりますと護衛部隊が必要ですね。しばらくお待ちいただいてよろしいですか」
「どうしても必要かしら」
「ええ。戦時ですので……」
「どのくらいの規模の護衛なの? 何十人もゾロゾロと付いてくるなら、あまり視察する意味もないし、人々に迷惑だろうから、考え直すわ」
「いいえ、ご心配なく。精鋭を五名だけ周囲に配置します」
「あら、そうなの。それなら行けそうね」
「基本の護衛パックですと、ゴーレムとトロール、ヘカトンケイル、グレンデル、アルゴスの各一名ずつの部隊となります。たしか、お好みでゴーレムの追加が可能だったかと……」
ファミレスのお子様ランチか! ていうか、いるのね、こっちの世界でも。なんか、宇宙感なくなってきたわ。
「じゃ、じゃあ、それでお願い。みんな、あまり目立たないようにしてね」
「承知しました」
アルクメーデーは再び左腕のブレスレッドを操作し始めた。
するとそこへ、酒瓶らしき物を肩に提げた男が現れた。異母兄弟の最年長グテーシッポだ。だらだらと衣服を身にまとい、歩みは千鳥足、呼気は酒臭い。完全に酔っているご様子。
「グテーシッポ王子、ごきげんよう」
「おう、イオリさん、ごきげんよう。ご結婚、おめでとうございまする。うい~」
「ありがとうございます。ご機嫌が麗しいようですわね」
「うるわしい? そーんな訳、ないないない。こっちは万年日陰道。いつまでたっても次期王様の引き立て役ですからねえ」
「イオリ様、参りましょう」
袖を引っ張るアルクメーデーの手を払って、私はグテーシッポとの会話を続けた。
「私とは義理の兄弟。今後ともよろしくお願いいたします」
「何言ってんだ。俺とヒュロシやマッカリアスとは血は半分しか繋がってないんだ。そのせいで、俺は王位継承から外れて、一生中途半端な地位のままだぜ……」
そこまで言って、グテーシッポは目を据えた。
「ヒュロシの奴が生きている限りな」
「グテーシッポ王子、少々ご発言が過ぎるのでは」
「アルクメーデー、いいのです。グテーシッポ様は酒に酔われておいでですから、ただのお戯れでしょう」
「そうそう、これで飲まずにいられますかっての」
グテーシッポは酒瓶を傾けた。
一度溜め息を吐いた私は、言ってみた。
「グテーシッポ様、お近づきの印にといっては何ですが、これから共に城下に視察に参りませんか?」
「イオリ様……」
反対するだろうアルクメーデーを制止して、私は続けた。
「察するに、グテーシッポ王子は巷の事情にお詳しいご様子。視察にご同行していただけますと、私も心強いですわ」
酒瓶を持ち上げたまま固まっていたグテーシッポは訝し気な様子で言った。
「何が狙いだ」
私は顔の前で手を一振りしてみせる。
「嫌ですわ、狙いだなんて。この世界に来たばかりの私に何かを狙う余裕などございませんわよ。ただ、街に慣れていらっしゃるグテーシッポ様がご一緒なら、ゴーレムだのヘカトンケイルなどという物騒な兵士を護衛として街に連れ出さなくて済みますでしょ。その方が街の人たちにとってもいいと思って」
私の目を見て少し考えている様子のグテーシッポは、もう一度酒を呷ると、瓶に蓋をしながら返事をした。
「いいだろう、案内してやる。ただし身の安全は保障できねえぞ。普段、俺が出入りしているところだからな」
「わあ! ありがとうございます。では、早速参りましょう!」
私は先に歩いていったグテーシッポの後を追った。後ろから駆け寄ったアルクメーデーが心配そうに言う。
「イオリ様、危険すぎます。グテーシッポ様に何をされるか……」
「大丈夫、大丈夫。私に何かしたら、あの豪快なヘーラクレレス王に何されるか分からないじゃない。手は出さないわよ」
私がそう小声で答えると、アルクメーデーは不安を顔いっぱいに浮かべて私についてきた。
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