世界中が異能力者になった世界で

第1話 世界中の皆が異能を得ても、それは異能と言えるのだろうか？

　２０７７年、新たにできた新人類都市『ニュートーキョー』は旧人類史以前の都市とは、あらゆる点で一線を画していた。

　街とその外を隔てる新人類規格の防壁や、３トンの力が一点に集まっても傷ひとつつかない防力ガラス、あるいは常に形状が一定に変化し続けるアイスクリーム屋の看板というところにもその片鱗が見られる。

はっきり言えば、２０７７年の人間は５０年前の人類と比べると全くの別物であるのだ。

　それは、今から約２０年程前の出来事だったと言われている。

とある科学者が開発した錠剤が全ての始まりであり、また、終わりであった。

その薬は人間の脳に作用して、各々が生来持っていたが脳のリミッターによって抑制されていた異能を開放する効能を持っていたのだ。

その科学者が名付けるには『人類進化薬』というその錠剤は直径５ナノメートルの超極小サイズであり、水には溶けないが、人間の胃液に反応して溶けるという特性を持っていた。

人体に影響を与える既定値のギリギリを満たしたその薬は、皆が使う水道に撒かれた。

水というのは、人体の約70％を占めている物質であり、人とは切っても切り離せないものである。

そんなものを水道に混ぜ込めば…その後はどうなるかだいたい想像がつくコトだろう。

そして、世界は混沌に陥った。

混ぜ込んだのが日本の水道だけだったので、世界はもう異端と化していた日本という国を『世界の敵』と認定、持てるあらゆるカードを切って、日本という国とその国民を根絶することを国際連合で表明した。

実際、その様子はデータベースや当時の本に載っていたので、その結末と共に新人類誰もが皆、教養として持っている。

当時のことを考えれば、この一種のヒステリー的行動は仕方なかったのかもしれない。

だって、考えてもみてくれ。

少し前まではたかが一国であった日本である日突然人間離れをした『異能』なる兵器を日本人全員が手に入れたのだ。

そりゃあ、日本を滅ぼしてでも、自国をその強大な脅威から守りたいと思っても何ら不思議ではない。

話を戻すと、まず、世界の各国は一時的な連合軍を結成することを表明した。

この時点では、日本の様子に半ばヒステリー気味になっていた中国や韓国、また、アジアの一部の国々以外では、その後のことを考えて核の使用は許可されていなかった。

連合軍は、ミサイル攻撃や、戦闘機、戦艦、戦車など持ちうる限りの全ての兵器を使って日本を攻撃した。

この攻撃で、日本人１０００万人と、連合軍の兵2億人の被害が最低でもあったとされている。

テレビの報道では、連日その様子が届けられ、日本の一般人が体を銃で撃ち抜かれている死体や、戦地だというのに不自然なほどになにもないところに積み重なっている連合軍の軍服、20階から上が消失している高層マンションなど、この戦争の大きさや、悲惨さを物語る場面がいくつも当時のテレビでは流れていたようだ。

最初こそまだ善戦とも言える様子の連合軍で合ったが、日に日にその状況は悪化していった。

家族を連合軍に殺された日本人は元が穏健派であった国民でさえも反世界連合となり、戦地日本での世界連合軍兵の死者数はどんどん増えていった。

ただ、この戦争の終結を決めた一手はなんと言っても、『５月１１日事件』であろう。

犯人は家族を殺された一人の青年女性であったとも、元々日本第一主義の過激派であった大学生程の男であったともいわれているが、兎も角『世界』はその事件が起きた日を境に『日本』を指す言葉に変わった。

　その日、迂闊にもワシントンでは世界連合の主な国の代表を集めた会議が行われていた。

午後１時４２分、ソレは起こった。

実際の現場を見たものがその場にいなかったので、あくまで結果のみしか知ることは出来ないが、使用人がとある国の代表に替えの水を取ってくるよう言われ、その場を後にしたが、会議室で悲鳴が聞こえたので急いで戻ると、その場にはその国々の代表の死体だけが残っていたとのことだ。

この事件は世界中にパニックを引き起こし、情報網が乱れた連合軍は日本に敗れ、その後も日本以外の世界の人々は文字通り一人残らず世界から姿を消した。

世界には日本人だけが残り、当時の日本の首都であった『東京』を中心に地上を支配したのだ。

ただし、戦争終了後、東京では、内紛やクーデターが頻発した。

幾度もの戦いが起きその結果物の強度を上げる技術などが上がり、東京は『ニュートーキョー』として生まれ変わったのである。