第2話殿!サイダーを飲む

さてさて、今夜はこの話しまで書いて、二本立てでござる。

それがしは島津家家臣の末裔まつえい、羽弦でござる。(これは、マジで) 

敵中、中央突破を図った我らが主君、島津義弘公は堺の港に出る途中の田舎の井戸に転落あそばした。しかし、家臣が井戸の中を探しても、義弘公のお姿は無く、家臣一同腹を召そうと考えたが、神懸かり的強さを誇った公の奇跡を信じ、家臣一同は薩摩藩に帰り申した。

さて、我が主君、島津義弘公はどこに消え申したのか?

それは、本文をお読み下され。


「パパ〜、ホントにここに、魚いるの〜。全然釣れないじゃん」

「慎太郎、釣りは根比べ。我慢していると、ヌシが釣れるんだ」

パパと呼ばれた男は、人材派遣会社に勤める岡田幸樹(35)。そして、その一人息子、大樹(10)。

2人は、愛知県南知多の海釣り公園でサビキ釣りをしていた。

この日は、快晴で時間は引き潮時。幸樹は諦めて帰り自宅をしていた。

「パパっ!見て!あのオジサン、何してるんだろ?」

大樹が指差した方を見ると、白い着物を着た、丸坊主の男がテトラポッドの上にあぐらをかいていた。

「大樹。春になるとあんな、パープリンがようけ出てくるもんだで、見ちゃあかんよ!」

「なんか、寂しそう。パパ、このサイダーをオジサンにプレゼントしたい」

大樹は、クーラーボックスを開いて、サイダーのペットボトルを取り出した。

「大樹、危ないからパパが渡してくるよ。ここに、いなさい。海に落っこちたら、わやだから」

「は〜い」 

幸樹はペットボトル片手に、白い着物の男に近付いた。

「あ、あの〜」

男は今、気付いたのか、

「な、何奴や?まさか、東軍の追手か?おはんの名をなのいやん」

幸樹は、声を掛けた事を後悔したが、ここまで歩いて来たんだ。名を名乗った。

「岡田幸樹です。オジサンは?」

「おじさん?とな。おじさんち、だいな?」

「あ、あなたです。あなたのお名前は?」

男は理解したのか、

「おいは、薩摩藩主、島津入道義弘や!」

「さ、薩摩藩。ここは、愛知県ですよ。鹿児島県じゃないです」

「あいちけん?秋田犬なら、知っちょいが、あいちけんは知らん」

「……どうでも、良いですけど、これお飲み下さい」

男はペットボトルを手にした。

「こ、こいが飲みもん?おいは、水が飲みたか」

「サイダーも水も飲みもんですから」

「こん中身はどげんして、飲んとな?」

幸樹はペットボトルのキャップを外し、男に渡した。男は、相当喉が渇いていたのかサイダーをがぶ飲みした。

「ちった、ねまった(腐った)水じゃ。じゃっどん、うんまかった。あがとさげもす」

「おじさんは、どうしてここに、そんな格好で座っとるの?」

幸樹は警察に連絡しようと考えていた。

「おいは、石田三成と共に徳川家康を討つはずじゃったどん、負けて、井戸んなけひっちゃえた(落っこちた)ら、こけおった(ここに居た)」

「パ〜パ〜、早く帰ろうよ!」

「ちょっと、待って!大樹!」

大樹は警察に連絡するため、話しを聴いていたが、この春の陽気で熱射病にならないように、手を差し出し車に乗せた。

「こん、箱はないな?」

「箱……、あ、あぁ、車です。今、冷房つけますから」

「れ、れいぼう?……うわっ、涼しか。こや、礼をせんな。薩摩に戻れば、おはんにお礼代わりに、指宿いぶすき温泉宿で酒宴をせんなら」

「パパ、誰?このオジサン」

「しっ!きっとテトラポッドで頭を打ったんだわ。これから、交番に連れて行く」

「おぉ、子どんがおった。名を何と言うとや」

「パパ、何て言ったの?」

「この、オジサンはお前の名前の事を聞いとるんだわ」

「だいき、大樹だよ!」

「ほう、よか名前じゃが。おいどんは、島津入道義弘じゃ」

「長い名前だね」

「みんなは、殿と呼んでおっど」

「わ〜い!トノだ!」

一行は、交番に寄る前に自宅に戻った。この、義弘なる御殿様と大樹を一緒に車に乗せて何かあれば大事件なので、名古屋市西区の一戸建ての駐車場で大樹を下ろした。

ついでに、義弘も降りた。裸足だったので、クロックスを履かせた。

白い着物は薄汚れていたので、幸樹はジャージを履かせた。

このオジサン、フンドシ姿だったのでトランクスも履かせた。

「幸樹殿、こん格好はないな?股ぐらが、スースすい(スースーする)」

「……ないな?」

幸樹はスマホで、鹿児島弁を検索して、

「これが今の時代の服装です」

「今、慶長何年な?」

「慶長?……今は令和です」

「何じゃっち?れいわ……?おいが戦ったのは慶長五年やっど」

「失礼ですが、島津さんはホントにあの、島津義弘さん?中央突破の?」

「な、ないごて、それを知っちょっとな!おいは、家康目掛けて突進して、逃げるさなけ井戸せえ、ひっちゃえて気が付けば、海んはたにおったとを」

幸樹は、マンガや映画の話しが実際あると言う事を少しずつ考え出した。

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