2001年5月3日 夜

 安藤から車を借り受け市内に戻ってきた俊介は、自宅に帰らずに適当なコンビニの駐車場に車を停めると、運転席に背を預け頭の後ろで手を組んだ。

 父親のいる家には帰りたくない。

 ただそれだけの事だった。

 だが起きてから何も食べていない俊介の腹は空腹を訴えている。少しだけ考えて、俊介は携帯電話を取り出して登録してある番号にかけた。

 数回のコールのあと、相手が出た。

「もしもし? 俊介かい?」

 祖母だ。以前は黒電話を使っていたが、最近、電話を買い替えたらしく、ディスプレイに相手の名前が表示されるようになっている。

「うん、俊介。ばあちゃん、今日は晩御飯食べに言ってもいいかな」

 俊介は簡潔に切り出した。だが中学の3年間、寝食を共にした祖母はその声色だけで事情を察した様子で、

「いいよ。おいで」

 と、優しく孫を受け入れた。

「ありがとう。これから行くよ」

 感謝の言葉を述べて電話を切り、シートベルトをつけてから俊介は駐車場から出た。

 祖父母の住む家は昭和町にある。

 借り物の車であることを強く意識し、いつもよりも丁寧に運転しながら街を走った。

 夜道は帰宅する車が絶え間なく左右し、流れに乗るように俊介もその中に交じる。

 俊介が急に祖父母の家に行くのは今日が初めてではない。家に居づらい時、俊介の駆け込む先はショウの家か、祖父母の家だった。

 両者とも俊介の事情を知っている。知った上で普通に接してくれる。とても、ありがたいことだった。

 10分としないうちに、俊介は祖父母の家に到着した。そして少し離れたところにある駐車場に車を止めると、車のキーを指で弄びながら徒歩で家に向かう。

 家の大きさ自体は実家と変わらない普通の平屋。だが、ある意味では実家以上に慣れ親しんだ玄関のガラスの引き戸が視界に入る。彼を向かい入れるかのように、電灯がついているのを確認して頬が緩んだ。

「ばあちゃん、じいちゃん、来たよ」

 遠慮なしに引き戸を開けて中に入り、一声かけて靴を脱いで上がり込む。居間まで行くと、祖父がちゃぶ台の前でタバコを吹かしてた。

「じいちゃん、タバコ止めたんじゃなかったっけ」

「おう俊介か。よく来たな」

 祖父は煙を吐き出しながら言った。俊介はその隣に座り、咳は大丈夫なのかと尋ねる。

「あれは軽い風邪だ。どこも悪くない」

「ばあちゃんに叱られるぜ」

「もうあきらめているさ」

 3月上旬に祖父は咳が止まらなくなって病院へ行き、そこで医者からタバコ禁止だと申し付けられたはずだった。だが今では何食わぬ顔でまたタバコを吸っている。

 年齢が70近いというのに祖父は壮健だった。呆ける気配すら見せない。若い頃、戦火に遭った函館の復興のために、造船場で働いて体力を付けたからだ、と子供の頃言われたのを思い出す。

「また敬司と喧嘩したのか」

「……喧嘩はしてない。居づらいだけだよ」

「そうか。あいつも何時になったら立ち直ることやら」

 灰皿に灰を落としながら祖父は呟いた。そこへ奥から、お盆に暖かい湯気の立ち上る食事を載せた祖母がやってくる。

 祖母は俊介の顔を見て顔をほころばせた。

「よく来たねぇ、シュンちゃん」

「ばあちゃん、いきなり来てごめん」

「いいよ、いいよ。さぁお食べ」

 言いながらちゃぶ台の上に食事を並べ、炊飯器からよそったご飯を手渡してくる。以前、ここに住んでいる時から使っていた茶碗だった。

 祖父と祖母の間に座り、テレビを見ながら食卓を囲う。

 箸を伸ばして食べた魚の煮付けは少し味が薄かったが、懐かしい味がした。一口食べると食欲が増したようで、次から次へと料理を食べていく。

「あとでお風呂沸かすから入りなさい」

「うん」

「ばあさん、俊介にはもう少し肉を食わせろ」

「いいよ。充分だよ」

 俊介は味噌汁をすすりながら、冷蔵庫にある豚肉でもう一品作ろうとする祖母を引き止めた。一人でする食事はあれほど味気ないのに、誰かが側にいるだけで全然違った。

「俊介、明日仕事はあるか」

「あるけど、昼から」

「じゃあ泊まっていけ」

 祖父の一言で宿泊が決まった。

 食事のあと短い食休みを挟んで、俊介は自分がかつて使っていた部屋に向かった。

 前にここに訪れたのは去年の10月だったのにもかかわらず、案の定、部屋の中は昔のままだった。この家だけ時間が止まっているような錯覚すら覚える。

 安堵感を胸に抱きながら、部屋の奥にあるふすまを開けて、そこに収納されていた布団を敷く。ズボンから財布や携帯を抜いて放り出すと、布団の真ん中で大の字になった。

 静寂が心地よい。実家で感じる静寂は、無言のうちに自分を圧迫する感覚があるが、祖父母の家にはそれがない。優しく包み込んで、受け入れてくれる優しさがある。

 目を瞑っていると、睡魔がゆっくりと寄り添ってきた。このまま眠ってしまおうか、と心の中で思うと、

「シュンちゃんお風呂湧いたよ」

 祖母がやってきた。

 俊介は祖母からバスタオルを受け取り、浴室へ向かった。全裸になってかけ湯をしてから湯船に浸かると、満腹感と相まってリラックスしてきた。

 浴槽はタイル張りで、ユニットバスに比べると深さがあった。普通に座っていると肩どころか唇の上までお湯が浸かってしまう程だった。その深さがもたらす適度な水圧が、心地良い。

 俊介は火照った頭でぼんやりと水面を眺めていると、ふと――

 様々な想い出が蘇ってきた。


 ※


 生まれも育ちも函館という父親の敬司は、タクシーの運転手を生業としていた。

 子供の頃に覚えている父は実に勤勉で、個人タクシーの開業を目指して、真面目に働いたと思う。

 母親は長万部おしゃまんべという港町出身だった。函館から車で約2時間ほどかかる、漁業が主産業という小さな町だ。母親はこの田舎暮らしに嫌気が差して、地元に比べれば比較的都会である函館で一人暮らししていたらしい。

 父親も母親も二人は特に接点もなかったが、お互いに上司の勧めによりお見合いして、結婚に至った。当時は珍しくもない普通の話だ。

 そうして出来た夫婦だが、夫婦仲は悪くなかった。むしろ良好と言えた。

 かたや独立を考えている真面目な青年で、妻は三つ編みを一本おさげにした穏やかな表情の女性。

 一人息子である自分――俊介が生まれてからは、父親は家庭と仕事の両方を大切にし、母親もまた息子を愛して、夫の働きを影から支えていた。

 平凡で当たり前の、なんでもない幸せな家庭。

 その時点では、父親のことをまだ尊敬出来ていたはずだ。だから俊介は、車に興味を持ったのだ。

 毎日、車に乗っている父親が羨ましくてしょうがなかったと思う。だからミニカーの玩具ばかり買って貰っていたのだ。

 それがどうして、こうも父子の仲が悪化してしまったのか。

 ある日、妙に父親の帰りが遅い日があった。その時に家に鳴り響いた電話のベルが、思えば崩壊の始まりだった。

 電話に最初に出たのが俊介だったから良く覚えている。電話の相手は父親だった。

 父親は一言だけ、母さんを出してくれと言った。

 言われた通り母親に変わると、父親と母親は受話器越しに少しだけ話し合い、そして電話を切った。

 母親がふらついた。慌てて立ち寄ると、廊下に突っ伏して三つ編みを肩から流し、目に涙を浮かべて母親は息子に言った。

 ――お父さん、交通違反で捕まったって。

 まだ幼かった俊介にはそれが何を意味しているか分からなかった。

 独立を目指してた父親にとって、それは致命的なダメージだったのだ。

 個人タクシーを開業するにあたり、二つ条件がある。

 一つは普通自動車第二種免許だ。これはタクシー会社で務めるのに必須の免許であるので、父親は既に持っていた。

 もう一つが問題だった。

 タクシー会社に勤めて10年間、無事故無違反であること。

 父親は後者の規定に触れてしまったのだ。

 それについて俊介は以前、自分のチーム──というより、ショウの面倒をよく見てくれる、定年間近の刑事にそれとなく事の真相を訪ねたことがある。

 刑事はハイライトの煙をくゆらせながら、「昔のことだから期待はするなよ」と断ってから調べてくれた。

 父親の一件はすぐに判明した。書類が残っていたのだ。


 その日、父親はサラリーマン二人組を載せた。まだ活気がある頃の大門周辺で、函館では見慣れない高級スーツを着込んだ、頭髪の半分に白髪が混ざった壮年の二人組。

 まだ日が沈む前の、少し明るい時間帯だというのに、二人組は最初から酔っ払っていたという。

 ガードレールにもたれかかるようにして手を上げてタクシーを拾い上げ、車内でもぎゃあぎゃあと騒ぎ、運転席を蹴り始めた。昭和の時代にはこういう手合の酔っぱらいが多く、敬司も慣れた様子で、軽く注意を促した。

 そこで二人組の様子が激変した。

 大声で罵声を浴びせながら運転席にまで手を伸ばし、父親の服に掴みかかってきたのだ。

 身に危険を感じた敬司は、やむを得ずに路肩に緊急停止し、会社に無線で助けを求めてから車の外へ転がり出た。

 サラリーマン二人も殴りかかってはこなかったものの、襟首を掴んで酒臭い息を吐きながら血走った目で詰め寄ってくる。

 タイミングよくパトカーが通りかかった時、父親は安堵したことだろう。

 だがパトカーから降りてくる二人組の警官を見た時、彼らは大きな声で自分たちが何者であるのかと、唾とともに大声で撒き散らした。

 彼ら二人は札幌からやってきた、北海道議会の議員であるという。

 強い影響力を持つ野党系の議員で、北海道警察の上部にも強いコネがあり、お前らなんぞ一声でクビに出来ると脅し始めたのだ。

 最初は反抗的な態度から自称「議員」二人を疑わしい目で見ていた警官だが、押し付けられた名刺を見て市警本部に確認してもらうと、様子が一変した。急に頭を下げ始め、丁寧語での対応になった。

 酔っ払いたちの言うことは正しかった。

 警官たちは一瞬だが悩み、無言のまま視線を合わせてすぐに答えを出した。

 一人の警官がサラリーマンに、どうして函館に訪れたのかを訪ねる。丁寧語を使いだした警官の態度が愉快だったのか、観光だ、と彼らは笑いながら答える。。

 その一方でもう一人は、敬司の前に立って帽子を被り直し、

「ここは駐車禁止なのは分かるな。現行犯だ」

 と告げた。

 緊急停止だと敬司は訴えたが、警官は聞き入れなかった。それどころか信じられないことを言い出したのだ。

「あの二人、本当に北海道議員だよ。もし訴えても揉み消される可能性のほうが高い」と。

 その言葉で、敬司の頭は真っ白になった。

 ──警官は、被害者の味方ではないのか?

 ──なんで俺が違反扱いなんだ?

 ──どう考えてもあの二人が悪いんじゃないか?

「あんたが引いてくれなきゃ、あの議員様も引っ込みがつかない。分かるだろう? 詳しい話はあの二人を帰してから署で聞こう」


 ──そこまで聞いて俊介は、話を止めてくれと懇願した。

 通常ならそんな事ではタクシーの運転手は捕まらない。だが、問題を起こした相手が強い立場の相手で、立ち会ったのが事なかれ主義の警官で、そして交通取締り強化の時期だったのだ。

 つくづく父親は運が悪いとしか言いようがない。

 交通安全週間だとか大層な名前を掲げているが、結局は警察の点数稼ぎだ。ノルマはないが『努力目標』があるという恐ろしく矛盾した体制で行われるそれは、些細な事でも理由をつけては違反者を検挙する。

 この検挙した際の罰金が、警察という組織の大きな収入源になっているので、絶対に警察は見逃さない。

 話を聞いているうちに思い出したのだが、父親は会社の重役と相談して警察署に出向いていた。背中越しからでも分かる異様な怒気を放った姿を、幼少の頃に見ている。

 だが一度青キップを切った以上、警察は非を認めなかった。父親は殴られる前だったので病院の診断書もなく、また、ドライブレコーダーが導入される前の話なので、全部作り話だと断定された。

 必死の訴えも虚しく、父親にはペナルティが課せられた。

「相手が悪かった」

 同僚の愚行に罪の意識を感じつつ、馴染みの刑事は低い声で続けた。

「もう退職してしまったその議員だが、あいつらは天下り賛成派の連中で、道警とも上手くやっていた。そもそも事件が起きた時、直前まで一緒に酒を飲んでいたのが、親父さんを捕まえた警官の上司だったんだよ」


 ――その日から父親が一変してしまった。


 再度、個人タクシーの開業資格を得るまでに、更に年月がかかる。

 ただひたすらに、誠実に仕事をして積み重ねてきた年月を、警察と政治家が一方的な権限で暴力的に奪ってしまったのだ。父親の苦悩は分からないでもない。

 父親は酒を飲みだした。家で暴れるようになった。母親がなだめるが聞かず、ついには暴力まで振るうようになった。常日頃真面目に生きてきただけあって、そのタカが外れた時の反動は凄まじい。

 仕事も休みがちになり、開業に向けてコツコツと貯めていた金も、酒とギャンブルで使い切った。

 立ち直ると信じて居た母親が倒れたのは、その矢先だった。心労がたたって倒れて、そのまま永眠した。

 さすがの事に父親もショックを受け、酒もギャンブルも辞め、再び真面目に働き始めたかのように見えた。

 見えた――というのは、父親は以前の人間らしさを失い、ただ仕事だけをする機械のような存在になってしまったのだ。それが傍から見れば、改心したように見えたのだろう。

 仕事だけを機械的にこなし、愛したはずの息子の面倒すら拒否する父親は、もはや自分以外の全てを疎ましく思う存在に成り果てていた。愛の反対語は憎しみではなく無関心だと言われているが、日常を、妻を、息子を愛していた父親は、まさしく全てを裏返したように無関心になっていた。

 俊介が中学生になってから、見かねた祖父母が一時的に俊介を引き取った。

 俊介は父親の存在を恥じ、祖父母に迷惑をかけていることが心苦しくなり、せめてお金だけでもと新聞配達を始めた。朝と夕に仕事する俊介に、普通の中学生のように部活で汗を流し、青春を謳歌する事はなかった。ショウ以外に、俊介の孤独を理解する者はいなかった。

 3年間、俊介は働いた。そして得た給料はすべて祖父母に渡していた。

 中学を卒業するにあたり、俊介は自分の面倒は自分で出来ることになったと祖父母に告げ、実家に戻り高校生活を始めた。そして時には祖父母に家に頼りながらも、俊介はかろうじて高校を卒業出来る年になり、免許を取得出来る年齢になった。

 函館という中途半端な街では、なにをするのにも車が必要となる。学校に届けられる求職表の資格欄には、要普通免許と必ずあった。何よりも、走り屋になるために車は必要だった。すでに相川から運転を教えられて俊介は、普通に走るだけなら問題ない腕前になっている。

 問題は、自動車学校に通うための資金だ。

 だが父親に相談したところで、どうにかなる問題ではない。クラスメイトは親から免許を取るように言われて通っているのがほとんどで、資金的な面では問題なかった。しかし父親の頭はもう、俊介のことなど考える余地などない。自分で稼げ、と一言で切り捨てられるのが関の山だろう。

 俊介は苦悩の末、免許を取りたい、と祖父母に告げると、祖母は厚みのある封筒を俊介に手渡してきた。

 中を見ると全て万冊だった。数えると200万はあった。

 ――これはシュンちゃんのだよ。

 祖母は優しく言った。それは全て、俊介が中学生の頃に働いて稼いでいたお金だったのだ、と。

 俊介はその時、声を上げて泣いた。


 ※


 水面に波紋が立った。

 気づけば俊介は涙を流していた。手の甲で汗を拭うと、顔が異様に熱い。物思いにふけっているうちに、すっかり湯当たりを起こしてしまったのだろう。

 慌てて風呂の縁を掴み、倒れないように注意しながら湯船から上がった。予想通り目眩がする。

 風呂場から出て脱衣場に出ると、わずかな涼しさを感じて意識がハッキリしてきたようだ。バスタオルで頭を拭き、全身から滴る水滴をぬぐい取る。シャツとパンツだけというラフな格好のままで部屋に戻った。

「俊介、顔真っ赤だな。湯当たりしたか」

 途中ですれ違った祖父に言われた。

「うん。ちょっと部屋で休んでる」

 あらかじめ敷いてあった布団に五体を投げ出す。身体に残る気だるさを感じながら、仰向けに寝返った。

 5月というのが幸いだった。まだ夜風には寒さが残り、暖房をつけていないこの部屋は快適な程度に涼しくあった。

 ――何を思い出していたんだ、俺は。

 額に手を載せてぼんやりと思い出した。過去を振り返るのは好きではない。過去にすがって亡霊のようになってしまった男が既に一人、身近にいるではないか。

 少し夜風を入れようと身体を起こし、窓に手を伸ばす。その時、風呂に入る前に放り投げた携帯電話が目に入った。着信を知らせるライトが光っている。

 左手で携帯電話を拾い上げ、右手で窓を開けると、壁に寄りかかってメールを確認する。差出人は相川だった。

「相川さん? 何の用事だろう」

 思わず呟きながらその内容を読んでいくと、全身に鳥肌が立っていくのを感じた。

 内容はレースの具体的な詳細についてだった。


『22時からレース開始。それぞれ代表の5人を出し、大沼半周コースで2人同時にタイムアタックをする。それを5人分繰り返し、合計タイムが短い方が勝ちとなる。

 函館の代表者は、相川、速見、照井、安倍川、米村の5名』


 どれも函館の走り屋の中でも粒ぞろいの連中だった。安倍川、米村の二名とはあまり面識がないが、それぞれ函館山や城岱で名を馳せている。照井はチューンナップされたシビックに乗り、俊介らと同様に大沼中心に攻めている仲だ。実に強力な布陣だった。以前から決まっていたことだが、こうやってメンバー全員が確定すると気持ちが引き締まる。

 あるいはこれなら勝つことも出来るかも、と期待を高ぶらせながら、メールの続きを読む。そこで俊介の目は釘付けになった。


『なお雑誌社からの提案で、新車であるランサーエボリューションⅦとのエキシビジョンマッチが行われるが、こちらは速見で勝負をする』


 携帯電話を握る手に力が入り震えた。恐れではない、武者震いだ。

 ヒロシが乗るランエボⅦとの決着をつけろ、という相川の激励だろう。

「いいぜ相川さん」

 俊介は口の端を釣り上げ、攻撃的な笑みを浮かべた。

「今度こそ、負けない……!」

 だが今の自分に、それが果たして可能なのだろうか。

 窓越しに夜空を見上げたが、胸の奥にある焦りはまだ燻っていた。

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