〜地下迷宮レストラン〜 最後のシフト編

〜地下迷宮レストラン〜 最後のシフト編


「本当にありがとう!あなたが、いてくれたおかげで、無事にやって来れたわ。」

店長のマーヤは、寂しげな笑顔を見せた。


ウェトレスの制服から、私服に着替えてきた店員は、店長に頭を下げた。

「なにもしてませんよ!店長。わたしこそ、いつもお手数をお掛けして、申し訳なかったです。」


すると、入口からランチェスターが入ってきた。

「おつかれっす!」


あまりの美しさに、動作が止まるランチェスター。


「は、はじめまして!店長のお知り合いで、でしょうか?」

固くなり、言葉も、しどろもどろだ。


「お世話になりました。いつもありがとうね!」


マーヤは、笑いながら、

「エリスよ、エリス!昨日も、シフト一緒だったわね。」


「エリスって、え!?ヴァンパイアリーダーの!?」

ランチェスターは、思わず、瞬きをした。


「そうです。本当にありがとうございました。」

エリスはあらためて、ランチェスターにお辞儀をした。


店長は、思い出しながら言った。

「エリスは、エルフ族で、とてもかわいらしいから、お客さんから可愛がられる半面、いろいろ大変らしくて、面接の時にね、擬態してもいいかって聞かれたの。」


照れくさそうな笑顔のエリス。


「それで、ヴァンパイアリーダーに!?」

ランチェスターは鼻息が荒くなった。


「そうなの。その方が、お客さんから、業務以外に話し掛けられたり、ストーカーもいなくなると思って。」

エリスは、緑の細い眉毛をハの字にして、口を尖らせながら言った。


ランチェスターは、一度深いため息をついてから言った。

「はあーっ!そうか、そんな悩みもあるんすね!」


「エリスさん、初対面に、俺の研修担当だったじゃないすか?あの日、初日にマジ怖くて、トイレで泣いたんです!もうやめようと思って。」


「ごめんなさい!擬態強めにしてたかも。」

エリスは、申し訳無さそうに言った。


「そんなことがあったの!?」

マーヤも、驚くばかり。


キッチンのカウンターの上の電話が鳴った。

スピーカーフォンに切り替えるマーヤ。

「はい、マーヤよ。」


「あの店長、8階の5区14の37テーブルで、キメラコンボスナックが不味いから、無料にしてほしいと、ゴブリンが。」

ウェトレスのセレンからだ。


「キメラコンボスナックは、お客様には、お気に召さなかってことかしらね。」

マーヤは、目線を上に上げて尋ねた。


「それが、12人、ほとんど全員食べ終えていて。」

とウェトレスのセレン。


「わたし、行って来ましょうか?」

エリスは、いつものことのようにマーヤに言った。


「本当?悪いわね。エリスなら、このくらいのクレームは、すぐ解決してもらえるから、ずっと助かってたのよ。聞こえた?セレン?」


「エリスさん、まだ店に居てくださってたんですか?」

とセレン。


「もう少し待ってね。」

マーヤは、電話を置いて、エリスを見て言った。

「エリス、助かるわ。」


「すぐ行って、戻ってきます。」

いきなりエルフから、ヴァンパイアリーダーへ、擬態を始めるエリス。


目が血走り、腕に血管が浮き出て、牙が生えたエリスは、後ろを振り向くと、

しゃがれた声で、

「不味いだったら、食べんなよ!」

と階段を降りて行った。


ひっくり返って、腰を抜かしているランチェスター。

「俺、マジで、女性不信になりそうっす!」



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