物語はほとんど何も進まない、僕らの会話録

貼絵とんぼ

1話目 電車から降りて、帰路につく

 十一月。全国を襲った猛暑も流石にこの季節になるとその勢いを弱めていく。緩やかになっていく季節の移りめとは逆に、僕の心はゆっくりと冷えていくを感じる。これから僕の心は真冬の到来だ。あれ?じゃあ季節と並行しているな。なんなら十一月はすでにかなり寒い。

「受験、順調?」

 まだ冬本番というわけでもないのに、すでにもこもこの手袋を両手にはめた幼馴染が僕にそう問う。これが女の子ならまだ可愛いかもしれないが、相手は小太りの男だ。僕からしてみれば可愛げもクソもない。

「受験が順調かっていうより、受験”勉強”が、だろ。まあ全然ダメだ。家に帰っても集中できないし、かといって図書館に行ってみてもまるで捗らん」

 つまらない揚げ足を取りつつ、幼馴染の質問に答える。図書館がダメなら喫茶店はどうだろうといつも思うが、高校生の僕にそれはハードルが高い。

 僕の返答に対して特に反応を示さない幼馴染のために、一応こちらも話をふる。

「お前は?健吾。受験勉強は捗ってんの?」

 僕がそう聞くと健吾はなぜか「いやあ」とうっすらニヤけて、それでそのままベッタリ窓の外を向いて黙ってしまった。こいつのたまにある意味の分からない行動に、僕はゾッとしたりするわけだが、それでもこいつのことを気味悪がって離れていかないのは、僕に他に友達と呼べる存在がいないのもあるが、こいつが幼馴染だということもあるが、それより一番の要素はやはり、健吾が小太りだからだろう。小太りは全ての要素をなんとなく緩和させる。

 健吾はしばらく黙ったまま窓の外を見て、僕も黙って携帯をいじったりしてた。夕焼けが、僕の目を細くさせる。

 やがて電車は僕らの最寄り駅に着いた。ドアが開くと、僕も健吾もホームへ降り立つ。改札を出ても、ずっと隣を歩く。家が近いから。

 しばらく黙って歩いていると、健吾がおもむろに口を開いた。

「ぼくさ、アメリカの大学行こうと思うんだ。まだ誰にも言ってないぜ。あ、親には言ったけど。真琴だから言うんだ、ぼくら、親友だからな」

 健吾はゆっくりそう言うと、「まだ誰にも内緒だぜ?」

そう言って笑った。

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