第5話

 栃木に来てわずか一ヶ月。もう馴染み始めたのは、ここが故郷の地に似ているからだ。豊かな自然と、美味しい空気。だがそれ以上にあたしは、毎年行っていた故郷に近い、ある渓谷を思い出す。激しい急流、雪崩の穏やかなところでは、並が撃つようにしぶきが、水の流れを示していた。

 だけどその中でも、また作業はしていて、それは変わらなくて。前のところを考えては、だけど振り返るなと、自分に言い聞かせて、少しずつ慣れていく方法を捜していた。だけどそれができれば、きっと前に進めるのかは、解らなくて。

 帰りたい思いだけは、ずっと持っている。故郷に帰りたい。今各地で頻発している地震。それと同時に、悲しいニュースも、テレビで絶え間なく、流れていた。だけど、あたしはそれだけじゃないと、自分に言い聞かせていた。

「帰れるから、絶対に。いつかまたあの渓谷に行くんだ」

 そう自分に言い聞かせて、あたしは歩くと決めて、ここに来た。ただ良かったこともある。病状が安定し始めて、またあたしは小説を書ける環境を手に入れた。だからもう一度、あたしはやりなおすことを決めて、ようやく慣れ始めたこの自然の中の夜に、今日は報告だけ書こうと決めていた。

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