第2話(2)神主のお礼参り

「え?」


「え?じゃない」


「僕、何かやっちゃいましたか?」


 天空が腕を組んで首を傾げる。


「すっとぼけるな……先輩隊員どもをやったのは貴様だろう?」


 小柄な女性が睨みつける。


「やったって……訓練の一環ですよ」


「訓練だと?」


「ええ、そのようにお誘いを頂いたので……」


「ふむ……だが、あそこまでする必要があったのか?」


「遠慮するな、本気で来いって言われたものですから……」


「そうか……」


「ご納得頂けました?」


「まあな……」


「それは良かった」


 天空は笑みを浮かべる。


「だが……」


「だが?」


「このままやられっぱなしでは第一部隊の沽券に関わる……」


「コケン?」


 天空が首をやや傾げながら傍らの雪を見る。雪が小声で囁く。


「プライドのようなものよ……」


「ああ……」


 天空が頷く。


「やられたらやり返さなければな……」


「神主さんがお礼参り……逆じゃないですか?」


「ふっ……本官は神職でもあるが、ゲートバスターズの一員でもある……」


「ふ~ん、そういう論理ですか……」


「不服か?」


「いえ、別に……」


「ならば……」


「ええ……」


「ちょ、ちょっと待って下さい!」


 雪が二人の間に割って入る。天空が首を捻る。


「なんだよ、雪っぺ?」


「ゆ、雪っぺ言うな!」


「じゃあ、雪」


「! よ、呼び捨てすんな!」


 雪が顔を赤らめる。


「どっちだよ……」


「ア、アンタの好きなように呼べばいいわ……」


「う~ん、じゃあ、雪之丞」


「第三の選択肢⁉」


「あだ名のセンス良くない?」


「良くないわよ!」


「そうかな……それじゃあ……」


「あだ名はやめて!」


「雪っぺで良い?」


「あ~良いわよ、それで!」


「そっか」


「って、そんなことはどうでも良いのよ!」


「自分から話をそっちに向けたんじゃん」


「うるさい! アンタ、あの人が誰だか分かってんの?」


「……誰だっけ?」


 天空が首を傾げる。


佐々美葉ささみようさんよ! 第一部隊の次期エースとして期待されている人よ!」


「巫女さんのコスプレイヤーじゃなかったんだね」


「なんてことを!」


「それに次期エースって……今エースじゃなくていつエースになるのさ?」


「黙りなさい! 本当に強いのよ⁉」


「へ~人は見かけによらないねえ~」


 天空が雪の肩越しに葉を覗き見る。


「そうよ!」


「なんか、マスコット的な感じじゃない?」


「ま、まあ、ちっちゃくて可愛らしい感じだけど……」


 雪が振り返りながら同意する。


「……聞こえているぞ」


 葉が顔をしかめながら呟く。雪が首を傾げる。


「へ?」


「へ?じゃない。急に痴話喧嘩じみたものを始めたかと思えば、人をマスコット扱いとは……揃って良い度胸をしているな」


「い、いや、そういうわけでは!」


 雪が慌てて両手を左右に振る。


「ではなんだと言うのだ?」


「え、えっと……」


「今のは夫婦漫才です」


 天空が口をはさむ。葉が頷く。


「なるほど……」


「め、夫婦って! そ、そんな……」


 雪が先ほどよりも顔を赤くする。元々色白なだけに、変化が分かりやすい。


「雪っぺ、何を照れてんの?」


「て、照れるでしょ、それは……!」


「冗談だって」


「じょ、冗談?」


「そっ……うおっ⁉」


「冗談でわたしの心を弄んだのね……」


「ゆ、雪っぺ……まるで鬼のような顔になっているよ……」


 天空が狼狽える。


「それは鬼にもなるわよ……!」


「ちょ、ちょい待ち! ちょい落ち着こうか!」


 天空が雪をなだめる。雪が天空に迫る。


「それは無理な話ね……」


「ちょ、ちょっと待って!」


「待て! 宙山隊員! 雷電隊員に用事があるのは本官だ!」


「!」


「ここは大人しく引き下がってもらおうか?」


「そういうわけにも参りません!」


 正気を取り戻した雪があらためて、二人の間に立って、両手を広げる。


「なんだ、止めようというのか?」


「やめとけ、雪っぺ、巻き込まれて手足がもぎれるぜ」


「ひっ⁉」


「さすがにそこまではしないが……」


 葉と天空の距離が徐々に近づく。気を取り直した雪が声を上げる。


「こんなところでケンカとは、上にバレたらマズいですよ!」


「バレないようにやるさ……」


「同感ですね……」


 雪と天空が向かい合う。

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