★巨大タコが生まれた理由
「君は何者だ。地球のタコと何か関係があるのか?」
レオンの問いかけに、巨大タコは冷たい目で返すだけだった。やはり、タコの言葉でなければ伝わらないのか。しかし、このタコをパパ呼ぶクモの少女は、地球言語を話していたことをレオンは思い出した。少女がタコと話せるのなら、レオンの言葉も伝わる可能性はある。レオンは言葉を続けた。
「君は異種融合器を盗んだ。それを何に使う気なのか教えてくれないか?」
タコは何も答えなかった。ただ、触手を大きく地面に振り下ろして、威嚇するばかりだ。レオンは、怒鳴るようにタコにむかって訴えかけた。
「あの少女に何をしたんだ! 地球人とクモの体を持つ女の子。そんな体をもつ生物はこの宇宙にはいない。君が異種融合器で作ったんじゃないのか!」
少女。その言葉に反応したタコは、一本の足を長く伸ばした。レオンは足の動きに注意して、一歩後ずさる。タコの足は、脳波放送機に巻き付いた。すると、レオンが被るヘルメットのスピーカーから声が聞こえた。その声は目の前のタコだ。
「異種融合器、すばらしい装置だ。あれのおかげでこの体を手に入れた。この体なら、食べられることも、利用されることもない」
「つまり、その姿はハイパーメント星人に改造された結果か?」
タコは巨大をずるりと引き寄せた。触手がもう一本、装置に絡みつく。
「ハイパーメント星人、そう呼ばれているのか。そうだ。奴らに実験台にされた。再生する私の体を喜び、何度も何度も繰り返してきた」
タコはレオンによって細工された足を根元から切り離した。すると切ったところからじわじわと新たな足が生え出してくる。
「実験、実験、実験。この宇宙の生き物は、私のことを実験材料として見てこなかった。私を狭い場所に詰め込み、宇宙へ飛ばした人間。長期実験のために寿命を延ばしたゲーミング野郎。ああ、なつかしいね」
タコはさらに体を寄せて、レオンに近づいてきた。山のように大きなタコがレオンを見下ろしている。レオンはごくりとつばを呑んだ。
「宇宙人どもの研究室から逃げ出したとき、あの子に会った。彼女は友達だ。仲間のいない私の側にずっといてくれた。一緒だと寂しくなかった。だが、彼女の寿命が短いことがわかってなあ」
「それで、異種融合器を使ったのか」
「そうだ」
タコはレオンの目の前にいる。体を起こして、大きなくちばしをカチカチと鳴らしていた。
レオンはタコの話の中で、わからないことがあった。少女の寿命を延ばすために、なぜクモと合体させたのか。もっと寿命の長い生き物はいくらでもいるはずだ。同じ八本足に惹かれたのか。でもそれなら同じ海の生き物のカニでも良さそうな気もする。レオンがそんな考えを巡らせていると、タコはレオンにある提案をしてきた。
「宇宙人の犬になった人間よ。私のところまで来た理由はわかる。あの子の殺人の件だろう? あの子が生きていくためには、体液をすする以外ないのだ。哀れな彼女のために目をつむって欲しい。そうしてくれるのなら、異種融合器を返そう」
「レオン! 事件から手を引こう。さっさと異種融合器をもらって帰るぞ」
無線からシャドウの声が聞こえてきた。どうやら宇宙船で会話を聞いていたようだ。
「それは……」
レオンは言葉が詰まった。少女は罪のない宇宙人を殺している。それは彼女が生きるための行動だった。しかし、ここで見逃しても、今後被害者は増えていくのだ。少女の運命に同情しても、彼女を見逃すことはできなかった。
「彼女を普通の子に……」
レオンがひねり出した答え、融合された体を元に戻す。そうレオンが言おうとしたときだ。タコは言葉の続きも待たずに豹変した。皮膚を真っ赤に変化させると、体を大きく広げたのだ。
「あの子に死ねというのか! 食べることを禁じ、理想の体を手にすることも許さないと! やはり人間はクソだな」
タコはレオンに襲いかかってくる。スミを吐き飛ばし、足でレオンを捕らえようとする。
「おい、なんで怒らせたんだよ」
とシャドウから無線が来る。
「急に怒りだしたんだ。それより、助けてくれないか?」
レオンは、吸盤に吸い付かれないように注意しながらタコの足を踏みつけた。反動でジャンプすると、体が浮かび上がる。別の足がレオンを狙った。レオンは剣を握ると、その足を切り裂いた。しかし、切っても生えてくる足だ。もう、本体を狙うしかない。そう思って、レオンはタコの目を見つめた。その時、不思議な光景が目に飛び込んできた。
うねうねと動き回っていたタコの足が、動かなくなったのだ。その足は、後ろに引っ張られているかのように、空中で止まっている。いや、実際に引っ張られていた。タコを拘束する足先から、キラキラと光る細い糸が遠くの山まで伸びていたのだ。その糸の上から、クモの少女がゆっくりと降りてきた。
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