★救出へ

「シャドウ! どこだ! シャドウ!」


 レオンはアミューズメント施設に入ると、大声で呼びながら探した。銀河姫を救うにはシャドウの力がいる。モルベリオスという組織についても、シャドウのほうが詳しいはずだ。カジノエリアに入り、同じように探し始めると背後から頭を叩かれた。


「おい! うるさいぞ!」


 探し求めていたその声が聞こえた。レオンは振り返るとすぐにシャドウの肩を捕まえた。


「彼女がモルベリオスに連れて行かれた! 手を貸してくれ!」


「外の騒ぎはそれか。モルベリオスか……」


「なにか……わからないのか?」


 レオンは焦る気持ちが抑えられず、シャドウの肩を激しく揺らす。シャドウは揺さぶられているのも気にせずにレオンに質問した。


「どこの派閥かわかるか?」


「派閥?」


 レオンは動きを止めた。モルベリオスに派閥があるとは知らなかった。


「派閥なんてあるのか」


「宇宙警察がそんなことも知らないのか?」


「俺、巡回担当だし……」


 閲覧する権限もなかったと心の中でレオンは言い訳した。襲ってきた連中の顔を思い出す。武装してほとんどがよくわからなかったが、一番目立つ男の姿は覚えていた。


「たしか、うさぎみたいな男がいたな」


「うさぎ? 薄茶色のふわふわボディーか?」


「ああ、そうだ」


「なるほど、そいつはトリアーだな」


「トリアー?」


「離反のトリアー。トリアーは自分が王になりたいタイプでな。他の派閥と仲が悪い」


 シャドウは「付いてこい」と身振りで示し、歩き出した。


「場所を知っているのか?」


 シャドウを頼って良かったとレオンは安堵したが、シャドウから帰ってきた返答は耳を疑うものだった。


「知らないよ」


「何だって? なら、どこに行く気だよ」


 さっさと歩き進めるシャドウを追いかける。何か考えがあるのか。それともからかっているのか。レオンは銀河姫のことが気になって仕方がなかった。落ち着かないレオンと違って、シャドウは楽しそうだった。


「トリアーの居場所を調べるならモルベリオス内部に聞けばいい。互いに監視状態だからね」


「どういうことだ?」


「苦労して手に入れた宝を横取りされたら、誰だって黙っていない」


 最初に銀河姫をさらったモルベリオスと、トリアーたちは別グループだった。そして、そのモルベリオスを利用してトリアーたちの居場所を突き止めようというのだ。シャドウは歩きながら作業をしている。レオンはその様子を見ながら、シャドウは何者なんだと改めて疑問に思った。


「お前の彼女を最初にさらったのは、この懸賞金をかけてきたところだろう」


 シャドウはお尋ね者リストの画面を出した。レオンの顔写真がでかでかと載っている。必死で余裕のない顔だ。もっとマシな写真が良かったとレオンは心の中で思った。


「たしかに、ワープステーションで会ったモルベリオスの宇宙船は立派だったな。トリアーもいなかったし。それで、この懸賞金を出しているモルベリオスの居場所はわかるのか?」


 今度のレオンは半信半疑で聞いた。また知らないという返答だろうと思っていた。


「これからわかるさ」


 シャドウは得意げに十二面体の物体を取り出すと、ガスマスクからフッと息をもらした。片手に収まるほどの大きさで、複雑なグラフと数値がリアルタイムで動いている。


「何だそれは?」


「宇宙連合や宇宙警察の宇宙船からの信号を受信する装置さ。逃走用に作った。これで宇宙船の場所と経路がわかる」


 レオンはシャドウの作った装置を見てため息をつかずにはいられなかった。指名手配犯のシャドウはこの装置を使って逃げ回っていたようだ。高い技術を持ちながら、己のために悪用していることに無念さがあった。しかし、銀河姫を救うために必要なものでもある。


「俺はそれを押収するべきだろうが、今回は目をつむるよ。だが、それでモルベリオスの居場所がわかるのか?」


「あいつらは大嫌いな宇宙連合の宇宙船を利用するのが大好きだからな。この装置が役に立つ。お前も見たことあるだろう? わざわざ連合の宇宙船を盗んで、マークに罰点つける。それが彼らの生きがいなのさ」


 駐車場にたどり着くと、レオンの宇宙船車にシャドウは乗り込んだ。シャドウはモニターに先ほどの十二面体の機械を接続すると、嬉しそうに手をこすり合わせた。


「トリアーの裏切り情報を流した。さあ、内部抗争の見物に行こうか」



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