第47話 PHASE5 その3 冬馬にとって家族とは?

朱美の部屋では落ち着かないので、3人はリビングへと移った。

何となく夏子からジト目で見られているような気がするが、気のせいだろうか?


「お姉ちゃん。もう冬馬くんに手を出さないでね」

夏子は当然というか、まだ怒っているようだった。

「……わかったわよ」

「本当に?信じて良い? もし何かしてきたら、その時は覚悟しといてよね!」

((こわ!? ))

冬馬と朱美の二人は、心の中でシンクロしていたかもしれない。


「それよりも、夏子はお母さんとの買い物はもういいのか?」

「うん、もう終わったよ。それよりも冬馬くんにすぐに会いたかったから、

大急ぎで来ちゃった♡」

さっきまでの鬼の形相はどこへやら、夏子がとびっきりの可愛い笑顔で答えた。

((天使だ! ))

冬馬と朱美の二人は、心の中でシンクロしていたかもしれない。



「さて、冬馬君を早く弟にしたいと思っているんだけど……」

「お姉ちゃん、真面目に話そうよ」

夏子は、真面目に話そうとしない姉に少々呆れていた。

「あら?大真面目な話よ。夏子と冬馬君が一緒になる為には、

冬馬君の家族にも認められないといけないでしょ?

でも冬馬君は家族を嫌っているって聞いたから」


確かに冬馬は夏子に自分の家族を嫌っている事を何度も話している。

最初は仲の良かった冬馬の家族も、ある事がきっかけとなり

バラバラとなってしまった。冬馬は大学進学も考えたことがあったが、

結局、早く家から離れたいと思って就職の道を選び、

すぐに家を出て実家から離れた所に引っ越しをしたのだった。

それ以来、実家への連絡も最小限にしているし、

実家に遊びに行くこともなかった。


しかし夏子と結婚したいと思うならば、親との話し合いは必要となって来るだろう。

「冬馬君、どう?あなたの家族と仲直り出来そう?」

「まだわかりません。簡単にはいかないと思いますけど」

「そうよね、難しいわよね。でも冬馬君なら大丈夫!私が保証するわ!」

朱美は自信満々で言うが、夏子は不安そうな表情を浮かべていた。


「お姉ちゃんの保証って信用出来ないんだけど……」

「あら?酷いわね。私だってやるときはやるんだからね。

冬馬君、まずはお父さんとは話は出来ないの?」

「あ、それは絶対無理です」

「え?どうして最初から諦めてるの?」

「だって、父親が離婚して出て行った時、

自分どころか母親にもどこへ行くのかも伝えなかったし。

オマケに携帯の番号も変えてしまったから、連絡のつけようがないんです」

「……」


流石にこれではどうしようもない。

父親の事は置いといて母親の話にした方がいいと朱美は判断した。

「じゃあ、お母さんの方はどう?話をつける事が出来そう?」

「正直、自信はないですね。母親は自分が就職で家を出た後に再婚して、

今は実家には再婚した父親と連れ子がいるから顔出しづらいんですね。

母親の再婚に関しても、新しい父親がどういう人かも確認しないで

『いいよ』って言ってしまったから、どんな顔して実家に行っていいのやら……」

「……」


どうやら、思っていたよりは根が深い問題だと朱美も夏子も感じていた。

事を急いで話を拗らせるよりは、じっくりと時間をかけて

話を進めた方がいいのではというのが、3人の共通した見識だった。

冬馬自身、どちらかというと夏子の家族の方が話が拗れると思っていただけに、

ここまで上手く話が進むとは微塵にも思っていなかった。

やはり冬馬の両親の問題、どのように糸口を掴んでいくか。

そしてまたしても石塚さんの言葉が頭を過った。


(一人でするのではなく、時には誰かに頼る事も必要か)

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