第40話 PHASE4 その6 水族館も悪くないかも
3人は水族館の入り口でチケットを渡して館内に入った。
中は薄暗く、涼しい空気で満ちていた。
「わぁ~魚がいっぱいいるぅ~」
夏子は目をキラキラさせて周りを見渡している。
安藤さんは初めての水族館に興味津々だった。
二人は水槽の中を覗き込むようにして見ていたり、
珍しい魚を見つけてはしゃいでいた。
そんな二人の様子を微笑ましく見ている冬馬だったが、
自分も魚をじっくりと見ていた。
「冬馬くん、あっちの水槽に行こうよ」
そんな中、夏子は冬馬の手を引いて歩き出した。
そんな様子を見た安藤さんは羨ましそうに二人を見ていた。
(いいな~)
暫くして3人は大きな水槽の前に来ていた。
そこには様々な種類の魚が泳いでいた。
「ここで石塚さんに見せる写真撮ろうか。
多分、ここなら撮影大丈夫だと思うから。夏子、スマホ渡すから撮って」
「あいよ~、夏子さんに任せなさい!」
夏子は冬馬からスマホを受け取ると、水槽をバックに二人並んで写真を撮った。
「これでOKだね」
「ありがと、後で夏子にも送るよ」
「ありがと、冬馬くん」
安藤さんは二人の様子を見て羨ましそうにしていた。
そういえば、元カレとはこんな親しげな事もしてなかったなと思い出した。
「ほら、美里ちゃんもこっちに来なよ~♡」
夏子に呼ばれて安藤さんはハッとしたように動き出した。
そして3人で並んで自撮りをした。初めての3人の写真。
何だ、結構笑えているじゃん。夏子といると楽しく感じる安藤さんだった。
「じゃあ、次に行こうか」
冬馬と夏子は安藤さんの手を引いて次の水槽に向かった。
「ここは……、クラゲの水槽?」
冬馬が目を見張ったのは、一面に泳ぐ大量のクラゲの水槽だった。
これだけの量のクラゲを展示する水族館は珍しいと思う。
「………」
冬馬は、我を忘れてじっとクラゲの動きを見ている。
水の中を優雅に泳ぐクラゲの姿に魅了されるとは、冬馬自身、全く思っていなかった。
何だか心を癒される感じがして、うん、いつまでもじっと見ていたい。
冬馬はそう思っていた。
「冬馬くん……?」
夏子はクラゲをじっと見ている冬馬の姿を眺めている。
(冬馬くん、そんな表情もするんだ?)
よく考えたら、まともに遊びに行くデートもした事がなかったんだっけ。
まだ見ていない冬馬の表情は沢山あるはずだ。
安藤さんはそっと冬馬に近づいてみた。
冬馬は安藤さんに気が付かぬまま、クラゲを眺めている。
夏子はそんな冬馬の横顔を見ながら一緒に近づいていった。
それでも冬馬はクラゲに夢中になっている。
「おーい、冬馬くん!」
夏子が耳元で呼ぶと冬馬はビクンとした。そして慌てて返事をした。
「あ、ごめんごめん。つい夢中になっちゃったよ」
「このクラゲ、面白い?」
夏子は興味深そうに聞いていた。冬馬は慌てて答えた。
「そうなんだよ、なんだかすごく綺麗でさ……」
安藤さんはそんな二人を見ていて思う。
(でも何だろう……二人ともお似合いだし……でも、夏子さんとも仲良くしたいなぁ)
「あ、あのぉ……」
「ん?何?」
「……いえ、何でもないです」
安藤さんはそれ以上何も言わなかった。
冬馬と夏子の仲の良さに嫉妬している自分が恥ずかしかった。
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