第33話 PHASE3 その6 好感度、高くない?
「それでは、本日はこれで失礼いたします。
お時間をいただきありがとうございました」
そう言って頭を下げると、夏子もお辞儀をしたのだった。
「あら?折角いらしたんだから、晩御飯ぐらい食べていかない?」
夏子の母からの提案に冬馬は戸惑った。
「いえ、お構いなく…」
「遠慮しなくてもいいのよ?カレーだけどいいかしら?」
夏子に負けず劣らずというか、流石親子だというべきだろうか、
夏子に負けず夏子の母も押しが強かった。
「別に用事があるわけじゃないでしょ?一緒にご飯食べましょ♡」
ここまで言われたら冬馬には断る事が出来なかった。
「わかりました。ご馳走になります」
冬馬は今一度、頭を下げた。
夏子の父親は、何も言わずに自分の部屋に戻ったようだった。
「それじゃあ、準備してくるから待っててね」
夏子の母はそう言うと台所に向かうのであった。
「なんかごめんね……お母さんが強引な人で……」
と申し訳なさそうに言う夏子に対して冬馬は、
「いや、大丈夫だよ。それより本当に良かったのかな?
晩御飯までご馳走になって……」
「いいじゃない、折角だしご馳走になろうよ」
と笑顔で返してくるのだった。
「そうだな、ご馳走になるよ」
こうして冬馬は夏子の家族と一緒に食事をする事になるのだった。
夏子の父親は、いつの間にか自室に戻ったようだったので、
リビングで夏子と二人きりとなっている。
「冬馬くん、本当にありがとう。お父さんもお母さんも冬馬くんの事、
気に入ってくれたみたい」
「そうか、それならよかった。でも夏子のお父さんは寡黙な人なんだな」
「そうね、あまり感情を出さないし、口数も少ないんだけどね……
でも本当は凄く優しい人なんだよ」
と嬉しそうに話す夏子を見てると、こちらも嬉しくなってくるものだ。
そんなことを話している内に食事の準備が出来たようだ。
「はい、お待たせ。沢山食べてね」
夏子の母親が運んできたのはカレーライスだった。
具沢山でとても美味しそうだ。
早速、冬馬は南田家特製カレーライスを頂く事にした。
「うん、美味しい!」
と思わず声が出てしまうほど美味しかった。
そんな冬馬を嬉しそうに見つめる夏子であった。
「冬馬くんは、カレーライスに拘りとかある?」
「うちでは、〇-モンドカレー一択でさ、辛いカレーとかは縁がなかったんだ。
まぁ、ジャガイモとか人参とか玉ねぎがたくさん入っていて
それはそれで美味しかったんですけど」
「わたしも、具が沢山入っているカレー好き」
「うちのカレー、辛口だけど大丈夫だった?」
夏子の母親も話に加わってくる。
「一時期、インドカレーに凝っていたから、辛いのは大歓迎ですよ」
「あぁ、そういえばそんな事言ってたわね」
「はい。一人暮らしを始めた頃は、色々な店のカレーを食べ比べていたんですよ。
インドやネパール、タイカレーとか。
インドカレー屋で出てくる焼きたての大きいナンが好きなんですよ。
家では絶対作れないし。
後、地方で有名な〇ャンピオンカレーとか〇-ゴーカレーとか」
「へぇ、成程ねぇ。冬馬さん、結構グルメなの?」
夏子の母は感心していた。
どうも普段は口数が少ない冬馬も、好きな事に関しては饒舌になる傾向になる。
夏子の母親に呆れられなかったのは幸いだった。
「いや、グルメって程では…。凝ったもの作れないですし、包丁も苦手だし……」
「あれ?冬馬くん、結構料理作っているじゃん」
「本当に簡単に出来るものしか作れないよ。
包丁も人参とかジャガイモの皮むき出来ないし。
リンゴさえちゃんと皮むき出来ないんだよ」
確かに、夏子が見てきた冬馬の料理は、簡単な手順のものばかりだった。
でも手際は良かったと思えた。
カット野菜とかも上手く使っていたなと。
「よかったら、またうちに来なさいな。料理ぐらいなら教えるからね」
「お母さん、わたしが教えるから大丈夫よ。余分な事しないで」
どうやら、夏子の母親には完全に気に入られた様だった。
余分な心配しすぎたかなぁ。
でも包丁の使い方だって自己流でやって来たし、
この際、料理をしっかり教えてもらうのも悪くないかな。
そんな事を思いながら夏子と母親のやり取りを見守るのだった。
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