第24話 PHASE2 その11 大変だったね

戻ったら丁度、冬馬が帰宅した所だった。

「冬馬くん、お帰りなさい。お風呂にする?ご飯にする?それとm…」

「疲れた。ちょっと横になる」

「最後まで言わせてよぉ」

「ごめん、後で聞くから…」

冬馬は夏子の言葉を遮って、寝室に入っていった。


(むぅ~)と頬を膨らます夏子だったが、ふと気づいたことがあった。

(あれ?なんか様子が変だな……)

そう思ったので、後を追いかけて寝室に入ったのだった。


「どうしたの?」

「いや、ちょっと疲れただけ」

「ふーん……」

(なんか怪しいなぁ)

と思ってたら、冬馬はすぐに眠りに入ってしまった。疲れているのは本当らしい。

(今までこんなに疲れて帰ってきた事なかったのに、どうしたんだろう?)

仕方ないので、夏子は冬馬の寝ている隣に横になった。

しかし、疲れ切った顔で眠る冬馬を見ると、なんとなく悲しくなってくる。

(そんなに忙しいのかなぁ)

夏子は、冬馬の寝顔を見ながらそんな事を考えていた。



「……くん、ねぇ、起きて」

「ん、あ、寝てたのか……」

俺は目を擦った。頭がまだぼーっとしている。

起き上がると部屋の明るさに目が眩んだ。

カーテンは閉めていないが、もう日が傾いている。


「ごめん、冬馬くん疲れてるのに起こしちゃって……」

「いや、大丈夫だよ。」

とは言ったものの、体はまだ重かった。まだ少し疲れているらしい。


「晩御飯、用意したから食べてね」

夏子が用意したのは……

スーパーの肉売り場で特売になっていた味付けホルモンに、

ニラともやしを加えて炒めたもの。

ニラを安いからとたくさん買ったので、瓶えのきとニラと卵を混ぜて炒めてみた。

後は実家でよく使っていた、〇ばらのゆず風味の浅漬けの素を使って

きゅうりを浅漬けにしてみた。

1時間ぐらい冷蔵庫に入れてみたが、短時間でも味が付くものだ。


「美味そう。ありがとう、夏子」

冬馬はお礼を言ったが、その笑顔に元気がないのを夏子は見逃さなかった。

(食欲はあるみたいだけど……)

と心配していた。そこで思いきって聞いてみた。


「ねぇ、冬馬くん、何かあった?」

「いや、別に大した事じゃないんだけど…」

冬馬はしんみりとした顔つきで話し始めた。

「職場の後輩の子が結構鋭くてね、

絶対何かあったってしつこく聞いて来るんだよ。

どうも自分は表情に出やすいみたいでね。

『もしかして彼女でも出来たんですか?』とか言われたり、

終いには、他の人たちも寄ってきて言われてね、

何かもう疲れちゃったんだね」


一気に捲し立てる冬馬の話を、夏子は頷きながら聞いていた。

「別に気にする事じゃないんじゃないの?堂々としていればいいのに」

「俺もそう思うんだけど、やっぱり他の人に知られるのは恥ずかしいんだよ」

……要するに。冬馬は、

夏子との同棲に近い生活が周りに知られてしまう事を

気にしているらしかった。

「まあ、いいじゃないの?私は気にしないし、それに……」

「それに?」

「ん、何でもない。ほら、早くご飯食べて。冷めちゃうわよ」

「あ、うん」

冬馬は食卓に座った。目の前にはご飯とニラともやしの炒め物がある。

少しお腹も空いてきた所だ。

(まぁ、そんなに気にする事でもないだろ)と思いながら、箸を取った。


「お、美味い」

夏子の作ってくれた料理は美味かった。

味付けホルモンにニラともやしを炒めたものだが、

味噌味の濃いタレで作られており食欲をそそる味だ。

そして、きゅうりの浅漬けもシャキシャキとして歯ごたえがある。


「冬馬くん、本当に?」

夏子は、目をうるうるさせながら聞いた。

冬馬は、ふっと笑って

「ああ、本当」

と返事をした。

それを聞いた夏子はとても嬉しそうな顔をした。

よほど嬉しかったのだろう。

(この表情だけで幸せだなぁ)

と感じながら、箸を進めたのだった。



「それにしても、仲間内で問い詰められるくらいで、こんなに疲れ切るの?」

食事を終えた冬馬に対して、夏子は疑問をぶつけてみる。

「あ、疲れ切ったのは別件だ」

「へ?」

「まぁ下らない話なんだけどね…」

冬馬は、ため息をつきながら話し始めた。


「自分がたまたま取った電話なんだけど、相手がクレーマーでね、

うちとは全く関係ない事で怒りだして、

自分も『直接うちとは関係ないですので』と断ったら更に怒り出してね…」


夏子も、(あーあ)って感じで聞いている。


「ちょうど上司もWEB会議で席を離れていて、他の人は別件でつきっきり、

後は後輩の安藤さんぐらいしかいなかったから、ずっと自分が愚痴を聞いてた。

大体、日本の総理大臣は役に立たないとか、

北からのミサイルには断固として抗議しろだの、福島の汚染水排水は許せないだの、

もう話が明後日の方向にいって、最後はもうハイハイとしか返事出来なかったよ」

「すぐ電話切ればよかったのに」

夏子は呆れた顔をしていた。


「そういう事が出来ない性格って知ってるだろ。

結局、2時間ぐらい無駄な時間を過ごしたよ。流石に疲れ切ってこの有様さ」

「お疲れさまでした。大変だったね」

「まあ、こういう事だ。ゴメンな、相手してやれなくて」

冬馬は申し訳なさそうに夏子に謝った。

夏子は「いいのよ」と言って、微笑んだ。


「さ、洗い物済ませちゃおう」

「うん、頼む」

夏子は立ち上がると、食器を持って台所に向かった。

すると、冬馬はまたウトウトし始めてしまった。もう頭が回らない。

(早く休もう)

と心の中で呟いた。


夏子が洗い物を済ませ、リビングに戻ってくると、

既に冬馬はソファーで横になっていた。

(まぁ、今日ぐらいはいいか)

と夏子は思い、寝室からタオルケットを持ってきてかけてあげた。

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