キジトラ猫マリの最近思う事

@riri0123

第1話


1プロローグ

アタイは猫ニャ。

猫族の王様が特別に、人間界の王様とかけあって人間と同じ様に暮らせる事になったのニャ。

アタイは黒猫ではニャイ。

キジトラニャ。

夏目漱石さんが猫を初めて見たのがアタイなら、キジトラが主人公になったのかニャ。

いや、アタイを見ても黒猫が主人公だったと思う。

なぜなら日本じゃ黒猫は招き猫でも有名だからニャ。

あんまりキジトラの招き猫はいないニャ。

同じ猫なんだからと思うニャ。

でも、キジトラは人間が初めて猫と共同生活した時に選んだ、リビア山猫の血統を色濃く持ってるニャ。

あたいは古くから人間と生活していた血統ニャ。

アタイは公園で偶然出会った人間と暮らしている。

名前は“さくら”と言う。

さくらはアタイに人間界のルールやしきたりなんかを教えてくれる。

あと、アタイとさくらはペットと人間の関係じゃないから、アタイは自分のご飯は自分で用意するニャ。

トイレはさくらの真似をして人間と同じ所でする。

さくらの家のトイレは、トイレのドアを開けたら便器の蓋が自動で開く。

終わってそのままにしてたら、これまた自動的に流れる。

猫族のトイレは砂だったから初めて用をたした時

「凄いニャ!!」

と言ってしまったニャ。

それを見てさくらが笑った。

アタイはさくらが笑うと嬉しいニャ。

公園で会った時さくらは泣いていたニャ。

色々有ったらしい。

さくらはアタイに

「私はメンヘラ女だけどいいの?」

と言った。

アタイは

「メンヘラって何?」

と聞いた。

さくらは遠い空を見つめながら

「精神が病んでる事かな…」

と寂しそうに言った。

アタイは“精神”は初めて聞く言葉だったから、困った顔をしてたらさくらが少し笑って

「精神はこころだよ」

と教えてくれた。

猫族にもこころは有るから、そこが病気なら辛いんだろうなぁと思った。

猫族の王様から

「人間は威張って嫌な奴もいっぱいいるが、苦労してこころが疲れた人もいる。だからこころの疲れた人は大抵いい人だ」と言われた。

アタイはさくらにマリと呼ばれる事になった。

なんでもマリはさくらがこの地に来て最初にペットとして出会った猫だと教えてくれた。

たまにさくらは

「最初のマリもこうしておしゃべりが出来れば良かったのになぁ」

とアタイの顔を見て笑う。

そんなさくらの笑顔がアタイは好きだ。

アタイは猫族の王様から選ばれた猫だから人間と意思疎通が出来るけど、普通は無理だ。

アタイの食事はペットの猫と同じ、猫用フードを食べている。

たまにさくらの食べているものも貰う。

でも、人間の食べ物はとても美味しくてつい食べ過ぎるニャ。

猫族の王様に

「くれぐれも人間の食べ物を食べてはならんぞ!」

と言われてるから、少しだけにしてる。

さくらはアタイの為に近所のペットクリニックにかけあって、健康診断もしてくれる。

アタイは猫だが、ペットの猫より数倍はデカい。

だからペットの患者がいなくなった時間に特別診て貰っている。

クリニックに行く時は嫌だから、さくらと喧嘩になる。

何時もアタイが負ける。

いや、負けてあげてるのニャ。

アタイは猫族の王様に選ばれた猫だから二足歩行だ。

でもクリニックではベッドに取り付けられた体重計に乗る。

獣医さんにしてみれば二足歩行であろうが、喋ろうが猫は猫なのだ。

でも喋れるから、獣医さんはあたいに「調子はどう」

と聞いてくる。

アタイは

「変わりなく元気」

と言う。

アタイはさくらの家に居るが、自分のご飯代は働いてさくらに払っている。

アタイはとある会社のネズミ番をしている。

凄く稼ぎが良い訳じゃ無いけど、アタイは別にブランド物の服やバッグも要らないし、靴だって履かない。

服は仕事に行く時だけ着ている。

家じゃペットの猫同様にモフモフの毛皮のまま生活している。

さくらもそれで良いと言うし、アタイ達猫族は風呂も必要無い。

舐めて体を綺麗にする。

最近の人間は猫を汚いとか言って風呂に入れたりするニャ。

あれは必要無いと猫族を代表して言いたいニャ。

話はそれたが、アタイは稼の半分以上は食費で後は交通費と医療費だ。

そんなアタイは人間界で猫族からペットとしてでは無くて、人間と同様に生活して感じた事を書き留めてみた。

これは猫族の王様にも提出するレポート替わりにもなる。

さくらは立派なエッセイじゃないと言ってくれたニャ。

「なんだ!小説じゃないのか」

と思わないでほしいの。

現実社会はstranger than fiction(小説より奇なり)なのだからニャ。

後、ニャとつけてしまうのは猫だから

つい出てしまうのだ。

前にさくらが訛った人は字にしても訛ってると言ってたニャ。

多分それと同じかもしれないニャ。

極力“ニャ”はつけない様にするけど勘弁して欲しいニャ。

2バスや電車に乗ってのって

アタイは車の免許が無い。

当然だが車も持ってない。

凄いお金持ちで、車を所有して秘書とかに運転させている人じゃ無い限り、免許が無くて車を所有する事はないだろうし、当然だけどアタイは猫ニャ。

一緒に住んでるさくらも免許も車も無い。

それにアタイは猫だけど、大きい。

人間程じゃ無いけど大きいニャ。

だからアタイは当然公共の交通機関とやらにお世話になる。

ちゃんと交通系ICカードも持ってる。

外に出る時は本当は嫌だけど服も着る。

それが人間界のルールだから守るのは当たり前ニャ。

バスもその中の一つだ。

どうだろうか

「私はバスのマナーは守っている」

と思う人間はどのくらいいるのかニャ?

例えば停留所。

並んでいる所に横入りされた事はにゃいニャ?

アメリカならきっと銃で撃たれるんじゃないかと思うし、撃たれないにしても列から出されるんじゃないかと思うニャ。

しかし、日本人は大声で

「並んでるんですから横入りしないで下さい」

とは中々言えないニャ。

心の中で

「ちぇっ!」

と思っても言えないニャ。

そういう人間もアタイは好きニャ。

でもそれとこれとは違うニャ。

それが老人ならなおのこと言えないニャ。

アタイも言えない。

それを知ってか横入りする老人も多い。

そんな人間ばかりではないことも知ってはいるが、悪い事をすると目立つものだし、老人が来ると身構えるアタイもいるのは確かなのニャ。

横入りは老人ばかりの話ではない。

おそらく子供を育て上げたであろうと言うご婦人や(独身でもだいたいはそのくらいの年齢の方)高校生やサラリーマンもいる。

アタイは最近横入りする人間が分かるようになったニャ。

やはり彼等、彼女等にも横入りは悪い事だと思う心が少しは有るようなので、多少挙動不審な感じになる。

何度も乗ってるバスのはずなのに

先頭に並んでる人間に

「最後尾はここですか?」

と聞いたりするニャ。

どう見ても最後尾では無いのに聞いてくるのだ。

おそらくだけれど、そう言う環境で育ったのだと思うのだ。

母親や父親、祖父母が平気で横入りする。

子供はよく見てる。

横入りはして良いんだ!と。

アタイはありがたいことに猫族の王様にも、一緒に暮らすさくらにもその辺のルールは教えてもらってる。

そういう(平気でルールを無視する)人間はある意味可哀想なのかもしれないニャ。

愛情の有る“しつけ”を受けてないのだから。

しかしだ、彼ら彼女らはそれを(横入り)されると人一倍怒るのだ。

自分の事は棚に上げるニャ。

アタイと同じ猫ならシャーくらいはするけど、人間にしても効き目が無い。

だいたいそう言う輩は、乗ってからも態度が悪い。

例えば、バスのアナウンスで

“2人席にお座りのお客様は通路側に座らず窓側に詰めてお座り下さい‘’

と流れてもお構いなしに、通路側に座る。

猫のアタイでも分かるのにだ。

2人席を1人で使うのだ。

タチが悪いのはそう言う輩に限って荷物を窓側に置く。

アタイはそれを見ると腹が立ってしょうもなくなるので、なるべく2人席の見えない前の方の1人席に座るニャ。

大きいと言っても座れば、あたいは見えなくなるから

“空いてる”

と思って来た人間があたいを見てがっかりした顔になる。

以前こんな事があったニャ。

その時バスはとても混んでいて、アタイも始発から数ヶ所の停留所で乗ったが、当然座る席もなく比較的人間が密集していない通路で立っていた。

あたいの近くには高校生くらいの女の子が通路側に座り窓側に大きな抱えられない程の荷物をおいてたニャ。

それを見た中年サラリーマン風の男性が文句をつけた。

一字一句覚えてはいないが、要約すると2人分の料金を払って座っているのか?

と大声でその女の子に機関銃のように捲し立てた。

座りたいのも分かる。

会社で色々疲れたのであろう。

しかしだ自分の子供よりも年下かもしれない子にそこまで言うか?

と言う話だニャ。

アタイは理由も無く、降りやすいからとかで座っているわけでも無いのだからこんなに言わなくてもいいのにと思ったニャ。

その子の横には抱えられない程の荷物が有るのだ。

彼女はきっと(これは猫的に考えただけなので直接聞いた訳では無いニャ)この大きな荷物を通路に直接置いたら通行の邪魔になるからそうしたのでは無いかと思うのだ。

本当なら自分が窓側に座り荷物を通路側に置いた方が良かったのかもしれない。

そんな状況の女の子に向かって、大の大人の人間が言うべき言葉では無かったニャ。

今のバスなら前の方に、荷物を置く場所が有るものも走っているが、当時は無かったのだ。

女の子は反論もした事はしたが、男性の勢いに負けて立ち上がり、その大きな荷物を抱え、バスの前の方に歩いて行った。

男性は空いた席に足を大きく広げて座った。

窓側には座ってはいたがあんなに足を広げてたら誰かが座りたくても座れない状態だったのニャ。

猫界ならシャーと言って足をどかすかもしれないけど、ここは人間。

“おいおい”とアタイは思ったが、ここで注意したものなら、先程の女の子と同じ状態になるだろう。

いや、アタイは女の子よりは小さいから蹴られて終わりだ。

こんな人間にも会社で部下がいて

「こんな事も出来ないのか!」

「どんな教育を受けて来たんだ!」

と、ほざいているのだろうなぁと思ったらなんだか虚しくなった記憶が有るニャ。

たかがバスの乗り方だろうが!

と思ったそこの貴方。

やってませんかマナー違反。

猫に見られても恥ずかしく無い行いしてますか?

若者の中には素晴らしい行いする人がいる事は確かだニャ。

老人に自分より歳上の人に席を譲る。

中々出来るようで出来ないものだ。

他にもバス停で(おそらくてんかんだと思う)倒れた人を介抱したり、バスの中で具合が悪くなり自分の降りる所でない停留所で降りてやはり倒れた女性を、これもわざわざバスから降りて介抱する男性もいた。

そんなシーンに出くわすが、何も出来ない猫の自分が情けなくなるニャ。

席だって譲られた事が有っても滅多に譲る事が無い。

さくらからは

「猫なんだからそんなに気を使わなくて良いよ」

と言われるが本当に甘えてて良いのかなぁと思ったりするニャ。

だから微力な自分が情けないが、別な所で恩返ししようと何時も思う。

バスに乗っていると色んな人間に出くわす。

最近は減ったが、大声で携帯電話で長々とくだらない話をする老若男女や

自分は凄く美人だと思っているからか、乗り合わせた女性や男性の容姿をけなす人。

こう言う事をする人間はおそらく自分に自信が無いのだろうと思うニャ。

自信が無いから他の人間をけなしたり大声を出すんじゃ無いかなぁと思うからだ。

又、スマートフォンに夢中になって自分の子供を好き勝手に騒がせる母親。

バスの中で転んだりしたら大変なのに知らん顔。

「誰の子だ!」

と言いたいが、最近の若者も老人も怖いとさくらから聞いているから何も言えないニャ。

猫族じゃ自分の生んだ子供は命を張って守るし、猫族の中でのルールはちゃんと守るから無駄な争いが無いのだ。

なのになんで人間が出来ないのかが不思議でどうしょうもないニャ。

正論が通じないとさくらが言う。

反対に何が悪いと開き直られる。

開き直るだけなら良いが、暴力で反論するのもいる。

だから皆嵐が過ぎ去るのを待つのだとさくらが言った。

恐らく母親にはなってはいけない人間がはずみで母親になったのだろう。

もしかしたら神様が間違えて人間界に送り込んだのかもしれないニャ。

そんな娘や息子を育てた親もきっといい加減なんだろうなぁと思うニャ。

地下鉄にもアタイは乗る。

アタイはデカいから自動改札機にICカードをかざす事も出来るニャ。

ここでもとんでもない人間を見る。

アタイが仕事に行く時たまたま車椅子の人間が乗って来た。

地下鉄が動き始めた時、車椅子も動き出した。

ブレーキをかけてないのだ。

何人かの人間にぶつかりながら、アタイの前で止まった。

ぶつかった人達が

「ブレーキかけて下さい」

と言ったが、自分が乗ったところまで車椅子の人間は戻って又地下鉄が動き出したら、車椅子も動いた。

「だから」

とちょっと怒った感じで乗客の1人が言ったが、聞くそぶりもなく次の駅で降りて行った。

アタイは車椅子の人間が地下鉄に乗るのをどうこう言っているのじゃなくて、車椅子だって“車”がつく以上、ぶつかったりしたら、ぶつけられた人間は打ち所が悪かったら怪我もする。

そんな凶器とまではいかなくても、一つ間違えば加害者になり得る物に乗っているのだから、最低のルールは守って欲しいなぁと思うニャ。

地下鉄でブレーキをかけなかった人間だって、自分は障害が有るから周りの人がなんとかするだろうと思ったのか、それとも耳も聞こえなかったのかは分からない。

もしも耳が聞こえなくてもブレーキをかけることは出来るし、しなきゃいけないと思うニャ。

こんな事を言うと又世の中の常識人と言う人間が

「障害のある人にふとどきな事を言うな!」

と言うかも知れないけど、平等な世の中にするなら、ダメなものには例外を認めちゃダメだニャ。

猫族の世界、いや人間以外の動物の世界はそんなに甘くはないのだから。

アタイはさくらにそう言ったら、さくらは

「人間の世界は言ったもん勝ち」

「どう言う事」

とアタイ。

「うるさい人ズルい人は世の中甘いから良い思いをする様になってるの」

とさくらが悲しそうに言った。

アタイは

「そんなのおかしいニャ!」

と怒って言った。

「そんな人間ばかりではないけどね」

さくらはアタイを諭す様に言った。

3なんかおかしい

アタイの勤めている会社は電話機とか携帯電話を売ってる。

アタイはネズミ番だ。

でも、アタイはネズミを取って食べたりしない。

殺生は嫌だからだ。

だから、ネズミが出て来たら話し合いをする。

「そこのネズミ」

ネズミがビグっと驚く。

「な、なんだオイラを捕って食うのかよ」

「その事だけど」

とアタイ。

「な、なんだよ」

ネズミはオドオドして聴いてくる。

「取引しない」

「取引?」

「そう、あんたを食べない代わりにここから出て行ってほしいの」

「何言ってる!ここから出たら食いもんどうするんだよ」

「バカね」

「何がバカだよ」

「アタイに食べられたら元もこもないんだよ」

「ここから出たら食いもんも食えなくて死んじまうから同じだ」

「ネズミ番がいない所知ってるの」

「えっ!」

アタイはネズミに詳しくその建物の場所を教える。

「これを教える代わりにあんたの親兄弟親戚全部連れて出て行って」

とアタイ。

「わ、分かった」

とネズミ。

はい、交渉成立。

こうしてアタイは仕事を終えると、事務所の定位置で座っている。

たまに社長の相手もするニャ。

社長は無類の猫好きなのニャ。

アタイは会社でもマリと呼ばれている。

そんな毎日でいつもおかしいと思う事が有る。

アタイがいる事務所にはもう少しで定年のおばさん事務員と、彼女より10歳位年下の女性事務員、その彼女よりまたまた10歳年上のおじさん事務員と、彼女より10歳年下の主査とやはり定年を数年で迎える課長がいる。

朝の朝礼が部長が別部屋から来て行うが、そのおばさん事務員は朝礼が終わってもう始業してるのに部長や課長主査と芸能界のゴシップや孫の話、はたまた先日行った飲み屋の話しなど小1時間は話す。

部長も課長も主査もその話に付き合って大笑いしている。

アタイが気にかけている彼女とおじさん事務員はその話には参加しないで一生懸命仕事をしている。

ある日仕事中彼女が主査と、何か仕事の事で揉めていた。

アタイは難しい話は分からないけど、どうみても主査に落ち度が有るみたいなのだ。

その時、机を挟んだそのくだらない話をするおばさん事務員が課長に目配せをしたニャ。

課長は彼女に

「いい加減にしろ!仕事中に大声で長々と話すな!もうその話はやめろ!」

と言ったニャ。

アタイは

「えっ!」

と声を出した。

課長は

「どうしたマリ」

とアタイの顔を見て言った。

アタイは声に出して言おうと思ったのに言えなかったニャ。

あの朝のくだらない話を1時間もするおばさん事務員はどうなんだと…。

しかも彼女は今、仕事の話をしていたのに。

アタイは課長に怒られるのが怖くて言えなかったニャ。

アタイは卑怯な猫ニャ。

彼女は肩を振るわせて泣いていた。

アタイは彼女を廊下に連れて行った。

「アタイを撫でていいよ」

そう彼女に言った。

彼女も社長同様無類の猫好きなのニャ。

彼女は泣きながらアタイを抱きしめ撫でた。

暖かくて優しい手だった。

アタイは喉をゴロゴロ鳴らして彼女のおでこや鼻を舐めた。

猫が人間の顔を舐めるのは信頼と愛のしるしだ。

彼女は

「マリありがとう」

と言って事務所に戻って行った。

アタイはその足で社長室へと行った。

「社長話あるニャ」

アタイは社長にはタメ口だ。

「何?」

社長は少しニヤリとしてアタイを見た。

「明日朝、事務所の朝礼からその後の様子を隠れて見るニャ」

とアタイ。

「なんかあるのか」

と社長。に

アタイは事の次第を社長に言った。

卑怯な猫だったと反省の言葉も言った。

社長は

「そうか…」

そう言うと困った顔をした。

「分かったよ何とかするよ」

そう言うとアタイの頭を撫でた。

その日の午後廊下に人事異動の紙が貼られた。

おばさん事務員が動いた。

おばさんは資料室になった。

そこは1人で黙々と仕事をする所だ。

ざまぁとアタイは思ったが、あの部長は?と思った。

又、社長室にアタイは行った。

「なんであのおばさんだけ動かしたニャ?部長だって共犯だニャ」

社長はアタイを撫でながら

「そうだマリの言う事が正しい」

「でもな…」

そう言いかけると社長は

「人間界は困ったものだなぁ…あの部長はうちの会社にとってなくてはならない会社から来てるんだ」

「だから何?」

とアタイ。

「あの人を怒らせると皆んなが困る」

と社長が言った。

「悪いのはあのおばさん事務員だけど捲し立てていたのはあの部長だニャ」とアタイ。

すると社長はアタイに煮干を10本くれた。

「いつもより多いニャ」

社長は

「あの部長がいる事でこの会社が何もしなくても煮干が増える」

とアタイに言った。

「煮干?」

とアタイは自分の手のひらに有る煮干を見て言った。

「人間界はマリには考えられないくらい嫌な世界だなぁ」

と社長が悲しそうな目でアタイを見て言った。

アタイもなんだか悲しくなって、社長の言った事の意味も理解できないまま社長の部屋を出て久しぶりにシャーをした。

家に帰ったらさくらがご飯支度をしていた。

アタイの顔を見てさくらが

「なんかあった?」

アタイは猫だから顔色は毛もくじゃらだから分からないけど、大きな目ヤニを付けていた。

アタイ達猫は綺麗好きニャ。

だから目ヤニは、特にアタイくらいになると鏡を見なくても取れるし、いつも綺麗な大きな可愛い目をしているニャ。

それが今日は目ヤニの事も気にならないくらいの気分だった。

うかつだったニャ。

さくらは

「どうしたの?マリ具合でも悪い?」

と言ったからアタイは、さくらに今日起こったことを事を言ったニャ。

今日と言っても人間界では1日だけど、猫界では3日だ。

そうだアタイは寝ないで3日働いてるのニャ

まぁ、それはいいけど。

さくらは

“ふぅー”

とため息をついて

「良い社長じゃない」

とさくらは言った。

「普通はおとがめ無しが多いの」

とさくらは続けた。

「なんでニャ」

とアタイ。

「そう言う定年前のおばさん事務員は

お局と呼ばれ、みんな腫れ物に触る感じで接するの」

とさくらは言った。

「お局?」

とアタイ。

「お局は仕事がそんなに出来なくでも彼女達を怒らせると社内の空気が悪くなってしまうから皆んな言いなりが多いの」

とさくらは天井を見て言った。

「だから時には管理職の人達も気を使ったりするの」

アタイはそれを聞いて

「そんなのおかしいニャ!そんな事するから図にのぼるニャ」

そうさくらに言った。

「そうね…でもね、彼女達も元々性格が悪い人は別にして好きでなってる人はそうはいないと思うの」

「どういう事ニャ」

とアタイ。

「お局にも新入社員の頃は有ったの…でも何らかの事情で結婚しなかったり、何度も転職を繰り返したりしているうちに、男性社員や同性の社員から嫌味の様な事を言われて、心がひにくれてお局様になった人もいるのよ」

さくらは少し天井を見て言ったニャ。

「でもさくらだって結婚してないし、いろんな所で働いたと前言ってたニャ…さくらはお局様じゃ無いニャ」

とアタイは早口で言った。

「皆んなが皆んなお局にはならないの」

「どう言う人がなるニャ」

さくらは少し考えてゆっくりと口を開いた。

「そうね…幼い頃から自信が有って…イジメてもイジメられた事が無い人や…自分は強くて自分の判断に間違いは無いと思ってる人がなるのかもね」

さくらは言い終わるとアタイを撫でたニャ。

アタイは

「そんなに自信が有って強いなら偉くなるニャ」

ちょっとだけ大声で言ったらさくらが

「自分が思い描いた幸せが無くて辛いのを生まれて初めてそこで知ったから

…誰かに八つ当たりしたくなるのよ」

「そんなのわがままニャ」

さくらは少し笑って

「実は私もその“お局”にいじめられてメンヘラになったの…そりゃあそれだけが原因でも無いけど…病気とかも有ったけどね」

「さくらもいじめられたのニャ」

とアタイは悲しい口調で言った。

「だからね、マリの所の社長さんは人が誰もいない部署にそのおばさん事務員を異動させたのは凄い事よ…しかもマリに言われてすぐにだよ」

ーでもー

とアタイは思った。

するとさくらがアタイの心を読み取ったのか

「部長さんはね、例えばマリが働いてご褒美にお給料の他に煮干をもらうでしょ」

アタイは“うん”と頷いた。

「その部長さんがいる事で、マリの行ってる会社に黙ってても煮干が何十本も入ってくるの」

「なんでニャ」

とアタイ。

「この国に有る古くからの風習とでも言うのかなぁ…でもねその部長さんはきっとマリの行ってる会社の親会社とか関連会社に本当は席が有ったけど、きっと仕事があまり出来ないからマリの行ってる会社に回されたの」

とさくらはイタズラっぽい笑顔で言った。

「人間界ではそういうのは“左遷”と言うの」

「左遷?」

「自分が所属していた所よりも小さい会社や、同じ会社なら田舎のほとんど部下もいない所に行かされる事」

「でも部長だニャ」

とアタイは少し大きい声で言ったニャ。

「たかが子会社の部長でしょ」

「部長は偉いニャ」

「恐らくその部長の同期の人達はもっと出世してて、その部長は自分の行く末を分かってると思うよ」

???

アタイの頭の上に?マークが一杯出ていた。

「猫族の王様の次に偉い猫はマリよりも上でしょ?」

「突然なんだニャ」

「王様の次に偉い猫様はアタイよりずっと偉いから滅多に会えないニャ」

「住んでる所は?」

とさくらが言った。

「多分王様と同じ所にいるニャ」

「もしその偉い猫様がマリの暮らしている所に王様から命じられて来て、別な猫様が王様の側に行ったらマリはどう思う?」 せいかくかせ「

アタイは考えた。

そして…

「何かあったのかのかニャ?と思う」

それから早口で

「でも、王様の次に偉い猫様に限ってそんな事無いニャ」

と言った。

「でもマリ王様がこの猫様をお前達の所にやるが、その代わりに煮干を毎回の食事にプラスしてやるからと言われたら?」

アタイはあの気位が高い猫様と暮らすのは嫌だけど煮干のためなら…と思ったらなんか分かった気がした。かかおつほおかのではれもなん

でも、猫族にはそんな事無いとも思った。

そりゃあ、お金持ちのペットになる猫もいれば野良猫として一生を終える猫もいる。

ただ猫は自尊心が高いから、野良だってちゃんとプライドが有るから…。

そう思ったらアタイは猫族で良かったと思った。

目の前にいる人間のさくらが可哀想に思えたニャ。

4さくらの涙

さくらと暮らして何年になるかニャと最近思った。

人間の時間だと恐らく5〜6年だろうけど、アタイ達猫族にすると何十年は、大袈裟かもしれないけど果てしない時間が流れてるニャ。

今日はさくらと公園で会った記念日ニャ。

アタイはさくらの座る食卓テーブルに、自分の皿を置いた。

そして記念日には“またたび”ニャ。

でも今はまだダメニャ。

さくらが帰ってからニャ。

さくらがドアを開ける音がした。

アタイは毛並みを少し整えて

「さくらおかえりニャ」

と元気よく言った。

さくらは泣きながら帰ってきた。

「ごめんね」

とさくらが涙を拭いながら言った。

アタイの口からは自然と

「何か有ったのニャ」

と出ていた。

さくらは下を向いて“うん”とだけ頷いた。

「誰かにいじめられたのニャ?」

さくらはシクシク泣くだけだった。

アタイは

「さくらは悪く無い」

と何も聞いてないのに言った。

今は一緒に暮らすさくらは家族だから、家族のさくらが泣いたらアタイが守るのニャ。

「あ、ありがとうマリ」

さくらは小さな声でそう言うと、少し顔を上げた。

「私の勤め先の事マリに話してた?」

とさくらが言った。

「アタイは聞いて無いニャ」

とアタイはさくらを見て言った。

さくらは今行ってる職場の事を話始めた。

そこはさくらの様に心の病気の人間や、アタイには分からない言葉だけど知的障害の人間が通っているらしい。

知的障害はさくらが言うには、アタイ達猫族が体を舐めて綺麗にする事や、煮干は大切な食べ物だと言うのが、すぐに分かるけど、それが分からなく生まれてきた猫の様な事らしい。

重症な人間もいればそうでも無いのもいるが、医者が知的障害と認めたら大抵の場合、特別な学校に行って障害の無い人間は既に習得してるであろう事やその人間の得意な事を生かす勉強をするとさくらが言ったニャ。

心の病気も色々種類が有って、さくらも自分の病気以外はあまり知らないらしい。

その心の病気の有る人間の1人に、さくらはいじめられたと言ったニャ。

「なんでいじめられたニャ」

とアタイはさくらに聞いた。

さくらは多分だけどと言って、いじめた奴がそこの職場でボスになりたいから、歳上のさくらを先ずそいつの配下に置いておこうとしたんじゃないかと言った。

そのいじめた奴は別な所で同じ仕事を何年かやっていて、しかもそこはその仕事をする所ではレベルが高くて有名な所だったらしいニャ。

さくらをいじめた奴はおそらく前の職場では下の方で、自分の思い通りに出来なかったが、さくらがいる所はそんなに出来る人がいないから自分がトップになってやれると思って転職したのではないかとさくらは言った。

しかもそいつはは何も権限が無いのに、さくらの作ったものを、下手だから販売会には出せないと言って、その後さくらとそいつが使ってる布の切り方が悪いと大声で、他の人に聞こえる様に言ったらしい。

「そんなのおかしいニャ!アタイ達だって注意出来るのは王様だけニャ…アタイだって王様以外に言われたら、怒るし悲しむニャ」

とアタイは早口で言った。

「だって、さくらとは違う心の病気だけど心が病気なのは同じニャのに、ボスになりたいからと言ってさくらをいじめる事はニャいニャ」

とまた早口で続けて言った。

さくらは深い溜息をついてアタイを見た。

「マリの職場の社長さんみたいな人がいても、彼女の暴走は止められないの」

そう言ってさくらはアタイの頭を撫でた。

「なんでニャ?」

とアタイは又早口で言い返した。

「私もそうだけど、職場の人達は障害者で、はっきりと白黒付けちゃいけないの」

さくらは続けた。

「凄く幸せで、お金も有って、健康で、お友達や周りの人も良くて、食べる事にも苦労せず、仕事も楽しくて、行きたい所へは直ぐに行ける…そんな人は心の病にはならないの」

「じゃあ、どう言う人がなるニャ?」

とアタイ。

「その逆の生活をしている人がなるの」

とさくらが言った。

(その逆?)

アタイは考えた。

さっきさくらが言った事の逆…

不幸でお金が無くて、病気でお友達が悪い奴で、食べる事も中々出来なくて仕事も辛くて、行きたいと思っても行けない事…。

そんな悲しい人間がなるのかニャ?

アタイはなんだか人間が哀れに思った。

その時アタイの心の中に?が浮かんだ。

そんな悲しい思いをした人間が、なんでさくらをいじめるんだと。

悲しみが分かる人間が別な人間をいじめて悲しませるのはおかしいニャ。

間違ってるニャ。

そう思うとアタイの感じた事をさくらに伝えた。

さくらは

「前に、私の通ってるクリニックの先生に聞いたの」

とアタイを見て言った。

アタイは

「先生はなんて言ったニャ?」

とさくらの顔を見つめた。

「先生がね“日本人やドイツ人は勤勉で真面目だと言われるけどそうじゃ無い人も沢山いるから、精神疾患で辛い思い悲しい思いをした人が皆優しいとは限らない”と言ったの」

とさくらは悲しい目で言った。

「でもニャ」

「でもニャ、その日本人とドイツ人の話はなんとなく分かるけど、それじゃ味噌も糞も一緒と同じニャ」

とアタイは昔猫族の王様から教えてもらった言葉をさくらに言った。

さくらは少し笑って

「マリは本当に良い仔」

と言ってぎゅっと抱きしめてきた。

そして

「マリの言ってる事の方がしっくり来るよ」

「だって…」

とさくらは言うとアタイををもっと強く抱きしめて

「いじめる事が出来ると言うのは多分弱さも有るけど、凄いエネルギーが心に有ると思う…だからそんないじめるエネルギーある人が、心の病いになんかそうたやすくならないと思うの…それに仮に心の病気になったら、いじめは悪い事だから、きっと病気で何か儲けようとか悪い事考えると思う」

さくらはそう言うとアタイを抱きしめるのをやめて、代わりにアタイの目を見た。

アタイは病気で儲ける?と思いさくらに聞いてみた。

「さくら病気で儲けるってどう言う事ニャ」

さくらはクスッと笑って

「それはね私も今、障害者年金とか障害者手帳貰ってるんだけど、私は最初3級から始まったんだけど、お金かけて社会保険労務士と言う人に頼んで手続きしたら、2級から年金とかもらえる事が有るの」

「ズルするのニャ?」

「ズルでは無いけど、2級の年金額と3級だとかなり額が違うの…それに働いて厚生年金に加入していた人は3級から貰えるけど、働いてなかったり自営業とかで国民年金だと2級からしか貰えないの」

そうさくらには珍しく早口で言った。

???

と又、アタイの頭の上にマークが浮かんだ。

「ごめんね…マリにはよく分からないよね」

さくらがアタイの頭を撫でた。

アタイはアタイなりに理解した事をさくらに言った。

「煮干が3本貰えるのと10本貰えるのがあるんだニャ?それでその3本から貰える人間といきなり10本が貰える人間がいるんだニャ」

「凄いマリ」

さくらは笑顔でアタイの頭のを両手で撫でた。

「それにその社会…労務士?ってどう関係が有るニャ」

さくらは

「お金が有る人はその社会保険労務士にお願いして、本当は年金が貰えないかもしれない人でも、3級いいえもっとよ、へたしたら2級に病気の症状を盛って申請して貰うの」

「そんなのインチキだニャ」

とアタイが言うとさくらは

「インチキでも無いの…例えば夜眠れないのを5時間位は眠れてるのを2時間くらいしか眠れない…とか少し時間を盛ったりする…多分ね」

「多分って」

とアタイ。

「だって、私はお金が無かったから社会保険労務士を頼んで無い…だからこれは聞いた話なの」

「お金ある人はそんな事するのニャ」

アタイは人間の心の腹黒さを思って、少し軽蔑した。

それをさくらが感じたのか

「皆んなが皆んな邪な心でそうしている訳では無いの」

「どう言う事ニャ」

「例えば病気になる前と同じくらい働きたくても、働けなくなる人は少ないお給料では生活出来ないし、3級位の年金額を貰っても、自分の給料と併せても生活出来ない人もいるからね…」

そうさくらは言うと天井を見て

「私が許せないのは贅沢な生活をする為に等級を上げて申請する人や働きたく無いから障害者年金をもらう事…分かりやすく言えば自分は働かないで高額なお洋服や靴、鞄が欲しくて、社会保険労務士さんにお願いする…」

と少し力強くさくらは言った。

アタイはなんかよく分からないけど、アタイがご飯を自分で得られなくなった時、王様に煮干やご飯を分けて欲しいと言うのは良いけど、ご飯も煮干もたっぷり有るのに王様にお願いするのはダメという事なのかニャと思った。

そしてさくらは詐病の精神疾患と称する患者も多いのではないかとも付け加えた。

アタイが

「なんで詐病だと思うニャ?」

と聞いたら、さくらが冷蔵庫に有るまたたびの枝を持って来た。

アタイはすぐにでもかじりたかった。

そしてまたたびの枝をアタイに見せてこう言った。

「マリ達猫はまたたびが私達人間のお酒の様なものなの」

「だからなんニャ」

とアタイ。

「お酒は百薬の長とも言われ、適量なら体にいいの…でも私達精神疾患の患者が飲んでる薬のほとんどがお酒と相性が悪いの」

「薬飲んでる時お酒飲んだらどうなるニャ?」

「その人にもよるけど、薬が効きすぎて具合が悪くなったり、凄い眠気に襲われたりするみたい」

「じゃあアタイがまたたびをかじって具合悪くなるみたいな事かニャ?」

「うん」

とマリは頷いた。

そしてそのさくらをいじめた、精神疾患の人はお酒を沢山飲むと言った。

「先生とかに止められないのかニャ?」

とアタイはさくらに言った。

「止めるよ…だって薬とアルコールは相性が悪いと言うか効果の関係もあるしね」

とさくらは言った。

「じゃあなんで飲むニャ?」

とアタイ。

「きっと先生の前では飲んでません!

具合も良くなりません!と言ってると思う…病院って所は一概には言えないけど病状が良くなると、病院に行く間隔が長くなるの…例えば最初2週間に1回から1ヶ月に1回次に3ヶ月に1回とかね…でも彼女達はお酒飲んで2週間に1回病院に行ってるの」

とさくらは悔しそうな顔で言った。

「じゃあその人達は先生を騙しているのかニャ?」

アタイは頭に来て早口で言った。

「騙しているかどうかは分からない…ただ正直な事は言ってないと思うの…だって精神科の先生が少しならお酒良いよなんて言わないからね」

「だから詐病なのかニャ?」

「そうね…私はもっと人を信じたいけど詐病なのかもね…だって病気治ったら障害年金貰えないし、障害者手帳も交付されなくて普通の生活が待っているからね」

「良いじゃないのニャ?普通の生活になれるのは?」

とアタイはさくらを不思議そうな顔で見て言った。

「人間って言う生き物は一度楽すると、そこから出れなくなるの…昔の様に働けなくなるの…これも皆んなが皆んなじゃ無いけどね…私の働いている所にもそう言う人がいるの…何でも知ってます!自分が1番って言う人」

「ましてや…」

とさくらが言いかけてアタイはすぐに「ましてやって何ニャ?」

「最初から一度もちゃんと働いた事の無い人は、なんとかして具合が悪い事にしなきゃ食べていけないでしょ」

「でもアタイは別にお母さんからネズミや他の獲物の捕り方をきちんと習ってなくても出来るニャ」

「でも小さい頃からお母さんのする事見てたでしょ」

「それは…そうニャ」

「私ね親も悪いと思うの…だって親は不死身じゃ無いんだよ!いつか必ず死が訪れる…その時そう言う働いた事の無い人は親の死と共に、世間の荒波に放り出されるの…そしたら病気でいてくれた方が親も安心でしょ…福祉と言う強い味方がついてくれるから」

「でも心の病気なら死にたくなるニャ…だから親より先にいなくなるかもしれないニャ」

とアタイ。

さくらは

「そんな悪い事考えてる人は死なないよ」

さくらは少しだけ軽蔑な目つきでアタイに言った。

そして続けて

「どうしてか私にも分からないけど、精神の病気の人は自分は世の中で1番の大病に罹ってるから、周りの人はもっと大事に扱えと思う人もいるの…全員じゃ無いけどね…病気は他にも色々有るわ…例えば余命いくばくも無い人とかね…精神の病気の人は自分だって辛くなったら自ら命を断つから、余命が無いのと同じみたいに思うのかもしれないけど、私が言う余命いくばくも無い人は自らが望んで命がなくなる訳じゃ無いの…生きたくて生きたくて苦しんでいる人…そんな人の事を少しでも思えたらあんな横柄な態度や行いもなくなるかもね…」

今度はさくらの目が悲しみに満ちていて、少し手が震えていたニャ。

アタイはそんなさくらの手を、アタイの肉球で優しく摩ってあげた。

そして

「さくらはどうニャのニャ?」

さくらは少し上を向いていたけど、すぐにアタイの顔を見て

「私も心の病は辛いけど、余命いくばくも無い人と自分の辛さを同じには考えないわ…だって私は生きていたいと思えば生きていられるんだもの」

そう言うとアタイの手を優しく握り返してくれた。

アタイは安心したニャ。

安心したアタイはさくらに質問した。

「じゃあそう言う人達が増えるとこの国は大変な事になるニャ」

さくらは少しだけ悲しい目をして

「そうね…国にお金を払ってくれる人減るからね…そんなマリの様に、そう言う人の親達は何時迄も国にはお金が有ると思うのよ…それにね…」

「それにねって何ニャ?」

「そう言う心の病の人の中には、自分が1番偉いと思って嘘をついたり、自分で体験もしてないのにさもしてると言う人もいるの…だから普通の仕事が出来ないのかもしれない…結局福祉は最初の志と違って、ダメ人間を作る事も有るのよ…悲しいわね」

「さくらは国にお金払っていたのかニャ?」

アタイはさくらにに聞いてみた。

「今は払ってないけど、ちゃんと普通の仕事してたから、国にお金は払っていたよ」

「良かった…さくらが払って無かったらどうしょうと思ったニャ」

「心の病気になる前はバリバリ働いでいたの」

さくらはそう言うと又アタイを抱きしめた。

「あっ!!」

さくらは急にアタイから離れて、食卓テーブルに向かった。

そしてお皿やアタイが水を飲むボールを出していた。

そんな事をしていたら

“ピンポーン”

と玄関から音がした。

さくらは慌てて財布を持って玄関に行った。

さくらは小さめな箱を2つ持って来た。

「マリゴメンね…こんな大事な日に泣いちゃって!今日はマリと私が出会った日だもんね!だから私のケーキとマリ用のケーキ頼んでおいたの」

(さくら…)

アタイは嬉しくて嬉しくてさくらに飛びついた。

さくらはよろけながらもアタイを力強く抱きしめてくれた。

5四於さん

アタイがネズミ番をしている会社で人事異動とやらが有ったニャ。

定年間近のおばさん事務員が資料室に行ってから、少し経って主査が支社の主査になり、支社の平社員が本社の主査で来たニャ。

新しい主査は四於さんと言う名前だった。

さくらに話したら、そう言うのを栄転と言うらしい。

そしてアタイは人間の名前に興味が無いが、さくらに名前を言ったら

「シオさんと読むの?変わった名前ね」

と言ったニャ。

まぁ、そんな事はどうでも良いのだが、その四於さんが着任して1ヶ月程経った頃から、会社を休みがちになったニャ。

四於さんも無類の猫好きで、アタイを一目で気に入ってくれたから、アタイも四於さんが休みがちになり気になっていたニャ。

ある日社長がアタイを呼んだ。

「マリ…四於主査から何か聞いてないか?」

いきなりですかと思ったが、アタイは正直に

「何も聞いて無いニャ」

と社長の質問に答えた。

「そうか…マリにも言ってないか…困った…このまま休まれると支社に又戻すか、場合によっては…」

と社長はなにか歯に物が挟まった様な言い方をするからアタイは

「そんなに気になるならアタイが四於さんに、なんでそんなに休むのかを聞いてやるニャ」

と又余計な事に口を挟んでしまったニャ。

社長は握りしめていた煮干をアタイにくれた。

社長の企みに、アタイはまんまとハマったのだ。

うかつだったニャ。

次の日四於さんは3日振りに会社に来たニャ。

休んでいるのに疲れ切った顔をしていたニャ。

アタイは約束は守る猫ニャ。

昼休み四於さんを屋上に連れて行ったニャ。

「屋上って…マリさぁドラマでもあるまいし」

と四於さんは笑いながら言ったが、屋上に来る奴はこの会社では、アタイか社長くらいだ。

だから、誰にも聞かれずに話すには丁度良い場所ニャ。

アタイは大きな目をもっと大きくして

「何が有ったニャ?」

と四於さんに言ったニャ。

四於さんは最初目を逸らしていたが、アタイの眼力に負けて

「実はさ…情けない話だけど…姉の面倒をみているうちに、妻が子供を連れて実家に帰ってしまったんだ」

四於さんはうなだれながら続けた。

「姉は高校を卒業して、小さな会社にアルバイトで入社したんだ…それから半年くらいして、相撲取りの様にデカかった姉が見る見る痩せていったんだ…両親は心配してさ…アルバイト先が姉には合わなかったみたいで、精神を病んでしまってたんだ…それから母親も父親も姉に何もさせずに大事に育てたんだ…俺も悪いんだ!そんなに過保護にしたら姉がダメになると両親に言えなかったから…それがさぁ、最近になって父親が長男というのもあって、父方の祖母を介護する事になってさ…」

そこまで言うと四於さんはとうとうしゃがみ込んでしまったニャ。

アタイは四於さんの顔を舐めてやったニャ。

四於さんは大きなため息をすると、又続けた。

「姉は、何も出来ない人でさ…それを心配した両親が俺に姉を預けてきたんだよ…姉は俺と3歳違うから今年で48歳になるんだけど…俺はあそこまで出来ないと思わず、姉を預かるのを承知したんだ…勿論嫁さんは反対したけどさぁ…とりあえず高校までは出てるから一般的な事は大丈夫だと思っていたのが間違いの始まりだったんだ…」

四於さんはアタイをチラリと見てから又続けた。

「姉は自分で着た服も下着も全部嫁さんに洗わせてさ…挙げ句の果てはこの料理は不味いだの、自分の言ってる事が正しくて俺達が間違えてるとか…俺の子供等が煩すぎるだの言い出して…嫁さんにだから言わんこっちゃ無いと言われて…俺もどうして良いか分からなくて困っていたら、とうとう嫁さんが実家に帰ってしまったんだ」

四於さんは涙目になってアタイを見ていた。

そして

「今は俺が姉のご飯を作ったり、愚痴を聞いたりしてるんだ…」

アタイは

「お姉さんは働いてるのかニャ?」

と四於さんに聞いた。

四於さんは頷きながら

「就労支援なんとかと言う所で働いているよ…」

アタイはさくらが仕事している所と同じだと思ったニャ。

「姉は仕事を休みがちでさ…昼飯作れないと暴れるから、階下の人の迷惑になるだろう…それで俺が休んで昼飯作ったり話を聞いたりしてるんだ」

アタイは早口で

「お姉さんは休みの日は何してるニャ?」

「…今は俺のマンションの空いてる部屋にいて、休みの日は多分好きな絵描いたり…少しオタクな人間だからそういう人が好きそうな服を買いに行ったりしてるよ…」

「空いてる部屋と言っても家賃四於さんが払ってるんだから、少しかお姉さんから貰っているのなニャ?」

とアタイ。

四於さんは首を横に何度も振った。

アタイは呆れた。

さくらは掃除は少し苦手だが、料理や洗濯は勿論家計簿つけたり、アタイの世話をしてくれたりするニャ。

休みの日は大抵近所のスーパーで、さくらとアタイの食材や日用品を買いに行って、休みは少し時間有るからと言って常備菜を作ったりしている。

自分の服や美容室なんかは何ヶ月に1回だけだ。

贅沢は敵だまで思っている。

それを絵を描いたり自分の服を買うだけ…情けない人間だと思ったニャ。

しかも、ご飯を弟に作らせて愚痴も言う。

そんな情けない人間が作ってくれた料理に文句言ったり、洗濯も任せて…何様なんだと思ったニャ。

でも、なんの罪もないとは言えないが四於さんがその姉のせいで会社に来れないのは可哀想だし、アタイはなんとかしてあげたくなったニャ。

でも、アタイは猫ニャ。

猫族にはそんな輩がいないから、参考になる様な事は何一つ言えないニャ。

情けない猫だニャ…と思った時さくらの顔が浮かんだ。

さくらなら何かしら四於さんの力になれるかもしれないと思ったニャ。

アタイはさくらから人間の子供が持つ、携帯電話という物を持たされている。

この小さな四角形がそういう名前らしい。

3個ボタンが有って1番目がさくら2番目がアタイがネズミ番をしている会社の社長に押すと繋がる様になっている。

この料金はアタイが払っているニャ。

アタイは1番目を押した。

本当は初めてなのニャ。

ドキドキだ。

プルプルプルと音がしたニャ。

このままで良いのか分からなかったけど、さくらがもしも出なくてもかけ直すと言ったニャ。

かけ直す⁇

と前に聞いたらさくらが自分の携帯をいじったと思ったら直ぐにアタイの携帯が鳴ったニャ。

その時はびっくりして背中と尻尾の毛が逆立ったニャ。

程なくしてさくらの声がした。

アタイは安心したニャ。

アタイは四於さんの事をかいつまんでさくらに話したニャ。

「そうなの…弟さん大変ね」

さくらのゆっくりとした優しい声が聞こえた。

「電話じゃうまく言えないから、会って話せないかしら」

とさくらが言った。

四於さんは勝手に自分の事を言われて、少しムッとしていたがアタイがさくらの身の上を話すと少し顔が緩んだ。

四於さんは少し考えて、もしもさくらさんが良いなら今日はどうかと言ったニャ。

それをさくらに伝えると

「私は良いわよ…ただ…あっ!大丈夫」

と早口で言った。

四於さんはアタイの後をついて地下鉄とバスに乗ったニャ。

いつもアタイは1人ぽっちだから、話し相手がいるのは嬉しいニャ。

地下鉄を降りた時、四於さんが直結するスーパーに立ち寄りたいと言った。

アタイは

「あんまりバスが来るまで時間が無いニャ」

と四於さんに言った。

四於さんは

「ここで待ってて直ぐ戻るから」

と言ってスーパーの中に消えたニャ。

どの位待ったか分からないけど四於さんが少し大きめな箱を持って戻って来たニャ。

「その箱何ニャ?」

「マリは気にしなくていいよ」

と訳の分からない事を四於さんは言った。

程なくしてバスが来たから、四於さんと乗ったニャ。

アタイは何時も1人席を狙うが、今日は四於さんと一緒だから焦らないでゆっくりと2人席に座るニャ。

2人席はマナーの悪い人間が目に入るから本当は嫌いだニャ。

さくらが待っ家に着いたニャ。

さくらは四於さんを優しく招き入れたニャ。

さくらは本当に良い人間ニャ。

「ごめんなさいね…家が狭くて食卓テーブルだけど遠慮しないで…その青いシートクッションが置いてある椅子にどうぞ」

さくらはそう言うと台所に行った。

アタイは前足を綺麗に舐めた。

そして

「そうニャ四於さんは手を洗うニャ」とアタイは四於さんを洗面台に連れて行ったニャ。

四於さんの手は荒れていたニャ。

なんだかアタイまで惨めな思いがしてきたニャ。

「マリ!四於さん!早く座って」

とさくらの声がして、アタイと四於さんはテーブルに着いたニャ。

「はい…あまり美味しくないかもしれないけど、友達からズッキーニを貰ったのでトマトソースのパスタにしたの

良かったらどうぞ召し上がれ」

さくらはそう言って四於さんの前に有る皿にパスタを盛った。

「マリは今日少し疲れただろうから…はい、またたび」

そう言ってさくらはアタイの皿にキャットフードの他にまたたびをくれた。

天に舞い上がる気分だったニャ。

「さぁ、食べましょう…話はそれからよ」

さくらはそう言うとパスタを食べ始めた。

四於さんもそれにつられて食べ始めていて、アタイは早食いだからすぐに食べ終わって、またたびに手を伸ばしていたニャ。

さくらより早く食べ終わった四於さんが持って来た箱をさくらに渡したニャ。

「食後に良いかなぁと思いまして…洗い物増えるかもしれませんが…」

四於さんはそう言って、さくらを見た。

さくらは箱を開けて

「うわぁ!美味しそうなケーキ!あらマリのも有るわ!ありがとうございます…なんか気を使わせてしまったわね」

さくらはそう言うと食器棚から皿を3枚出して、冷蔵庫に入っているアイスコーヒーを四於さんとさくらについだ。

そうだ思い出したニャ。

あのスーパーのケーキ屋はさくらがアタイの為に猫用のケーキを頼んでから、猫、犬用のケーキを置くようになっていたニャ。

アタイは水さえ有れば良いニャ。

ちなみに今夜は四於さんの姉は職場の人と飲み会とやらでいないらしいニャ。

四於さんは何度もため息をつきながら、さくらに姉の事を話した。

さっき入れたアイスコーヒーの氷が解けていたニャ。

「お姉さんは子供の頃から高校生迄はどんな人だったのかしら?」

さくらは唐突に四於さんに質問した。

四於さんは少し面食らってだけど、何かを思い出す様な顔をしていたニャ。

そして

「姉はいじめてもいじめられる様な子供じゃなかったですね…特に小学生の頃は近所の親が、姉に自分の子供が虐められたと来てましたね」

「その時、ご両親は?」

その質問に四於さんは少し驚いて

「こんな事言いたくなかったんですが…虐められる方が悪いと言って取りあってませんでした…情けない話です」

四於さんは俯いてしまったニャ。

アタイはどんよりとした空気を入れ替える為四於さんとさくらの顔を舐めたニャ。

ふぅ…

さくらはそうやってため息をついた。

「四於さん、私は福祉の専門家では無いけど、あなたよりは少しだけど長生きしてる…常識とかは少しは分かるつもり…今のお姉さんが有るのは精神の病気以前にご両親の育て方が間違っていたと思うの…今あなたの家に居るのは人間の姿をしたモンスターよ!」

さくらにしては強い口調で言ったニャ。

アタイは少し驚いていたら

「これからは少し荒療治しなきゃいけないと思うけど…四於さんは自分の家族大事でしょ?」

と、さくらはこれまた早口で四於さんに質問したニャ。

四於さんは少しだけ、自分が場違いな所にいる様な顔をしたけど、直ぐに真顔になって

「もちろんです!家族が大事です」

と力強く言ったニャ。

それを聞いたさくらは

「なら話が早いわ」

とだけ言って、自分の携帯を持ち出した。

今は携帯の事をスマートフォンと言うらしいニャ。

さくらは何かを探していたニャ。

「有った!これこれ…」

さくらは四於さんにさくらのスマートフォンの画面を見せたニャ。

「優しさサーチですか…」

四於さんがそう言ったニャ。

「色々項目が有るでしょ…ほらここに就労支援A型B型も有るでしょ」

とさくらは指を指して言ったニャ。

四於さんは

「あっ…はい…」

とだけ言ったニャ。

「次にここを見て」

さくらが又指を指したニャ。

「居住系サービス…ですか」

四於さんが読み上げた。

「ここに共同生活援助(グループホーム)と有るでしょ」

さくらがそう言うと四於さんが

「グループホームは認知症の人が暮らすと聞きましたが…」

と自信なさげに言ったニャ。

「それは介護保険のグループホームでここに出ているのは障害者のグループホームなの」

「はぁ…」

四於さんはさくらの説明に納得いかない様な声で答えたニャ。

「お姉さんは就労支援で働いていると言ったでしょ」

とさくら。

「はい」

と四於さん。

「就労支援は障害認定されないと働けないの…障害は肢体不自由だけじゃ無いの…精神疾患でも障害認定されるのよ」

「えっ?!」

さくらの説明に四於さんが驚いていたニャ。

さくらはグループホームに入ると、大抵のグループホームは門限が有って、個室があてがわれ、基本的に彼氏や彼女を招き入れることは出来ない。

そして、掃除洗濯食事は自分でする。

いや、出来る人が入るらしいニャ。

稀に統合失調症とかで大声を出したり、他の人に危害を加えそうな人は入れないらしいニャ。

「お姉さんはそのグループホームでリハビリした方が、自身の為にも良いわ」

とさくらが言って

「そんな所有るんですね…」

と四於さんが言ったニャ。

「失礼だけどお姉さんは俗に言う美人かしら?」

四於さんはさくらの質問に又面食らっていたニャ。

そして

「お世辞にも美人とは言えませんよ…体型は相撲取りの様だし、顔も怖いですね…身長も170は有りますから、普通に男は近寄り難いですね…それに妻が言っていたのですが、服装とか身に着けるものは3色にまとめると良いけど、姉の場合はオタク気質なので好きな色の服を…たとえ上下別々な柄や色でも着ます…あれが10代なら可愛いんでしょうがね…」

と一気に四於さんが喋ったニャ。

アタイは猫の小さな頭で四於さんが言った事を想像したニャ。

猫族の王様が話してくれた妖怪を思い出して、又背中と尻尾の毛が立ったニャ。

それを見てさくらが

「四於さんのお姉さんをマリなりに想像して怖がっているわ」

と言って少し笑ったニャ。

「3色でまとめる発想はいつからか分からないけど、ダイアナ姫も言っていたわ…奥様はセンスが良いのね」

とさくらは四於さんへのフォローも忘れなかったニャ。

「話が色々でごめんなさいね…なんで容姿を聞いたかと言うと、今流行りのパパ活とかしてたら後々困るから…グループホームに入ったら、全員じゃないけど、生活保護になってパパ活とかで収入があるのが見つかると打ち切りになる事があるのよ…お姉さんは障害年金貰ってるのかしら?貰ってないとしたら恐らく生活保護になると思うの…」

とさくらが言うと四於さんが

「大丈夫です弟の私が言うのはなんですが、昔から姉は彼氏がいると言いますがデートとかしたのも見た事ないし、姉を好きになるとしたら余程のパワーと忍耐と物好きじゃないと無理ですよ」

と少しだけ悪者の顔で話したニャ。

アタイも猫族にはそんなのはいないがもしいたとしても、どの猫も相手にしないと思ったニャ。

「なら、話は早いわ」

さくらは又そう言うと何か企んだ目をして四於さんを見たニャ。

それからのさくらの行動は早かったニャ。

四於さんが帰った次の日の昼休み、さくらとアタイが住む区役所の福祉課に電話して、さくらの担当に何やら相談したらしいニャ。

その頃アタイは社長からもらった煮干をゆっくり食べようと眺めていたら、あの携帯が鳴ったニャ。

アタイは服をきているから、毛が立ったのは分からないけど、あの音には今も慣れないニャ。

「マリ…四於さんは居る?さっき連絡したけど出ないから…」

さくらはそう言ったニャ。

「四於さんは社長室ニャ」

とアタイは言ったニャ。

「四於さんも行動が早いわね、じゃあ社長室から出たらそのまま社長室に又戻って私に連絡する様に言ってくれる」

と又何時ものさくらじゃないみたいに早口で言ったかと思うと早々に電話が切れたニャ。

程なくして四於さんが社長室から出てきたから、さくらが言った事を伝えたニャ。

「わ、分かったよマリありがとう」

そう言って四於さんは又社長室に戻ったニャ。

次の日から四於さんは一週間休んだニャ。

アタイは又ヤキモキしたニャ。

だから社長に先を越されない様に、アタイの方から社長室に行ったニャ。

「四於さんからはアタイは何もきいてないニャ!だから休んでる訳は知らないニャ!」

と言ったニャ。

社長は鳩に豆をぶつけた様な顔をして、アタイを見たニャ。

そして

「マリは何も聞いてないか」

と薄笑いを浮かべたニャ。

感じ悪いニャ。

「何が言いたいニャ?」

と社長に聞いたニャ。

「四於主査は今までお姉さんと戦って、さっき連絡が来てお姉さんがやっと納得して、昨日グループホームに入所したそうだ」

そう言うと机から煮干を持ってきて、アタイにくれたニャ。

「マリが一緒に暮らしている…さくらさんだったかな?素晴らしい人だね」

と社長がアタイの目線までしゃがみ込んで言ったニャ。

社長の話だとさくらが四於さんから姉がいつもどの区の精神科に言ってるか聞き、姉が通ってる精神科を突き止めたらしい。

そして四於さんに精神科に行かせて相談させたそうだニャ。

先生は気の毒がって、尽力してくれたらしいニャ。

なんでも、四於さんの姉は豪酒家で精神科の薬を飲んでるのに、毎日酒を飲んでいたらしいニャ。

それを四於さんが先生に言って、先生もそして区役所の福祉課で四於さんの姉を担当をしている人とで、姉を説得したらしいニャ。

少し脅す様な事も言った様だニャ。

でも、アタイは四於さんのお父さんお母さんが許したのか気になったら、社長がそれを察したのか偶然か分からないけど、お父さんお母さんの説得は社長が買って出たらしいニャ。

どちらにしても一件落着らしいニャ。

アタイはさくらが社長に褒められたのが何より凄く嬉しかったニャ。

アタイにとっても皆んなにとっても、さくらはなくてはならない人間なのニャ。

程なくして四於さんが会社に来て、アタイに大きな煮干が入った袋と、さくらには奥さんが選んだストールを、家まで持ってきてくれたニャ。

「マリこの煮干は私が預かるからね」とさくらが言ったニャ。

「そんないっぺんに食べないニャ」

とアタイが言ったが聞き入れてくれなかったニャ。

さくらはストールを見て

「私の好きな色だわ…こんな事してもらって…ありがとう遠慮なく頂くわ」

さくらはそう言ってストールを首に巻いたニャ。

すごく似合っていたニャ。

アタイはそんなさくらが大好きだニャ。

窓から晩夏のお日様が、アタイとさくらと四於さんを照らしていたニャ。

5エピローグ

猫族の王様から帰還命令が来たニャ。

アタイはさくらとは別れたくなくて、王様に先延ばし作戦を企てたけど、王様は許してくれなかったニャ。

アタイは又、別な人間の元で生活するニャ。

その為にはさくらはアタイを忘れなければいけないから、アタイが又別な人間と生活する。

あのさくらと会った公園で日付が変わったと同時に、さくらの記憶の中からアタイは消えるニャ。

アタイは何時までも覚えている。

王様は

「人間には神様が別れの悲しみを与えた代わりに思い出を与えたのじゃ…だが、その思い出に泣く人も多い」

とアタイに言った。

「だから人間の言葉を使うお前達は、関わった人間に深い思い出と別れの悲しみを味合わせる事が有る」

王様は続くてアタイに言った。

「でも、ペットとして一緒に過ごす猫族はそのまま人間の思い出になりますニャ」

アタイは王様に疑問を投げつけた。

「ペットとして過ごした者達は言葉が通じない…だから人間は猫族の感情を人間なりに想像して別れを受け入れるが、お前達は違う…人間と会話すると人間はお前達がどの様な思いで旅立つかがわかるのじゃ…それは人間には切なすぎる別れになる」

「王様…」

アタイは王様の優しさに自然と涙を流した。

「ただ、さくらは今一緒に暮らしている人間は心の病気なのです…だから…別れた後の彼女が心配なのですニャ…さくらを1人には出来ないニャ」

と、王様に自分の正直な気持ちを言ったニャ。

王様は

「お前が案ずる事では無い」

「でも」

王様はアタイを見て

「なんとかなるものだ」

と呑気に言った。

(なんとかなるなんて…)

アタイは心の中で王様は何を考えているのかと思ったニャ。

その夜アタイはさくらに気づかれない様に、旅立ちの準備をした。

荷物と言っても少しの衣類と大好きなまたたび…後は…

そうこうしているうちにさくらがご飯だと言いに来た。

アタイは大きな目から涙がこぼれない様に

「今行くニャ」

「うん」

さくらが何時もの様に答える。

明日で終わりだニャ。

アタイはこんなにも別れが悲しい人間は初めてだニャ。

ダメだ涙が出るニャ。

「食欲ないからさくら先に食べて」

とアタイはやっと言った。

少し経ってさくらが様子を見に来た。

「マリ泣いてるの?」

アタイは顔を前足で覆いながら

「泣いてなんかないニャ」

とだけ言った。

「ふーん」

とさくらは言って部屋を出て行った。

アタイとの生活の記憶はさくらには残らないニャ。

こんなんで別れたらアタイが辛い。

涙を拭いて居間に行ったら、さくらはいなかった。

「さくら!」

とアタイは呼んだが返事は無い。

何処に行ったのさくら!

アタイは心が裂けそうになって外に出た。

走った。

アタイは二足歩行出来るけど、走る時は四足だ。

“さくら”

心の底から叫んだ。

どの位走ったのか分からないけど、さくらと初めて出会った公園の前に来ていた。

アタイはあのベンチに行った。

あのベンチは猫族の王様が新しい人間と出会わせてくれる場所だニャ。

もし、誰かいたらその人と又人間界で生活するニャ。

アタイは恐る恐るベンチへと向かった。

誰も居なかった。

少しホッとした。

するとアタイの持ってる時計が鳴った。

嗚呼!

日付が変わった!

さくらはアタイを忘れた。

あんな別れをした自分を責めた。

アタイはベンチに座った。

ここで新たな人間と会う為に…。

さくらごめん…本当はアタイの命が尽きるまで一緒に居たかった。

草を踏む音がした。

人間だ。

アタイには分かるニャ。

猫族は耳が凄く良いから、微かな音も聞こえる。

でもいつもと違う気がするニャ。

以前は会うなり殴る人間もいた。

そうかと思えば抱きついて離さない人間もいた。

でも、大体の人間はアタイを化け物と言って逃げる。

逃げた人間は追わないのが、猫族のルールだニャ。

ちなみに犬族は逃げると追うらしい。

足音が近づく。

足音が止まった。

アタイのシルエットがきっと月に照らされているから、又“化け物”と言って逃げるのかもしれないニャ。

何時もなら悲しく思うけど、今夜は違う…逃げてくれても良いニャ…そうすればさくらとの生活をもう少し思い出して笑っていられるから。

突然目の前が真っ暗になった。

アタイはシャーを言いたくても怖くて言えない。

このまま変な人間に殺されるのかなぁとも思った。

どの位経ったか分からなかったけど、何もされない。

なんだろう?

その時だ

「誰だ?」

と人間が言った。

人間いやさくらの声だ。

「さくら!」

アタイは声の限りに叫んだ。

さくらは

「これからもよろしくね」

と言った。

???

アタイの頭は?マークがいっぱい出てきた。

アタイの目を覆っていたのはさくらの手だった。

さくらは優しく手を離すと、アタイの前に来て芝生に座った。

「びっくりしたでしょ」

「うん」

「私も猫族の王様に初めて会った時はびっくりしたよ」

さくらはいつもより早口で言った。

「すまないが、あの猫とこれからも…出来れば虹の端に向かう迄暮らしては貰えないか…と言ったの」

アタイの小さな脳みそはフル回転したけど、さくらの話が理解出来なかった。

アタイは恐る恐る

「王様とはいつ会ったニャ?」

と聞いた。

「ついさっきよ」

とさくらは笑顔で言った。

「ついさっきっていつニャ?」

とアタイ。

「そうね私がマリにご飯だよと呼びに行ってすぐかなぁ」

「えっ⁇」

アタイの所には来なかったの?と思うと凄く複雑な気分になった。

それを察したのか察しないのか分からないけど、さくらが

「マリには会わないで行くからと王様言ってたよ…なんか奴は有頂天になる所が有るからと言ってた」

さくらはそう言ってアタイを少し意地悪な笑顔で見た。

そして…

「マリは猫族の中での課題をクリアしたんだって…王様に私を1人に出来ないと言ったんでしょ…その気持ちになるのが最後の課題だったと言ってたわ…ありがとうマリ…」

さくらは涙目なのに顔一杯の笑顔でアタイを強く抱きしめた。

「これからは私と一緒に人間界の出来事を考え悩みなさいと王様は言ってたよ」

とさくらはアタイの大きな耳元で囁く様に言った。

「さくら…アタイで良いの」

「私もマリにとつて自分でいいのか考えたけど…私にとってかけがえのない存在になってたから…」

「さくら」

アタイはさくらを強く抱きしめた。

夜が明けて来た。

アタイの横にはさくらがいる。

この幸せが永遠に続く事を願った。

1人と1匹を少し明るくなってきたけどまだ輝く星空が見ていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

キジトラ猫マリの最近思う事 @riri0123

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ