第2話「超一流のエージェント」

…ズズズー

夕方の静かな部屋にコーヒーをすする音だけが鳴り響く…かと思われたがすぐに外のセミの鳴き声にあっけなく遮られてしまった。

「君もぜひ飲んでくれ。私のいれたコーヒーは中々飲めないぞ?」

いや…俺コーヒー飲めないんすけど…

「せ、せめてミルクを入れても…?」

「ダメだ。」

即答。

「コーヒーはな。ブラックだからこそ味が染み深い味わいとなるのだよ。ミルクを混ぜたコーヒーに真の旨みはない。断言しよう。」

俺はコーヒーを飲んだこともないしよく知らないが、この人はとりあえず自分のいれた

コーヒーを飲んでもらうがために暴論を言っているような気がする。

「ま、まぁそんなことはおいといて…」

「なんだ飲まないのか、せっかくいれてやったのに。」

あんたが勝手に人の家でコーヒーいれただけだろーが…

「まぁいい。さて本題に移ろうか。」

ようやく本題を話してくれる様子で、一回

コホンと咳払いをする。

「先ほども言った通りだな、君の母親は

スパイ…否、エージェント、と我々は呼んでいるがね。」

「エージェント…?」

「まぁ、スパイと対して変わらない意味だ。エージェントはね…そう、君の母親は…

凄腕だったよ。僕の上司でもあった。」

母親は凄腕のエージェントだった。これは

とりあえず今理解しないといけないことだ。どんなに非現実的でも、今は相手がそう言っている以上信じるしかない。…なにより、

この人が嘘をついているとは思えない。

「超一流のエージェント…一流に超を付けられるほどのエージェントはこの国にも数えるほどしかいない。きみの母親はそれだけ素晴らしい存在だったんだ。」

「そう…だったんすか。」

「なんだ、やっと信じてもらえたか。」

「まぁ…変な考えは捨てて今は信じないと頭がパンクしそうなので…」

「頭がパンクか、ハッハッハッ…そういえば君は勉強が苦手らしいじゃないか。」

「…だからなんですか…ってか誰からその

情報を!?」

「君の母親しかいないだろう。あの人は元々どこかのタイミングで君をエージェントにする気だったんだが…可愛いくて命より大事な君を危険な世界に放り込む勇気がなかったんだ。」

可愛くて命より大事…か。確かに昔は可愛がってくれてはいたが…年齢が上がるにつれて

どんどん忙しくなっていき家にあまり顔を

出さないことがほとんどだったな。それに

態度も昔に比べてそっけないというか。

「そんなものだよ。普通の家庭でもそうだ。君もおそらく無意識のうちに反抗的な態度をとってたんじゃないかい?」

「そうですね……っえ!?」

「ん?」

こいつ…なんで俺の思考を…

「あーうん。君がそういう顔をしていた。

それだけだ。今だってなぜ俺の考えがわかるんだ…!みたいな表情をしているしね。」

「…へぇ…」

人の表情から気持ちを読み取る。それも自然に。…普通の人間ができることじゃない。

確かにこの人はただものではないことは今のでよくわかった。同時に怪しくもなったが…

「まぁそんでね。我々は頭が馬鹿な子は基本求めてないんだけどね。君がそのマイナスを打ち消すほどのポテンシャルを持っていると耳にしたから今こうして勧誘しようとしているわけだ。」

「か、勧誘?俺はそんなよくわからんものに入る気は…」

「まぁ聞きたまえ。」

そしてまたコーヒーをゆっくりとすする男。

「その君のポテンシャル…正直我々も欲しいよ。さすがあの人たちの子だ。」

あの人たち…?まさかこいつ、父さんのことも知ってるのか?

「通常の中学生とは思えない優れすぎた身体能力。これが君にはあるらしいね。学校ではうまい具合に隠しているようだが。」

「…母さんもよく話しますね。そんなことをまぁぺちゃくちゃと。」

「正直彼女は任務の時までずっと君の話ばかりしていて気が引けたよ。あの子には必ず

これからの未来をたくせる才能がある…とね。親バカなのか本当なのか。それを確かめるためにここにきたわけだ。」

「…別に俺の能力を見るのはいいんですけど…なんのために?」

「もし能力を見てエージェントになるにふさわしいものだったら加入手続きを行うが、

もしふさわしくなかった場合早々に記憶を

消してあとは上手い具合に我々がことを運んでこれまでとほとんど同じ生活を送ってもらう。母親がいないだけのね。」

…おいおい、こっちの気もしれずなんなんだよこの人らは。…ますます理解がおいつか

ねぇ…

「そもそも…俺が勧誘を受け取るかはわかりませんよ?」

「あぁ。勧誘を受け取らない場合も記憶を消して先ほど言ったことと同じことになる。」

「…記憶を消すって…」

「もちろん上手い具合にね。我々には可能

なんだよ。」

…整理、気持ちの整理。…できているのかすらわからないがこの人が当たり前のように

話すから俺も理解してきたような…気はするが…。

「やりたくありません。それが本当のことだとしても、命を危険にさらすエージェントなんか。俺もまだ中2で将来有望の若き才能のかたまりなのに。」

「ふむ。その中2で命を危険に晒しまくってる者が日本に限らず世界中にいることを言っておこう。…これ以上は今は言えない。まずは君が勧誘を了承してからだ。」

「…」

「迷っているようだね。…一つ言えることだが。まずエージェントに君はなり、一つの

任務をこなしてもらう。たった一つの。そしてその任務を成功させることができたら母親の死亡原因について教えよう。その後はエージェントにならなくてもそのままエージェントとして生きても好きにしていい。」

「やります。」

「お、早いね。」

あの…あの男勝りで無敵感の溢れていた母親が…なぜ死んだのか…それだけが気になってしょうがなかった。なんでもいいからあの人の死亡した理由。それだけは知りたい。なんとしてでも。それを知らないまま残りの人生を過ごすなんて考えたくもない。それに記憶が消されるなんて怪しすぎて一番嫌だ。

「とりあえずその任務をやることは約束します。絶対に。」

「わかった。いいよ、口約束で。なんも

契約書とかはないよ。それに君は嘘をつくような人間だとは思えないし、今の君の言葉は本心だった気がする。勘だけどね。」

「それでは、説明しようか。ステルスキッドについて。」

なんだそのネーミングセンスのかけらもねぇ名前…

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