第9話(1)人々に寄り添う

                  9


「司令官! 戦隊の仕事入りましたか⁉」


 凛は喫茶店に入るなり、彩に尋ねる。


「特にはないな……」


 彩が首を左右に振る。


「それじゃあ、出動は?」


「この間みたいに他が空いてないとな……大体、有名所が対応してまうし……」


「有名所……」


「そう、そこがポイントや……」


 彩が右手の人差し指を一本立てる。


「ポイント?」


 凛が首を傾げる。


「とりあえず知名度を上げていかんとお話にならん」


「知名度ですか……」


「せや」


 彩が頷く。


「それならSNSで……」


 凛が端末を取り出す。彩が手を挙げる。


「あ~待て待て」


「はい?」


「それも必要なことやけれども……」


「けれども?」


「そもそも知らんやつのSNSを見ようと誰も思わんやろ」


「まあ、それは確かに……」


「戦隊ヒーローの本分は何や?」


「え? 本分ですか?」


「せやせや」


「え、なんだろう……?」


「とりあえず思い付いたことを言うてみいや」


「相手を完膚なきまでに叩き潰す……!」


「物騒やな! ま、まあ、それも大事やけど……その結果得られるものは?」


「憎しみと悲しみの連鎖……ですか?」


「現実的な考え! 平和や、平和!」


「平和……」


「そう、人々の平和の為に戦うんやろ? その為には人々に寄り添わんとな」


 彩がウインクする。


「その結果がこれか……」


 ゴミ拾いをしながらオレンジが呟く。


「そう、地域の人たちにも貢献出来るからね」


 シアンが答える。


「良いことだとは思うが……」


「? 何か気になる?」


「こういうことをあまり言いたくはないが……無給だろ?」


「おじいちゃんおばあちゃんたちからお菓子はもらえるよ」


「……わたしがそれで喜ぶと思ったか?」


「ボランティア活動だからしょうがないじゃん」


「……まあ、それはそうだな。しかし……」


「しかし?」


「変身してまで行うことなのか?」


「だって、そうじゃないとPRにならないじゃん」


「それはそうかもしれんが……」


「スーツの方が色々と便利なんどすえ?」


 パープルが歩み寄ってくる。オレンジが首を傾げる。


「便利?」


「ほら、ああいう風に……」


 パープルが川の方を指差す。川でブラウンとグレーが川底をさらっている。


「結構ゴミが捨てられているものだね……某頓堀とまではいかないけど……」


「道頓堀で良いでしょ……別に大阪生まれに気使わんでいいですから」


「ご覧の様にスーツならそこそこ深い水でも問題なく泳げるようになります」


「活動範囲が広がるということか」


「そういうことどす」


「……って、パープル! 言い出しっぺもやれや!」


 ブラウンが怒る。


「スーツが汚れると嫌なんどす」


「ウチらは汚れてもええんか⁉」


「目立たん色かなと思って……」


「自分なあ~!」


「はいはい! ケンカしない! パープルも道路のゴミをしっかり拾って!」


 シアンがブラウンをなだめる。


「むう……」


「へえ……」


 作業に戻るブラウンを見て、グレーが笑みを浮かべる。


「なんや、替えのスーツあるやん……」


 スーツをつまみながらブラウンが呟く。パープルが応える。


「真白博士に作ってもらいました。さすがに一着だけではあきまへんから……」


「へえ、なかなか気が利くな。パープル……さっきのスーツは?」


「クリーニングに出しておきました。お代はわたくしが払うのでご心配なく」


「それは……まあ、お言葉に甘えさせてもらおうか」


 グレーが頷く。保育園でオレンジがこどもたちに群がられる。


「かくれんぼしよ~あたちが鬼ね! 10数えるからかくれて! 10、9、8……」


「ちょ、ちょっと待て!」


「……3、2,1、0! あ! オレンジ見っけ!」


「か、かくれんぼには不向きな色過ぎる!」


「ふふっ、オレンジもこどもたちも楽しそうどすな~」


「ねえ~スマ〇ラごっこしよ~」


 シアンがこどもにせがまれる。ブラウンが苦笑する。


「ははっ、無茶ぶりされとんな~シアン……」


「良いよ~バーストされた時の真似‼」


「きゃっきゃっ!」


「こ、後方に吹っ飛んだ⁉ さ、さすがは格ゲーマーなんかな……」


「スーツによる運動能力向上も上手く活用しているね……」


 グレーが感心する。


「この商店街近くのスーパー、新装開店で~す。よろしくお願いしま~す!」


「チラシ配るの上手だね、ブラウン……」


「まあ、慣れとるからな」


「よ~し、アタシも頑張るぞ~ヘイ、ナイストゥミーチュー~」


「いや、観光客に配ってもしゃあないやろ!」


「奥様の手、とても綺麗ですね……」


「グレー、奥様を口説かない!」


「……というわけで、色々とこなしてくれたわけやが……シルバー層や主婦層、さらに最も重要な子供たちにもエレクトロニックフォースをアピール出来た……ようやったな……」


「いやあ~」


「これは四人からの意見でもあるんやが……シアン、自分がリーダーで正式決定な」


「ええっ⁉ アタシが⁉」


「何事も一所懸命に取り組む姿勢がええ。頑張ってくれや」


「は、はい!」


 シアンが元気よく返事をする。彩がニヤリと笑う。


「ええ返事や。知名度もわずかずつやが高まってきたからな、大仕事が回ってきたで……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る