第8話(1)合格不合格

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「いらっしゃいませ~! って、なんや輝かいな……」


「なんやとはなんだ……」


 喫茶店に訪れた輝が、躍の対応にムッとする。躍が居住まいを正す。


「これは失礼……看板娘らしからぬ対応を……」


「自分で看板娘って言うな」


「……ご注文は?」


「アイスコーヒー」


「はいよ、アイスコーヒー一つお願いしま~す」


 躍が声をかける。


「……」


「はい、アイスコーヒーです」


 躍がアイスコーヒーをテーブルに置く。


「……みんなまだ来てないのか?」


「……全然来てないで」


「まったく……」


 輝が頭を軽く抑える。


「アンタが早すぎんねん」


「早いか?」


「早いわ。遠足前の小学生か」


「十五分前だぞ?」


「十五分も前やん。カップラーメン五個出来るやんけ」


「いや、五個も食べないが……」


「順に食うんかい。麺が伸びてまうやろ。その都度お湯入れろや」


「なにで文句を言われているんだ……」


 輝が困惑する。


「変なとこに食い付くからや」


「変なことを言うな」


「それはそうやな」


 躍が頷く。


「確かに思ったよりは早く着いたが……それにしてもな」


 輝が店内を見回しながらため息まじりで呟く。


「まあまあ、マイペースなんがウチらのええところやんけ」


「そうか?」


「せやで、自他共に認めるところやろ」


「他ってなんだ……」


「細かいことはええやんけ」


「お前も大概マイペースだな……」


「どうもおおきに」


 躍が頭を下げる。


「褒めてない……ほぼ全員マイペースで動かれたら困る……」


「何が困るん?」


「……わたしたちが何なのか分かっているか?」


「……人間がどこから来て、どこへ向かうのかって話?」


「そんな難しい話はしていない」


「冗談やがな。戦隊やろ?」


「そうだ、戦隊ヒーローだ。戦隊ヒーローというのは協調性が無いと駄目だ」


「ふ~ん……」


 躍がニヤニヤと輝を見つめる。


「……なんだ?」


「いや、やる気あるんやなと思ってな」


「やるからには上を目指したいからな」


「上?」


「メジャーな戦隊だ。インディーズではなくな」


「ほう……」


 躍がニヤッとする。


「意識高いとでも言いたげだな……」


「いや、ええやんと思ってな……」


「え?」


「もっとクールなイメージやったわ。自分みたいなん、ウチ嫌いやないで」


「ふ、ふん……」


 躍の言葉に輝は少し照れくさそうにする。


「まあ、協調性とか、チームワークは徐々に芽生えてくるもんやろ」


「うむ……」


「そう焦らんといこうや」


「それはそうかもしれんが……」


「しかし、客来えへんな……この場合はその方が都合はええんやけど……」


 躍が呟く。それから約十分後……。


「集合時間だぞ⁉」


「まあまあ、そう焦んなや……」


「半分も集まってないとはどういうことだ!」


 輝がぷんぷんと怒る。


「ちょっと落ち着こうや……」


「連絡の一つでも入れるべきだろう!」


「それはそうやけどな……」


「これはビシっと言うべきだな!」


「あんまり怒ると、逆にいらん反発を招く恐れがあんで」


「そうは言ってもだな……!」


「十中八九言い訳するやろ、それがおもろかったら、大目に見ようや」


「面白かったら?」


「せや、それが大阪の流儀やで」


「大阪だって、遅刻は怒られるだろう……大体ここは京都だしな」


「まあまあ、ええやんけ。ちょっと様子を見てみようや」


 五分後、秀がやってくる。


「いやいや、申し訳ない。二兆の商談が長引いてね……」


「絶対嘘やんけ!」


「適当なところで切り上げてきたよ」


「適当に切り上げたらアカンやつやろ! ……合格!」


 それから五分後、心がやってくる。


「どうもすんまへん……お茶とお花と日舞とピアノのお稽古が重なってしもうて……」


「どんだけブッキングしてんねん!」


「後、そろばんと……」


「小学生か!」


「サバゲーと……」


「どんなお稽古やねん! ……合格!」


 それから五分後、凛がやってくる。


「ごめん! たまたまブルキナファソの人に道を尋ねられて……」


「たまたまブルキナファソって!」


「後、エチオピアの人とウガンダの人の揉め事を仲裁して……」


「何で揉めんねん!」


「コーヒー豆がうんぬんって……」


「よう仲裁出来たな! ……合格!」


「……まあ、各々第一声が謝罪だったから良しとしよう……」


 輝がとりあえず納得する。それから十五分後……。


「あ~二日酔いや~」


「色んな意味で不合格!」


「な、なんや⁉」


 三十分遅刻して、店に入ってきた彩が驚く。

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