第6話(3)ポーズを付ける

「次の議題ってなんやったっけ?」


「今の口上を踏まえてのポーズですね」


「ああ、ポーズか……」


「演出プランも含めて考えていこうかと……」


「演出プランね……」


 彩が顎をさする。


「先ほどと同じ順番でいいですか?」


「ええんちゃう、ほな、グレー」


「はい。こうやって、両手を広げます」


 秀が大きく両手を広げる。


「両手か」


「ええ、君たち……ファンの皆を包み込みようなイメージです」


「それも悪くないけど、右手を胸に当てて、左手だけ広げるのはどうや?」


「動きが小さくないですか?」


「口上が勢いあるからバランスを取るねん」


「なるほど……」


「はいはい、ウチ、ええですか?」


「ブラウン、行ってみようか」


「やっぱりバク宙は入れたいですね~」


「出来んの? 自分?」


「ええ」


「でもな……」


「あきまへんか?」


「チビッ子が真似出来ない、真似したら危ないポーズはちょっとな……」


「ああ……」


「チアダンスをアレンジして、軽くステップ踏むのはどうや?」


「まあ、それでもいいですね」


「ほな、パープル……」


「口上がじゃんけんどすから、『最初はグー』というのを入れて……」


「おお、ええやん。ちょっとやってみいや」


「はい、『最初はグー! あら、ええ時計付けてはりますなあ?』」


 心が首を傾げる。


「余計な一言入れんな! それって『早よ帰りなはれ』って意味やろ⁉」


「あら、分かりました? 京都人らしさをアピールしよかなと思って……」


「そういうアピールはええから!」


 彩が声を上げる。


「敵さんに早よ帰ってもらおうという意味も込めたんどすが……」


「ちょっと遠回し過ぎんねん……ほな、オレンジ」


「口上を言った後、銃を構える感じですかね……」


「ああ、なるほど……」


「どうでしょうか?」


「ええんちゃうんか?」


「ありがとうございます」


「それじゃあ、シアン」


「う~ん……」


 凛が腕を組んで考え込む。


「お、悩んどるな」


「ここが思案のしどころです……」


「上手いこと言わんでもええねん」


「……やっぱりアレですね」


「アレ?」


 彩が首を傾げる。


「格闘ゲームが好きなので……」


「ああ、せやったな」


「こう……技を繰り出すのはどうでしょう?」


「まあ、ええんちゃうん?」


「では、左ジャブを二発続けて、右のアッパーカット……体を低くして、左足で相手の足を払って、体勢を崩したところをすかさず右のかかと落としで……」


「ちょ、ちょっと待て! 何をしようとしとんねん!」


「え? コンボですけど……」


「チビッ子が真似出来へんやろ、誰がガチのコンボやれ言うたんや」


「でも……」


「無難にワンツーパンチとか、回し蹴りとかでええやろ」


「そうですか?」


「そうや」


「地味じゃないですかね?」


「まあ、その辺はエフェクトでどうにでもなるわ~」


 心が口を開く。凛が尋ねる。


「心ちゃん、予算とか大丈夫?」


「その辺も心配せんでええどす」


「実家が太いのは強いな……」


 彩が笑みを浮かべる。


「それじゃあさ、ドーンとバックを爆発させたい!」


「それはマストやな」


「派手な感じが出て良いね」


 凛の言葉に躍と秀が頷く。


「いやいや、ちょっと待てや……」


「え?」


「そういうのは届け出とかせえへんと面倒やねん……」


「届け出とかあるのか……」


 彩の言葉に輝が腕を組んで呟く。


「ああ、その辺の面倒な申請は全部、うちの家の者がやってくれはるから……」


 心が微笑む。


「それじゃあ……!」


 凛が彩を見る。


「……まあ、諸々の許可が下りて、予算の心配が無いっちゅうんならええんちゃうんか……どこでも好きなように爆発させて……」


「やったあ!」


「許可が下りればどこでも良いのか……」


 万歳する凛の横で輝が困惑する。


「ただ、そういう演出とかに予算をかけ過ぎるのはアレやで、もっと考えないとアカンことがあるやろ?」


「考えないといけないことですか?」


「ああ、シアンは徒手空拳でええとして、ブラウンになんか固定の武器持たせんと。キャラ被ってもうてるで。なにか考えんと……」


「う~ん……」


 凛が首を傾げる。躍が困惑する。


「いや、それは別に急いで決めんでも……」


「う~ん、土を掴んで投げるとかかな?」


「泥臭過ぎるやろ!」


「ミサイルランチャーなら手配できるどすが……それを背中に担いで……」


「なんで手配出来んねん! 重そうやん! ウチの軽快さが失われるから!」


「小回りのきくナイフとかどうだ? 相手の心の臓を抉り取れるような……」


「自分、言うこと怖いねん! 人に何させようとしとんねん!」


 躍が秀、心、輝の提案にツッコミを入れる。


「地雷とかどうかな⁉」


「どうかなちゃうがな! 何を地雷原でタップダンスさせようとしてんねん!」


 凛の突拍子もない提案を、躍が一蹴する。

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