第4話(4)グレー、見参

「うおおっ!」


 エビの頭をした怪人が再び叫ぶ。


「エビ怪人さま!」


 ピンク色の全身タイツを着た戦闘員の集団が群がる。


「こ、こんなところに怪人が⁉」


「……あれも貴女の差し金どすか?」


 驚く凛の横で、心が秀に尋ねる。秀がベンチに腰かけて、首を傾げながら片手を挙げる。


「まさか。ただ、今の世の中は『戦隊ヒーロー飽和時代』、言い換えれば、『怪人・戦闘員ダブつき時代』とも言うからね……」


「初めて聞いたで、その言い換え⁉」


 躍が戸惑う。輝が口を開く。


「その点についての議論は後だ。今は奴らをなんとかしないと……凛!」


「うん、皆、変身だよ! 輝っち! 心ちゃん! 躍ん!」


「ああ!」


「ええ!」


「おっしゃ!」


 凛と輝と心と躍が、コントローラーを装着したコネクターに繋いで叫ぶ。


「「「「『コントロールOK! ゲームスタート!』」」」」


 凛と輝と心と躍が眩い光に包まれ、仮面とタイツで顔と体を覆う。


「EFシアン!」


「EFオレンジ!」


「EFパープル!」


「EFブラウン!」


「よし!」


「ふっ、またもや決まりましたなあ……」


「良かったよ! ブラウン!」


「ほ、ほうか?」


 シアンの言葉にブラウンが後頭部を抑える。


「ダンサブルな感じが出ていて良かったどすえ」


「おおきに! でもよく分かったな?」


 パープルにブラウンは礼を言いながら尋ねる。


「手足、それぞれの指先にしっかりと神経が行き届いていましたので……」


「へえ、その辺に気付くとはやるなあ……あ、シアンもパープルも良かったで」


「シアン! パープル!  ブラウン! 呑気に褒め合っている場合か!」


 オレンジが声を上げる。


「ああ、もちろん、オレンジも良かったで?」


「フォローはいい! とにかく行くぞ! シアン!」


「うん!」


 シアンたちがエビ怪人たちに迫る。


「エ、エビ怪人さま!」


「どうした⁉」


「せ、戦隊です!」


「な⁉ こんなところまで現れるとは……」


「ど、どうしますか⁉」


「慌てるな、迎撃の陣形をとれ!」


「りょ、了解!」


「……む!」


 エビ怪人が奥の方に下がり、戦闘員たちが各所の防備を固めるような陣形を取ったのが、シアンたちの目に入る。


「広い公園に散らばったな!」


「どうする⁉」


 ブラウンがオレンジに尋ねる。


「エビの怪人がトップだ。奴さえ倒せば、こいつらはあっけなく瓦解する」


「なるほど!」


「怪人は奥の方に引っ込んだようだが、さっさと追い詰めるぞ!」


「よっしゃ!」


 オレンジの言葉に応じ、シアンたちが散らばって、戦闘員たちに立ち向かう。


「悪いけど、倒させてもらうよ!」


「そうは行くか!」


「うわっ⁉」


 シアンに対し、戦闘員たちがボールを投げつける。


「どうだ!」


「そ、そこまで痛くはないけど……これじゃあ近づけない……!」


 シアンが頭部を覆いながら困惑する。


「戦闘員ども……恨みはないが、どいてもらおうか!」


 オレンジが銃を発射する。


「……!」


「なにっ⁉」


 戦闘員たちが分厚い盾を持ちだして、オレンジの射撃を防いだのである。


「ふふっ! そんなものか⁉」


「くっ……」


 オレンジは唇を噛む。


「はっ!」


「うぎゃあ!」


「それっ!」


「ぐぎゃあ!」


 パープルが赤い球体を四つ重ね、炎を発生させたり、黄色い球体を四つ重ね、雷を発生させたりして、戦闘員たちを倒していく。


「戦闘員はんたち……火傷や感電したくなければ、逃げた方がお利口さんどすえ~?」


「うぐぐ……」


「怯むな! 囲め!」


「! おおっ!」


「む⁉」


 戦闘員たちがパープルを包囲する。


「ふふっ、これだけ接近すれば、自らも燃えたり、感電する恐れがあるぞ⁉ どうする⁉」


「ふう……意外と頭が回るようどすなあ……」


 パープルがため息交じりに左手で右肘を抑え、右手を頬にあてて呟く。


「よっしゃ! 悪いけど、ちゃっちゃっと行かせてもらうで~!」


「ふん!」


「おっと!」


「むん!」


「おおっと‼」


「ぬん!」


「おおおっと⁉」


 威勢よく飛び込んできたブラウンに対し、戦闘員たちは銃や、剣、さらにはハンマーなど、様々な武器で攻撃してくる。ブラウンはそれらをなんとかかわす。


「ふふん! いつまで保つかな⁉」


「ちっ、色んな種類の攻撃でリズムが崩されてまう……!」


 ブラウンが舌打ちしながら呟く。


「苦戦しているようだね……」


 頬杖をついてその様子を見ていた秀が呟く。


「うわあっ!」


「第二段階は不合格!……と言いたいところだが……」


「うおおおっ!」


「く、くそっ!」


「……」


「ええい!」


 秀は四人の様子を見る。


「その目はまだ死んでいないようだね――もっとも目はゴーグルに覆われて見えないけど――それこそが正義の戦隊ヒーローだ!『コントロールOK! ゲームスタート!』」


 秀がコントローラーを装着したコネクターに繋いで叫と、眩い光に包まれ、仮面とタイツで顔と体を覆う。秀がポーズを取って叫ぶ。


「EFグレー、これより指揮を執る! シアン!」


「な、なに⁉」


「君はパープルのところへ! オレンジはブラウンのところへ! パープルはオレンジのところへ! ブラウンはシアンのところへ移動だ!」


「え、えっと……」


「早く!」


「りょ、了解‼」


 グレーの指示に従い、場所を移動した四人は反撃に転じる。


「接近戦ならこっちのものだよ!」


「防御一辺倒でないなら、戦いようがある!」


「分厚い盾でも、雷は防げませんやろ~?」


「どんなボールでも打ち返したらあ!」


「ぐああっ! て、撤退だあ!」


 四人に蹴散らされた戦闘員たちはたまらず撤退する。


「ま、待て! お前ら! ……ちっ、俺も公園の水路を辿って逃げるか! それっ! ⁉」


「……そうはさせないよ」


 グレーの振るった鞭がエビ怪人の体に巻き付いて、動きの自由を奪う。


「し、しまった!」


「君はここで終わりだ!」


「ぐはっ……!」


 グレーがエビ怪人を思い切り地面に叩きつけ、沈黙させる。


「ふっ、ざっとこんなものさ……」


「あ、ありがとう、グレー、お陰で勝てたよ! ねえ、オレンジ?」


「ああ、見事な指揮だった」


「変化する戦況を冷静に見極め、的確な指示を出す……さすがはRTS(リアルタイムストラテジー)の名手どすなあ……」


「上から目線だったかな?」


「ええ、かなりの」


「ははっ……」


「ふふっ……」


「いや、目線見えへんやん」


 笑い合うパープルとグレーにブラウンが冷静に突っ込みを入れる。

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