第4話(1)結局のマシンガン

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「スポーツゲームの有名プレイヤーだったんだ、凄いね」


「いやいや、そない、大したことはあらへんよ……」


 凛の言葉を躍は右手を左右に振って否定する。


「いや、大したことあるって!」


「ま、まあ、運動神経は昔から抜群やったからな……」


 躍は鼻の頭を擦る。輝が口を開く。


「運動神経が抜群なこととスポーツゲームが得意だということは必ずしもイコールになるとは限らんと思うが……」


「まあ、細かいことはええやんか」


「細かいか?」


 輝が首を捻る。


「それでさ……」


「ん?」


「何をしに京都へ来たの?」


「コントローラーは誰にもらった?」


「身長はなんぼ~?」


「大阪も大都会だと思うけど?」


「いつもらった?」


「体重は~?」


「スポーツゲームの他に得意なジャンルは?」


「戦隊をやることに抵抗はないのか?」


「スリーサイズは~?」


「ちょ、ちょい待ち!」


 躍が両手を前に突き出して、凛たちを制止する。


「え?」


「え?とちゃうねん、三人で矢継ぎ早に質問してくんなや!」


「ええ~? だって……ねえ?」


「ああ」


 凛と輝が顔を見合わせる。


「なにがやねん……」


「躍ん、大阪出身だって言うし……」


「それがどないしたんや?」


「どうしてもマシンガントークに期待してしまうな」


「大阪人への偏見がエグイな!」


 躍が輝の言葉に声を上げる。


「偏見のつもりはないが……」


「尚更質悪いな」


「それで、躍んさ……」


「ああ、待った! 質問にはちゃんと答えるから……京都に来たのは大して意味はあらへんよ。強いて言うなら、大阪は色々と競争率が激しいからな。eスポーツチームに所属するのも大変や。もちろん、京都が楽ってわけやないけど……スポーツゲーム以外だったら、レースゲームとか、リズムゲームとかもわりと得意やで」


「う、うん……」


 凛が戸惑い気味に頷く。躍が輝に視線を向ける。


「それでコントローラーやけど、先日送られてきたばっかりや。何故だか、京都へ引っ越してきたばかりやのに、住所氏名を知られていたな。宛名は書いてへんかった。それを開けてまうのも我ながらどうかと思うけど、なんとなくピンとくるもんがあってな……。戦隊をやることに抵抗が無いと言えば嘘になるけど、これも何かの縁やなと思ってな」


「う、うむ……」


 輝が少し面食らう。次に、躍が心にビシっと指を差す。


「そんで自分! 体重、スリーサイズを聞くってなんやねん! セクハラやで!」


「いや、これには理由があって……コンセプトカフェで働いてもらうわけやけれども……」


「ああ……」


「制服の採寸とかもせなアカンからね」


「な、なるほど……そういうわけやったか……」


 躍が腕を組んで頷く。


「ご理解頂けました?」


「まあ、そういうことなら……」


 躍の言葉に心が笑みを浮かべる。


「良かった。あらためて、体重はいくつ?」


「待て待て! 体重は別に言わんでもええやろ!」


「ちっ……」


「露骨に舌打ちすな! 何が狙いやねん! そもそも……」


「そもそも?」


「明日から入れるかとか言うとったけど、制服どないすんねん⁉」


「しばらくはキャスト各々自由な服装で……」


「コンセプトカフェのコンセプトブレブレやん!」


「そこら辺はそれぞれの努力で補ってもろて……」


「なかなかのブラックバイトやな!」


「ほな、やめますか?」


「やりますよ! バイト代ええから!」


「や、やるんだ……」


「食い気味に答えたな……」


 心と躍のやり取りに凛と輝が少し圧倒される。


「良かった。即戦力として期待しておりますので……どうぞよろしくお願いいたします」


「やるからには期待に応えたいと思うております。こちらこそよろしくお願いします」


 心と躍が頭を下げあう。凛が口を開く。


「それでさ~躍ん、相談したいことがあるんだけど……」


「なんや?」


「この『エレクトロニックフォース』って戦隊……まだメンバーがいると思うんだよね……」


「まあ、大体五人くらいが相場やな」


「そう、それであと一人をどうやって探そうかなって思っていて……」


「……」


 躍が凛をじっと見つめる。凛が首を傾げる。


「え? どうしたの?」


「どうしたの?ちゃうがな、そんなもんSNSとか使うて、呼びかけたらええやん。コントローラーの画像を載せて、『このコントローラーが送られてきたよって方、連絡をお待ちしています』とかなんとか言うて……」


「ああ、そうか! その手があった!」


「そこから⁉」


 ポンと手を打つ凛を見て、躍が驚く。凛がホッと胸を撫で下ろす。


「良かった~問題が一つ解決した~」


「問題以前の段階やった気がするけど……」


「それじゃあ、もう遅いし、今日もうちに泊まっていっておくれやす~」


「わーい! 今日も夜通しゲームだ! 心ちゃん、今日は何のゲーム?」


「ふふっ、『バキバキメモリアル』、通称『バキメモ』です」


「知らんゲームやな⁉」


「バキバキに壊れたスマホから物語が始まるサスペンスホラーだな」


「サスペンスホラーなん⁉」


 躍が輝の説明に驚く。


「躍ん、楽しみだね!」


「……さっきからその躍んってなんやねん!」


「え? あだ名だけど、嫌だった?」


「嫌ではないけど……自分の名前、凛やろ? ちょっと被ってもうてるやん!」


「あ、そうか……まあ、そこはいいじゃん」


「ええんか⁉」


 躍が困惑する。

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