第3話(3)安全面に配慮

「給料も桁外れに良いからな~このバイトだけは絶対に逃せへんわ~!」


 茶色いロングヘアで白いTシャツに黒のショートパンツを穿いた女の子が声を上げる。


「ふふっ、なかなか元気の良い子がおるようどすなあ~」


 心が笑う。


「まだ始まらへんのかいな⁉」


「お待ちかねのようどすな……それでは始めてもらいまひょか」


 心の指示により、IKUSAなるものが始まる。黒服を着た女性が掛け声をかける。


「スタート!」


「よっしゃ!」


 数十人いる女の子が一斉に走り出し、アスレチックに挑む。輝が驚く。


「ひ、一人ずつではないのか⁉」


「時短の為どす」


「じ、時短って⁉」


「コンセプトカフェは明日にはオープンする予定どすから……」


「ええっ⁉」


「人を選ぶのにそうそう時間をかけてはいられないんどす……」


「い、いくらなんでも急過ぎるだろう!」


「書類選考の時点でコンセプトカフェなどの勤務経験がおありの方を優先して選考させてもらいましたから……」


「なんだ、それなら問題ないね」


 凛がうんうんと頷く。


「いや、問題あるだろ!」


「早速第一の関門どす!」


「む⁉」


 碁盤の目のように仕切られた床がそこにはある。床は目ごとにランダムに光が点灯したり、消えたりしている。


「光っている目の部分だけを正確にタイミングよく踏んで、次へ進まないとあきまへん!」


「……光っていないところを踏んだらどうなるの?」


「爆発します!」


「ば、爆発⁉」


「き、危険過ぎる!」


 心の言葉に凛たちが驚く。心がふっと笑う。


「爆発と言っても、ちょっと浮き上がる程度のことどす……」


「な~んだ、それなら安全だね」


「浮き上がる時点で安全ではないだろ!」


 呑気に頷く凛に輝がツッコむ。


「きゃあ⁉」


「13番、失格!」


「うわっ⁉」


「28番、失格!」


 光っていない部分を踏んでしまった女の子たちが次々と吹き飛ばされ、黒服の女性が失格を告げていく。


「ほっ、ほっ、ほっ!」


 茶色い髪の子が光っている部分を正確に踏んで飛ぶように走っていく。


「あの茶色い髪の子、すごい!」


「ふむ……卓越した反射神経とリズム感の為せる技どすなあ……」


 凛と心が感嘆とする。


「あはは! ほとんどヤマ勘じゃ! 運よく上手いこといきよる!」


「……野性的な勘の鋭さは選考基準に含まれるのか?」


「……」


 輝の問いに心は沈黙する。


「あ、何か円形に仕切られたところに入ったよ!」


 凛が指差す。円形に仕切られたスペースの周囲には十二の穴が空いており、スペースの中央には、道具がいくつか乗った台がある。


「あのスペースが第二の関門どす……!」


 気を取り直した心が呟く。


「第二の関門⁉」


 参加者がスペースの中央に立つと、十二の穴からランダムにボールが飛び出す。


「うっ⁉」


 ある女の子が野球ボールに当たる。


「36番、失格!」


「ぐっ⁉」


 別の女の子がサッカーボールに当たる。


「42番、失格!」


「こ、これは……」


「飛び出してくる様々なボールを道具で打ち返さなければ失格どす……野球ボールならバット、テニスボールならラケット、サッカーボールなら足で……!」


「あ、危ないだろう⁉」


「全部ゴム製どす……」


「それなら安心だね」


「体に当たる時点で安心出来ないが⁉」


 凛に対し、輝が声を上げる。


「そらっ!」


 茶色い髪の子が持ったバットでボールを打ち返す。


「おおっ!」


 凛が感嘆の声を上げる。


「へへ、甲子園のスタンドに飛び込んだかな⁉」


「あ! 今度はバレーボールが!」


「ほいっと!」


 茶色い髪の子が姿勢よくレシーブする。


「上手い!」


「どんなもんや!」


「あ‼ 今度はピンポン玉が!」


「よっと!」


 茶色い髪の子が手に取ったラケットで巧みに打ち返す。


「すごい!」


「サアー!」


「あ⁉ 今度はゴルフボールが!」


「チャー……シュー……メン!」


 茶色い髪の子が取り出したゴルフクラブでボールを的確に打ち返す。


「ナ、ナイスショット!」


「いや、ゴルフって、そういうスポーツじゃないだろう⁉」


 輝が戸惑う。


「正確な状況判断力、それに運動神経の良さ、なかなかどすなあ……」


 心が腕を組んで頷く。輝が問う。


「コンセプトカフェに必要か?」


「色々予期せぬことが起こりますから……」


「クリアです! どうぞ!」


「よっしゃ!」


 黒服に促され、茶色い髪の子がスペースを抜ける。


「つ、次の関門は⁉」


「一見すると何もないようだが……」


 凛と輝が心に視線を向ける。少し間を空けてから心が叫ぶ。


「……ゴールに向かって走れ!」


「えっ⁉」


「アスレチックを考えるの面倒になっているだろう!」


「シンプルイズベストとはよく言ったものどす……」


「物は言いようだな!」


「うおおっ!」


「は、速い!」


 茶色い髪の子の猛ダッシュに凛が驚く。輝が腕を組む。


「身体能力が高いな……果たしてコンセプトカフェのキャストにそこまで要求されるものなのかという気もするが……」


「ほら、色々、配達とかありますやろ?


「ラーメン屋か!」


 心の言葉に輝がツッコミを入れる。


「7番、ゴール!」


「やったで!」


 茶色い髪の子が派手なガッツポーズを取る。


「ふむ……わたくしたちもゴール付近に行くとしましょう……」


 心のあとに、凛たちが続く。


「はあ、はあ……」


「お疲れ様どす……」


「うん?」


「おめでとうございます、合格どす」


「ホンマ?」


「ホンマどす」


「やったあ!」


 茶色い髪の子が満面の笑みで万歳をする。


「お名前を伺っても?」


「ああ、ウチは茶屋町躍ちゃやまちおどりです!」


「茶屋町さん、どうぞよろしゅう……」


「よろしくお願いします!」


「早速ですが、明日から入れますか?」


「早速過ぎる!」


「全然問題ないです!」


「躊躇がない⁉」


 心と躍のやり取りに輝が困惑する。心は満足気に頷く。


「ふむ、それでは……」


「きゃああ!」


「⁉」


 悲鳴が上がった方に視線を向けると、カラスの頭をした怪人と桃色の全身タイツを着た戦闘員たちが現れる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る