楓と栞の目指す道

「大丈夫?」


俺は去っていった坪久田さんが見えなくなると、慌てて栞にかけよった。


「う、うん。ありがとう」


「怪我してない?」


「大丈夫。楓こそ怪我してない?坪久田さんのパンチ受け止めてたけど」


栞の体を一通り見てみたが、小さな怪我もないようだ。


おれはパンチを受けたくらいでそれ以外はないもしていない。


「大丈夫、大丈夫。かなり強くてびっくりしたけど、あれくらいならいくら受けてもへっちゃらだよ」


「強いんだね」


「まぁね、空手とかは習ってたし。」


「そうなんだ」


栞はいきなり立ち上がって、下を向いたかと思うと、勢いよく顔を上げ目があった。


「あの、本当にありがとう。楓が来てくれて本当に助かった。楓が来てくれなかったら本当にどうなっていたか」


そう言って私の手を握る栞の手は少し震えていた。


3人に囲まれていたのだ。


怖いのは当然だろう。こういう状態になったら俺だって怖い。


「気にしないでいいって。ピンチの時に助けに行くのが友達でしょ」


「うん、ありがとう」


そう言って、充血して、栞が目にためている涙をハンカチで拭った。


「でも、どっかに行く前に連絡くれたら嬉しかったかな」


「それはごめんね。いきなり、連れて行かれたから連絡する方法がなくて」


「え?無理やり連れて行かれたの?」


「う、うん」


「それはひどいね」


まじか。


あの令嬢たち3人で1人を拉致みたいなことをしたのか。


仮にも相手は社長令嬢だ。こんなことをして、無事で済むと思ったのだろうか。


どちらにしても、なんかややこしそうだ。


「多分、これからもこんなことされたりするのかな?」


「わかんない。でも、される可能性は高いと思う」


俺は栞を守ると言ったものの相手がどういう手段を下してくるのかはわからない。


今回のように俺がいないところでこんなことをされては守るどころか気付かない可能性まである。


「やっぱりそうかぁ。それなら対策を考えないとダメだね」


「ごめんね。こんなことに巻き込んじゃって」


「それなら、謝るのはこっちだよ。私が話しかけなければこんなことにはならなかったんだし。ごめんね」


元々俺が栞に話しかけたいと思わなければ、いや楓と入れ替わらなければこんなことにはなっていなかった。


悪いのは栞ではなく、完全に俺だ。


「そんなことないよ。楓のおかげで学校が楽しいと感じるようになったし、やりたいことも見つかった。今の私があるのは楓のおかげなんだよ。だから、そんなこと言わないで」


「それをいうなら、私の方もだよ。巻き込んだなんて言わないで」


「うん」


そう言い合って、お互いに沈黙してしまい、気まずい空気になってしまった。


「それでなんだけど、私、この学校の庶民と令嬢っていう分け方を無くしたいと思ってるの」


この気まずい空気をどうにかしたいと思って、出た言葉はそんな言葉だった。


「え?」


「ほら、今って令嬢が偉くて、庶民は令嬢の顔色を窺っている人が多いじゃん?それがみんな対等に接することができるような学校を作りたいなって思ってるんだけど、どう?」


俺はその言葉を言って若干後悔した。


言わなかった方が良かったか?


栞と俺と仲良くしてくれているとはいえ、社長令嬢だ。


栞がどんな反応をするか気になり、恐る恐る顔を見てみると、栞は手を顎にやり、真剣な表情で考えていた。


「どうって言われても、できたらいいなとは思うけど危ないし、どうやるつもりなの?」


そう言われてみれば、何も考えてない。


俺は全力で頭を回転させた。


「うーん。今パッと思いついたことなんだけど、おかしいと思っている人たちだけで組織を作って、生徒会に立候補すればいいんじゃない?そしたら、自分たちの意見を先生とか全校生徒に届けやすくなるんじゃない?」


生徒会というのは生徒の意見をまとめて、話し合いや校則などの改善の話し合いをするから、もし俺が生徒会長になれば、そういうことを改善できるかもしれない。


「でも、今までの生徒会って確か一人も企業の令嬢じゃない人から出たことなかったはずだよ」


そこまで顕著に令嬢とそうでない人との差が出ているのか。


かなり厳しそうだが、それでも簡単に諦めるわけには行かないし、そっちの方が萌えるな。


「だからこそ、組織を作るんだよ。社長令嬢だったとしてもおかしいと思う人を全員受け入れるそんな組織を。この学校の生徒会って生徒の投票で決まるでしょ?だから、きっといけるよ!」


「そんなうまく行くとは思えないけど、私もそれはおかしいと思っていたから、楓が頑張るなら私も頑張るよ!」 


真剣な表情から何かを決心した顔をしたかと思うと俺の方を向いてそんなことを口にした。


「本当に!?栞がいたら心強いよ。ありがとう。一緒に頑張ろうね」


俺1人じゃなくて、栞も手伝ってくれるなら、嬉しい。


それに令嬢がこっちに1人でもいると、他の令嬢たちも入りやすいだろう。


そう意味でも、勇気を出してくれたという意味でもその言葉は嬉しかった。


「う、うん。」


「じゃあ、今日の夜どうするか考えておくね」


そうなると本格的に家でどうするか考えないとな。


「私も頑張ってみる」


「ありがとう。じゃあ、帰ろうか」


もう空はすでに暗くなりかけていた。

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