決意と気付かぬ失敗

少し前、俺は校舎裏についていた。


覗き込むと坪久田さんが栞に詰め寄っているようだった。


今すぐ、出て行くべきかと思ったが、俺はしばらく様子を見るようにした。


栞は坪久田さん相手に自分の意見を怯むことなく伝えていた。


本当に1カ月前とは比べ物にならないくらい成長したな。


そして、栞は僕と話すことは自分の勝手だと言った。


他の人からすれば普通かもしれないが、令嬢にしっかりとここまで意見を伝えることができるのは、並の精神力じゃできない。


そのことが俺にとってはとても嬉しかった。


しかし、坪久田さんにとっては令嬢というものを汚そうとしていると捉えられる。 


それを聞いた坪久田さんは栞に向かって手を上げた。


その瞬間、俺は走り出した。


栞が殴られるところなんて見たいはずがない。


俺は坪久田さんと栞の間に急いで入り、坪久田さんのぐーぱんを片手で受け止めた。


「えっ」


坪久田さんは突如俺が入ってきて、拳を受けられたことに驚いていた。


しかし、俺からしてみればそれどころではなかった。


いってぇ。何、令嬢が人に向かってグーパンしてんだよ。

ガチで痛いじゃないか。


令嬢は、特に箱入りは身に何かあった時のために空手や柔道などを小さい頃から習わせているそうだ。


多分、坪久田さんもそれだ。


そうじゃないとこの威力は出せない。


しかし、ここで弱いところを見せれるはずがない。


これは何も感じてないような声で顔で


「栞さんに何をしているんですか?」


と尋ねた。


「あら、栞さん良かったですね。媚び売り犬が来てくれましたわよ」


さっきまで坪久田さんもかなり驚いていたが、それを感じさせないように栞にそう言い放った。


令嬢だからなのだろうか。それともあまり気にしていないのだろうか?


「犬じゃありません。それに友達のピンチに駆けつけるのは当たり前じゃありませんか?」


「楓、どうしてここに?」


栞は後ろで驚いた様子だ。


しかし、俺はそれを気にせず


「令嬢が手を挙げるなんて箱入りすぎて常識ができていないじゃないのでしょうか?」


俺は少し怒気を含んだ声でそう言った。


俺はこうなる前に早く止めに入るべきだったと少し後悔していた。


「間違った行動をしている人がいたら正すのが国を引っ張って行く令嬢の仕事ですわ」


しかし、坪久田さんは物怖じしない様子でそう言い張った。


「そんな人が国を引っ張っていくなんて、心配で安心して暮らすことができませんよ?」


それに対し、今度は俺も麗麗な感じでそう言い放った。


「それなら、違う国にでも行ったらどうです?この国から間違った行動をする愚か者が減って好都合ですわ」


「ご冗談を」


そうな感じで言い合った後、お互いに睨みを効かせ、沈黙の間何十秒か時間が経っていた。


俺はその間に少し落ち着きを取り戻し、内心ビクビクし始めていた。


しかし、当たり前だがこの行動に後悔はしていない。


「お邪魔が入りましたわ。じゃ、戻りましょうか」


沈黙を破り、坪久田さんがそう言うと、さっきまで黙っていた二人を連れて、帰って行こうとした。


「もうこんなことしないでいただけますか?」


俺はその背中にそう言うと、坪久田さんは後ろを振り返り、首を傾げた。


「なんでかしら?」


「気に食わないから、手を出すのはおかしいと思うのですが?」


「それを言うのなら、あなただって気に食わないからって私に対して、そんな態度を取るのもおかしいのではありませんか?」 


「それとこれは……」


それとこれとは違うと思う。


その気持ちを伝える前に俺の言葉は坪久田さんに遮られた。


「それに間違いを正すのが、令嬢の役目ですわ」


「それが間違っている方法だとしてもですか?」


「そうですわ。まぁ、私が間違うはずがありませんわ」


自信満々の様子で胸を張ってそう言った。


その様子を見て俺は悟った。


きっと、俺とこの人は一生分かり合えないんだろうなと。


そして、俺は決意した。


さっきの先生の言葉が俺には耳に残っていた。


「私はあなたたちが思うようにはしせません。絶対に栞を守ります。」


絶対に令嬢と庶民という括りを取り除く。


それがこの学校自体を壊すという方法だとしても。


俺はこの学校に来てから、栞という大事な友達に出会った。


それを守るためなら、大企業の娘だって敵に回してやる。


それに俺と楓はすでに大企業の社長を敵に回している。


それに比べたら、令嬢なんて怖くもない。


俺は決意を込めてそう言った。


その言葉に坪久田さんはビクッとしたが、その後すぐににんまりとした。


「そうですか。勝手にしなさい」


そう言って、坪久田さんは踵を返して去っていった。


その背中からは嫌な予感を感じていた。


そして、見えなくなる寸前に坪久田さんはもう一度振り返って最後に一言残した。


「ただの庶民がどこまでやれるか見ものですわ」

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