妹と一緒だとご飯はより美味しく感じるよね

「ただいま!言われた通り買ってきたぞ!」


家に帰ってそう叫んだが、昨日と違って何も返事がなかった。


どうかしたのだろうか?


俺は食材を台所に置き、家を探し回った。


なかなか見つからず、ちょっと心配になったが、楓の部屋の前に行くと中から何か作業をしているのか物音が聞こえてきた。


俺はこっそりドアを開けのぞくと、楓の顔は見えなかったが、真剣な様子でパソコンに向き合っていた。


楓もお金を稼ぐために頑張ってくれてるんだな。


よし、今日の晩御飯は忙しそうな楓の代わりに俺が作ろう!


俺は冷蔵庫の中から野菜をとって、鍋に水を入れ火にかけた。


作る料理はカレーだ!


楓が好きな食べ物の一つだから、頑張って疲れている楓も喜ぶだろう!


そう思い、カレーを作っていると、ドタドタという音が廊下から聞こえた。


「カレーの匂い!」


「ただいま」


どうやら楓はカレーの匂いに誘われてきたようだ。


目をキラキラに輝かせ、扉から飛び入ってきた。


うん、かわいい


「あれ?お兄ちゃん?帰ってきてたの?気づかなかった」


カレーの匂いで俺が作ってるとは思わなかったのだろうか。


それだけ俺のカレーの匂いが美味しそうだったってことだな。


そう考えると嬉しいな


「真剣そうにしてたからな、声をかけない方がいいかなと思ったんだよ」


「そんなことはないよ、帰ってたら私にすぐに言ってよ」


「なんでだ?」


集中している時に邪魔されるのは嫌だと思ったのだが…


「だって帰ってきたら玄関でおかえりしたいもん」


かわいい!


確かにそうだな逆の立場の時も俺は玄関で必ず待っていた。


楓もそう思うのは当然か。


「そうか、わかったよ」


「わかったならよし!」


グッジョブと手を突き出して、台所の方へとトコトコと歩いていく。


「あ!混ぜるの忘れてる!焦げちゃうよ」


「やべ!忘れてた!」


あ!楓が可愛すぎて、すっかり台所から離れてしまっていた。


せっかく美味しそうにできてたのに焦げたら台無しだ。


「もう、ダメだよ」


台所へ急いで行き、混ぜてみるとなんとか焦げていなかったようだ。


「楓に会えたのが嬉しくてな」


「えへへ」


嬉しそうにもじもじする楓を見て、やっぱりかわいいなと思った。


「もう少しでできるから、スプーン出しといてくれるか?」


「はーい」




「じゃあ、いただきます」


俺と楓は正面に座り、一緒に両手を合わせた。


「それで今日の学校はどうだったの?」


俺がカレーを口に一口入れると同時に楓にそんなことを言われた。


「それが聞いてくれ!もしかして、栞が神楽家って知っていたのか?」


「知っていたけどどうかしたの?」


それが何?とした感じでキョトンとする楓。


「なんで教えてくれなかったんだよ」


「え、まさか知らなかったの?ごめん、知らないとは思っていなかったんだもん」


ま、確かに屋上で話しているのを知っていたら、知っていると思うか。


名前聞く間も無く逃げられたからしょうがないっていえばしょうがない。


それに楓が通っていた高校にどんな人がいるのかとか事前に調べてなかった俺の落ち分でもあるしな。


「俺は通い始めて2日目だぞ。わかるわけないだろ。聞いた時めっちゃ驚いたぞ」


栞が神楽家だと知った時はまじでびっくりした。驚きすぎて、素が出てないか心配になったほどだ。


ていうか、少し出ていたかもしれない。


バレなくてよかった。


「じゃあ、茜さんが双子の姉ってことも言った方が良かった?」


そうだ、もう一つそれに関してもすごく驚いたな。


よく考えれば、いろいろあった1日だったな。


「そうだな。できるだけそういうことはおしえてほしいかな」


「了解!」


そう言いながら、楓はカレーを口の中に入れて「美味しい〜!」と言っていた。


本当に味わって食べているようだ。


ここまで美味しそうに食べてくれると作った側としてもとても嬉しいものだ。


「それで茜さんと栞さんはどうだった?仲良くなれた?」


「栞とは話せるけど、茜とは言い争いになったな」


「ほんとになんで?」


ほんとになんでだろう。


俺はただ、栞と仲良くしようとしていただけだ。


まぁ、人それぞれ価値観とかは違うものだからしょうがないのか。


「ほら、茜ってプライドとか高そうであまり普通の人と話さないだろ?」


「確かに他の社長令嬢とかとしか話してないね」


やっぱり、そうなのか。


「だから、栞と俺が話していることが気に食わないみたいでな」


「なるほどなるほど」


楓は手を顎に当てて考えながら、頷いていた。


そして、頭が止まったかと思うと俺の方を見た。


「それは夏休み明けから栞さんがお兄ちゃんと急に仲良くなったから、怪しく思ってるんじゃない?」


栞と俺がいきなり仲良くださなったから、心配しているのか?


でも、俺にはそういうふうには見えなかった。


心配しているなら、近くで見守ったりするはずだが、一方的に突き放していた。


「でも、俺には茜が栞を縛り付けているようにしか思えないんだよな」


俺がそうこぼすと、楓は心配そうな顔で俺を見つめた。


「じゃあ、栞さんとはもう話さないようにするの」


「それはないな」


俺はそれにはキッパリと答えた。


「どうして?」


「栞が茜に縛られてるところを見ると、昔の楓を思い出してこのままじゃいけないなって思うんだよ」


あの時、楓が親に縛られてた時、楓は助けてとは言わなかった。


それが楓にとっての普通だったからだ。


でも、親に期待されずにいろいろ経験できた俺からしたら、楓は異質な環境にいるのは明らかだった。


だから、俺は楓と一緒に逃げた。


それが正解か間違いかはわからなかったが、楓に普通を知って欲しかったのだ。


「あの時、お兄ちゃんが私に家を出ようって言ってくれなかったらこうはなってないしね」


結果、今こうやって楓と2人で仲良く暮らしていけてる。


俺は楓と一緒に家から飛び出して、正解だと思った。


だから、


「だから、栞ができるだけ楽しいようにしたいなって思うんだ」


「お兄ちゃん!かっこいい!」


手をぱちぱちと叩いて楓は褒めた。


「本当か?ありがとう!」


「うん!頑張って!応援するね」


こうやって、学校で起きたことを話しながら食べたカレーはいつも以上に美味しかった。

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