最終話 最後は必ず愛が勝つ

「……びっくりした。急になんかまぶしくなって、って、おお、ミナ、水着……めっちゃかわいいいし、めっちゃ似合う!」


 目を開き、開口一番にリュウヤは感想を漏らした。

 水着を着直したみなっちは、今や堂々と彼の前に立っている。


「……そ、そう? 嬉しい。実はね、リュウヤに見てもらいたくって、がんばったの!」

「え!? お、俺に?」

「うんっ……!」


 みなっちは照れくさそうに笑顔を浮かべた。


「そ、そっか。そういや、ミナ、バイトとかめっちゃしてたよね。あと、筋トレとかもしてなかったっけ? ジムで偶然見かけたわ」

「み、見てたの~?」


 みなっちと同じクラスのリュウヤは、生活圏内が彼女と同じであった。

 そのため、彼女をたまたま目にする機会が多かったのである。

 無論、偶然だけが、彼らの距離を近づけた理由ではないけれど。


「水着姿ももちろん可愛いけど、俺はそういう、努力するミナの姿がいいなって思った」

「ふ、ふ~ん?」

「あと、誰にでも優しいとことか、自分の芯持ってるとことか……」

「う、うん。そ、それってさ、つまり……!?」


 何かを期待するようなみなっちの上目遣いに、たじろぐリュウヤ。


「え、えっと……それから、もっと色んなミナが見てみたい。もっと……好きになりたい」


「……私も、リュウヤのこと、好き。陰で努力してるの、見てくれてるトコとか。人を見た目だけで判断しないトコとか。だから、もっとリュウヤのことを知りたいって思うの」


 みなっちはそう言うと、自らの胸に手を当てた。


「さっきみたいに言ってもらえたの、すごく嬉しい……。

 ねえ、私、今すごくドキドキしてる。心臓の音……聞いてみる?」


「うん」


 そう言うと、みなっちとリュウヤは抱き合った。

 周囲からひゅう、ひゅうと歓声があがる。


「よかったね……!」「みなっち……!」


 ギャル二人は感動のあまり涙していた。


「ぐうっ……!」「青春だなあ……!」


 なぜかチャラ男たちももらい泣きしていた。

 そんな観衆をよそに、みなっちとリュウヤは抱き合いながら、互いの耳元でささやくように話し続けた。


「ごめん、俺もドキドキしてるから、どっちの心臓の音だかよく分かんねえや」

「ふふふ。ひとつにつながったみたいで、なんか嬉しい!」


 みなっちの言い回しと、押しあてられている女の子の部分の感触に、否応なしに高まってしまうリュウヤ。


「はは、そんな風に言われると、ちょっと変な気分になっちゃうだろ。……あれ? なんか、くもってきた」


 見上げると、先ほどまでは晴れていた空に、灰色の雲がかかり始めていた。

 みなっちも同じく、空を見上げてつぶやく。


「なんかさ、急に晴れたり風吹いたり、変な天気だよねえ。そういえば……」


 彼女が先ほどの不思議な現象を思い出しながら話そうとすると、その異変は起こった。リュウヤがそれに気付いて声をあげる。


「雨だっ!」


 ぽつり、ぽつりと、それは無数の涙のように空から落ちてきて、二人の身体を濡らした。

 まるで、空が泣いているかのようだった。


「ほんとだ。どんどん強くなってきてない?」

「そうだな……って、さっきはさえぎってゴメン。なんか言おうとしてたか?」

「ううん、なにも!」

「んじゃ、ひとまず身体からだ冷える前に、浜にあがるか」

「うん!」


 みなっちは、リュウヤに手を引かれて砂浜へ向かう途中、後方の空を見て小さくつぶやいた。


「……ありがとう、かみさま」


 それからしばらくの間、少しだけ、雨は小ぶりになった。

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ドスケベ北風とえちえち太陽 こばなし @anima369

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