外来迎撃-ガイスト・アムーブ-

釣ール

正当防衛

 六陸りりくは野生的な勘を持っていた。

 都会に産まれたが昆虫に詳しく、嫌がる友人に昆虫が殺されないよう慎重に逃がし、交友関係にも傷がつかないように生きてきた。

 もう十九歳になってゲーミングパソコンとスマートフォンを適度に使いながら古き良き格ゲーを楽しむ生活に浸っている。


 巷じゃ「進化したカエル」が各地にいるだとかいないだとか令和になって妖怪騒ぎをする民衆に日常が忙しい六陸にとっては羨ましくも思える平穏な情報合戦ばかりだ。



 六陸はその情報に価値があると暇ついでに仮説を立てていた。

 ウシガエルが日本国内で大繁盛し、その生息地域はほぼ日本全国。

 共喰いによる生存確率を含めてもこの先滅びる可能性は限りなく低い。

 それは長い歴史で人間による第三者が繁殖に一枚噛んでいる可能性を考慮してもここまで生き残れたのは素の生命力にある。

 ザリガニやウシガエルは人間にとっては可食部が少ないが他の生き物からすれば一度食べれば充分な期間、何も食わず過ごせるサイズ。


 もし陰謀論を語る側ではなく、吹き込む側がヒトゲノムについて詳しかった場合。

 ウシガエルを伴侶にしたいと考える人間がクローン技術を応用してウシガエルを人間と同型の生命体として進化という名の変化を与えている可能性もある。


 日本の化学…または科学ではたかが知れているが油断はできまい。

 今のインターネットじゃその手の話は誰も収益化のために語る人間はいない。

 勿論これも仮定の話だ。

 あり得なくはないが現実的ではない。

 だがオカルトが衰退している現代でカエル人間が真偽不明で確認され、小説投稿サイトの御伽噺ではなく今日のSNSで一般人の間で話題になっているのは…。


 六陸は生きづらさの一部に人間以外の脅威が絡むかもしれないスリルを一度失われかけた野生的な勘で推測する。

 ただの考えすぎだし、十九歳かつ今時陰謀論なんて受け止めてしまったら外へ出歩けなくなる。

 外か。

 ちょうど夜は暗い。

 すぐ歩けば田園地帯がある都会にいるから安全に散策できる。

 勿論カエル人間なんか信じていない。

 もしいたら?そんな妄想を考えて何もないオチに安心するための散策だ。

 夜になれば警戒心が高いウシガエルが現れる。

 そして一部の人間もウシガエルを狩りに出かけるかも知れない。


 いやしないさ。

 カエル人間なんて。

 六陸はサンダルとジャージで田園地帯を散策した。

 もう中途半端に人間に開拓された場所なんて興味がない。

 更地と駐車場、評判の悪い工業地帯が広がってお情けに広がる田園地帯に思い出フィルターなんてなく、ただ通り過ぎるだけだ。



 グエッ!


 何かの鳴き声か。

 夜行性の動物ならいつもお化け屋敷よりも怖い悲鳴をあげて人間を怖がらせながら息絶える。

 それが繰り返されるだけかと思えば…



 いた。

 カエル人間!


 あれだけ臆病なウシガエルらしき模様をした二足歩行で歩く生き物。

 それでも人間の前に現れるなんてウシガエルらしくもない。

 たった一人だからって油断しやがって。



 思い出してきた。

 廃墟で肝試しをしていたら彼女をナンパしようとした集団のヤバイ人間を六陸一人で倒して雄叫びをあげたことを。

 フィクションみたいにかっこいいとは言われず、彼女から警察にどう説明したらいい?と現実的な対処方法を尋ねられて「正当防衛でお願い。峰打ちだから過剰じゃないし。」

 とほぼ無傷で言ってしまってその後自然消滅した過去を思い出した。


 今回はそういう面倒なこともなく終わりそうだ。

 カエルの跳躍能力に気をつければあとは口と前脚を使った捕食行動のみ。

 六陸はカエル人間の懐に入り、相手がこちらを噛み付こうとした後に腹部へ一撃をお見舞いした。


 グエッオオ!

 キューーー!!


 猫のような鳴き声で激昂か。

 予想通り。

 六陸は一気に畳み掛けてとどめを刺した。


「悪く思うな。

 まだ死にたくないからな。」


 カエル人間は嗚咽を混ぜてドブと田んぼの間に崩れ落ちる。

 これじゃ殺害現場だ。

 あたりを見渡したら計画的な犯行だと思われる。

 偶然現れたカエル人間の人権は知らないが恐らく事故を装わないとこちらが罪に問われる。

 だから証拠も押さえておいた。

 三十年前以前の特撮番組のように何事もなく日常が進むわけでもないし。


 案の定目撃者は存在した。

 一部始終は見られていないから説明が大変。

 世知辛いのは産まれてすぐ経験している年代だからこれくらいは別にいい。

 そして恐れていた仮説はある程度は当たっていそうだ。


 写真と遺伝子情報は回収した。

 久々に野生的な感覚を思い出し、興味のなかった両生類について学びなおすのだった。

 大学へいく学費はなかったがそれ相応の勉強はゲーム仲間から聞いていた。


「この特ダネはしばらく封印だな。」


 喧嘩の強さは今後未知の生物に出会った時に使えそうだ。

 プロポーズに使えないのなら身を守るために使う。

 無駄のない生き方でハイリスクではあるが、いい経験だった。

 カエル人間への対処を経験し、少しずつ広めるか。

 これなら共存としての建前にもなる。


 面倒な時代になってしまったな。

 六陸は未来に少し落胆した。

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