童謡「シャボン玉」、この歌をきけば、青空に消えていく虹色の玉を見送る子どもたちの笑顔が想い浮かぶ。
ところがこの童謡の裏話とされている一説を知ると、気分が沈む。
作詞した野口雨情は、幼くして亡くした我が子のことを、この詩に篭めていたのではないかとされている。
なんの根拠もない俗説であるが、その説を採用すると、「シャボン玉」には儚いしゃぼん玉を見送る親の眼が加わり、しんみりしてしまう。
このように作者の人生を知ることで、観る眼ががらりと変わる作品というものが世の中にはある。この『マスキャランド創世記』もその一つ。
まずは何の先入観もなく読んでみて欲しい。
読みましたか?
なんだこれ。と想いますよね。
人間世界に侵攻を始める人工知能のごとく、唐突に凶暴さを曝け出して、暴徒化するマスキャラ。
作者のそうざさんは、漫画家のアシスタントをされていた経歴を持つ。
どんな漫画のアシストを請け負っていたのかというと警察漫画だ。テレビドラマ化もされた。
警察漫画なのだから、アシスタントの手許には警察関連の細かい小物の描写が回ってくる。
資料をみながらアシスタントは忠実に写す。
パトカー、制服、旭日章、警察署。
描く。
描く。
描く、毎日、同じものを。
こんなことばかりやってないで、自分の漫画が描きてえなぁ。
その時のアシさんたちの気も狂いそうな雄たけびが、机をひっくり返して外に飛び出したいほどの蓄積された怨念が、時を経て、ついにマスコットキャラに乗り移った。
お上の走狗ポリ公キャラがなんぼのもんじゃい。
その小賢しい角、斬り落として所轄に青い血吹雪まき散らしたる。
これはそんな血迷った作品なのだ。
敵の旗印にされたピーポくんこそ災難である。
そんなわけで、そうざさんの経歴を知るわたしは、笑いをかみ殺しながら読んだ。