商売

エロイス教の襲撃から一か月。バーサク領民、鬼畜騎士団長、叛逆のエルフ、そして、新たにリースが率いる魔法軍が加わった。


エロイス教の女たちは元騎士や貴族ということでみんな魔法を使える。そんな人間が一つのまとまりとして僕の領地の魔法軍となった。


しかし、そんなことはどうでもいい!


あいつらは例によって僕の毒殺に恨みを持っている輩たちだ。名前も『毒滅の魔法軍』でいいのかと尋ねられた。明らかに『毒滅の騎士団』にちなんでいるということは分かった。僕を殺す組織になぜ名前を付けなければならないのかと途方にくれたがそこは天才的な発想で乗り越えた。


「『毒滅の宮廷魔法軍』でいいんじゃない?ついでに『毒滅の王国騎士団』にしよう」


魔法軍の名前も格上げしてあげた。ただ、それだとリースのだけ優遇した形になるから騎士団も王国という名前を入れた。これで僕たちは王に忠誠を誓ったと考えてくれるはずだ!


ピンチはチャンス


僕は自分の命の危機を王への媚売りをに使ったのだ。これで王に忠誠を誓ったとみんなが考えてくれるはずだ。こうやって擦り寄っておけばいつかは王たちが助けてくれるよね!きっと・・・


ただ、フィーアたちに名付けと変更を伝えたら「ついに、お動きになるのですね!」と喜色満面に言っていた。動き出すって何なんだ?


まぁいいや。それよりもエロイス教の事件から身重になる女性が増えているのだ。将来の納税候補が増えるのだから、歓迎すべきことだ。


ただ、このライト―ンで妊婦たちが安心して子供を作ることができるのだろうかと不安になった。だいぶ改善されたとはいえ、基本的には僕を暗殺しようと企んでいるごろつき共だ。最低な人間が集まったと想定しておいた方が良い。


僕は子育て経験のある有識者を広場に集めた。そして、妊娠中の不安や恐怖、そして、あったら嬉しいものをプレゼンしてもらった。


僕は妊婦と子供のために施設を作ることにした。妊婦同士で不安を紛らわせる場所、そして、子供にしっかり教育を受けさせることができる教育機関だ。教育レベルが低いと僕の崇高な考えを理解してもらえず、反乱を起こされる。


だったら早いうちに反乱分子を消しておくべきだよね!


・・・って思ったんだけど、意外なことに先生をやりたいと挙手してきたのはリースだった。僕としては税金ライト―ンの未来に僕のことを恨みまくっている筆頭の一人が偏向思想を植え付けそうで怖かったので、当然反対した。


ただ、今まで摘み取ってきた命に贖罪するべく、未来ある若者のために残りの人生を使いたいと言われてしまった。『毒滅の宮廷魔法軍』もあるのに大丈夫かと聞いたら、むしろ癒されるから大丈夫だと言われてしまい、僕にできることは偏った考えを押し付けないようにと釘を刺すだけだった。


過ぎたことは未来の僕にぶん投げる。


それよりもお金がない。


僕を殺そうとする領民が増えているので、税金を上げることができない。むしろ、人が増えるにつれて税率を減らし、3%にまで下がっている。この辺りは亡きルッセーナ夫人と違って領主の才能のなさを嘆くところだ。


まぁそれでも税収自体は増えているし、領内もあり得ないほど発展している。ここらで税率を上げたらダメかなぁ?ダメだよなぁ・・・


「はぁ・・・」

「どうしたのノル?さっきからため息ばかり。私たちにできることならなんでもするわよ!」

「ノル様の苦しみはわたくしたちの苦しみですわ」


執務室にいるアジーンとリースが僕に声をかけてきた。フィーアは領民たちの指導だ。


正直君たちのことが悩みの99%なんだけど、そんなことを言ったら殺されるに決まっている。でも、お金のことなら、相談してもいいか。巡り巡って領民たちのためになるし、殺されることはないだろう。


「ちょっと資金繰りについて考えていてね」

「それは大変ね。私たちエルフは物々交換が主だから経済的な話には疎いのよね」


エルフって物々交換なんだ。長命種だと欲がないからなのかね。


「でしたら、産業を興し、他の領地に売るのがよろしいかと」

「やっぱりその発想になるよね」


僕はソファーの真ん中で隣にアジーンとリースと供に座っている。そして、エルフにとって何よりも大切なカンミを二人が食べさせてくれるが、暗殺者と肌が触れあっているこの状況では恐怖が身体を支配していた。


そんなことを考えながら、カンミを僕の口の中に楽しそうに突っ込んでくるアジーンとリース。毒でも塗りたくっているんだろうけど、僕はこの程度じゃ死なないぞ?


あっそうだ。


「アジーン、このカンミを商売に使っちゃダメ?」


やっべえ。神のごときアイデアが浮かんできたから、デリカシーのないことを言ってしまったわ。カンミはエルフにとって命よりも大事なもの。それを商品にするなど━━━


「いいわよ」

「ダメだよなぁ━━え?いいの?」


意外過ぎて驚いてしまった。そんな僕を見ながらアジーンはクスリと笑った。


「ノルの毒魔法のおかげで『ライト―ン樹海』には聖樹が何本も生えているわ。むしろ余っているくらいだし、領内のためにどんどん売って頂戴」

「ありがとう」


いいのかエルフ?あれだけ人間にちょっかいをかけるくらいに大切な物を商売の道具にするなんて・・・


まぁいいか。アジーンがいいって言ってるんだし。


「ただ、一つ問題があるのよ。カンミは聖樹から切り離されると、すぐに腐ってしまうわ。それを商品にできるのかしら?」

「ああ・・・そんな問題が・・・」

「それなら心配に及びませんわ」


リースが僕とアジーンの会話に入り込んできた。


「わたくしは収納魔法を使えますわ。私が収納したいものをこの穴の中にいれることができます。中では時間が停まっているので、他の領地に運べるはずですわ」

「それは凄いな。ぜひお願いしたい」

「お褒めに預かり光栄ですわ」


だけど、魔法としては弱いなぁ。聞いてる限り、収納魔法ってものを入れるだけのカス能力でしょ?こんなんでエロイス教を引っ張ってこれるんだったら、『毒滅の宮廷魔法軍』もあまり大したことがないのかもしれない。


「収納魔法を直に拝見したいわね。聞いたこともないし、どういうものなのか気になるわ」

「でしたら、聖樹の元に行きましょう。そこで実際に見せてさしあげますわ」

「うむ」


ぶっちゃけ興味なんて湧くわけがないんだけど、敵の能力を把握するのはこれからの生存戦略において何よりも大事だ。敵を知ればいくらでも対策できるからね!


━━━


「凄いわね!本当に無限に入るわ!」

「わたくしも容量については把握できていないのですが、満タンになったことは一度もありませんわ」


カンミを収穫してはリースの作った黒い穴にカンミを入れていく。アジーンや他のエルフたちは楽しそうにしていた。


「ふぁああ」


僕は聖樹の根元で眠くなっていた。最近、神経をすり減らしていたから、木陰の心地よさに瞼が落ちてきた。


「グモォ」

「おっ、君もか・・・は?」


僕の隣で大口を開けている魔獣がいた。あまりの衝撃に声が出なかった。そして、僕に噛みついてきたのを間一髪躱した。あぶねえ・・・


「ノル!大丈夫?」

「ご無事ですか!?」

「心配ない」


アジーンとリースが駆け寄ってきた。


あっぶねぇ。咄嗟に毒を使って感情を殺したから動揺した表情は見せていないはずだ。


僕が無事だと分かるとリースとアジーンはほっと一息。そして、リースが、魔力を爆発させ、魔獣に向かって憤怒の表情を向けた。


「ノル様に対する愚行!死んで詫びなさい!」


収納魔法の穴が無数展開され、魔獣を囲んだ。そして、穴から矢や槍、剣など武器が射出され魔獣を血だらけにした。


「グモォ・・・グモ!!」


血だらけになった魔獣が最後の力を振り絞りリースに突進する。


「リース!?避けて!」


アジーンが心配そうに声をあげるが、リースは落ち着いた雰囲気で真横に収納穴を作り出し、シスターに似合わない大斧を取り出した。


「懺悔はあの世でお願いしますわ」


そして、トドメにシスターの体格に似合わない大斧を軽々と持ち上げ、魔獣を横薙ぎに一刀両断した。ブシャーと血をまき散らし、血まみれになったリースは僕の方を見て、天使のような表情を向けてきた。


「ご無事で何よりです」

「あ、ああ」


リース超つええええ!?収納魔法ってゴミ魔法じゃなかったの!?ってかあの斧、何?リースの細身でなんであんなに豪快に扱えるの?


僕が内心で取り乱していると、アジーンがリースの元に駆け寄った。


「凄いわリース!収納魔法って弱いと思っていたわ!それに豪快な武器を使うのね!」

「ありがとうござますわ。淑女としては恥ずかしいのですが、刃物を使う才能が少々あったみたいなもので・・・」


少々ってなんやねん。


照れてるけど、その無骨な大斧とシスターという対極にあるものが混同しているせいでめちゃくちゃ怖い。リースはアジーンとフィーアに比べたら脅威にならないかと思ったけど、全然そんなことなかったわ。


「この力でライト―ンに降りかかる災厄は振り払いますわ」


いい笑顔で絶対に逃がさねぇよと言われている気分だったが、僕に選択肢はない。


「・・・よろしく頼むよ」

「はい!」


━━━


運搬に関してはリースの収納魔法があればなんとかなると分かった。後は通信魔法でフィーアにバーサーク領民たちを使って、他の領地への道を整備するように頼んだ。もちろん特別賞与は出すという条件を付きだ。


エルフの森に浸食されすぎたせいで道らしい道がないのだ。ここをちゃんと整備しないとカンミの運搬でてこずるだろうしね。


領民どころかエルフたちも手伝ってくれたので、三日もあれば終わると言われた。


やっぱりあいつらおかしいわ。


僕は屋敷に戻った後、さっそくドケチ=キタネーゾ子爵にカンミの商売の嘆願書を送ることにした。


子爵とは最後に僕がお金を返せと送ってから何の連絡をとっていない。おそらくだけど、僕のことを金にがめつい男だと思っているのだろう。これは良くない。だから、僕は手紙と共にとっておきのカンミを少々送ることにした。


僕が丹精込めて選んだもの・・・・・・・・・・だから、機嫌も良くなるはずだ。


信頼を取り戻すには現物が一番だし、美味しいものを食べると元気が出るからね!


「それに逃亡するにはお金と人脈が必要だ。デブス叔父さんと仲よくしていたみたいだし、ちゃんと交流を深めれば僕とも仲良くなって匿ってくれるかもしれない」


ノルの頭にあるのはライト―ンからどう逃げるかだけだった。


しかし、この手紙がまた事件を巻き起こすことになる。

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明らかにざまぁされる側のクズ領主はご都合主義展開に気付かない ~領民たちを毒魔法で殺しまくってたら、国を救った英雄になっていた件~ addict @addict110217

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