お偉いさん来訪

エルフの長であるアジーンが僕に暗殺されかけてから1か月。アジーンはエルフの領地をすべて僕にくれた。ついでに森の名前も『ライト―ン樹海』という名前になった。


狙いはわかってる。僕がヘマをするのを見つけて殺すためだ。地図を見せてもらったがライト―ン領よりも何倍も大きい面積を誇る森だ。並みの領主では何もできずに終わってしまうだろうが、僕は完璧聡明美男子だ。不可能なんてあるわけがない。というか死にたくないので本気を出す。


それと聖樹の噂を聞きつけたエルフたちが『ライト―ン樹海』に流入してきた。あまりに移民が多いと管理が大変なのだが、断ったら射殺されるに決まっているので仕方がない。


まぁ、エルフのみんなは聖樹を見ると涙を流して僕に感謝してくれるから気分はいい。


フィーアはエルフと人間の混合の兵団を作ろうとしているらしい。エルフは遠距離攻撃を、人間が近接攻撃を行うというシンプルだが最高の組み合わせができたとか。そのおかげで大変機嫌がよろしくて何よりだ。


ついでに毒耐性を付けたいとのことだったのでエルフにも毒を注入した。筋肉ゴリゴリのバーサーカーではなく、視力などの感覚器官が超絶進化したスナイパー特化の身体になってしまったらしい。フィーアとアジーンは褒めてくれたが君らの考えていることなんてお見通しだ。


僕が自分の首を絞める遠距離殺戮者を作ったことを笑っているんだろ?チクショウめ!


後はアジーンの植物魔法で鋼樹という木で植物のようなしなやかさを持ちながら鉄のように硬い木を育てた。兵士たちの武器を強化するためらしい。鉄などの武器を渡さなかったのは反乱を起こさせないためだったのだが、アジーンには逆らうことができない。


つまり、フィーアの軍隊+アジーンの最強装備=僕の死、という方程式が出来上がってきたわけだ。


だからこそ今日の面会は大事なものだ。久しぶりに先代領主の頃からお世話になっていた人たちが僕の屋敷に来る。そこで僕はお願いするわけだ。


「僕をこの領地から匿ってください!」


と、ね。


毎夜、フィーアとアジーンが僕のベッドに侵入してくるのは心臓に悪い。僕の危機察知能力はピカイチだから、今の今まで何も悪いことは起こっていない。僕が起きると残念そうに自分たちの部屋に戻っていく。


暗殺できなくて残念だったな!


チリンチリーン


「おっ、来たか」


ついに僕の救世主たちが来てくれたようだ!


◇ ◇ ◇


応接間にて中央に僕、右に商人のザマス=ルッセーナ夫人、左に父上の右腕でありながら、元騎士団長のハゲス=ハエナスギ卿、そして、中央で僕と向かいあっているのは父のいとこにあたるデブス=フケンコウス卿。


僕の背後にアジーンとフィーアが控えていた。二人ともオシャレをしまくっていた。ついでに挑発的な服装で胸元が開けすぎていた。


「「ほぉ」」


ハゲス元騎士団長とデブス叔父さんが見惚れていた。


はっ!もしかして後ろのアジーンとフィーアは金持ち権力者と結婚してニート生活を送りたいのではなかろうか。ライト―ン領から税を貪るだけに飽き足らず、僕の恩人たちにも取り入って贅沢をしようなどということは絶対に許せん。阻止してやる!


「お二人とも、僕の大切な女性にそのような不躾な視線をやめていただけませんか?」

「ノルさん・・・」「ノル・・・」


直接言うと殺されるかもしれないから、僕は目の前のハゲス卿とデブス卿を通して間接的に二人の作戦を阻止することにした。彼らは清廉潔白な男たちだ。色気なんかに負けるわけがないのだよ。


その証拠にアジーンとフィーアは残念そうな顔をしている。


ざまあ見ろ!(笑)


僕の腹心というのは事実だし、何も間違ったことなど言っていない。窮鼠猫を嚙むというが僕もようやくやり返せたらしい。


後でやり返されたりしないよね・・・?


「言うようになったじゃないか、ノル坊。兵の練度はどうなんだ?わしがいなければならないというなら金次第で戻ってやらんこともないが・・・」

「御心配には及びません、ハゲス元騎士団長・・・・・。貴方がいなくなったおかげで僕の領地の兵士の練度は国一と自負しております。ですから、ハゲス卿の手は借りません!」

「なっ!」


可愛い子には旅をさせよ。僕は優秀な男だったけど一人で何かを成したことがなかった。それは周りの人材が優秀だったからだ。それが両親の死を受けて独り立ちをしなきゃいけないときに、いかに自分が矮小だったかをとくと思い知らされた。


その時に驕りを捨てられたことが僕を優秀な人間から超優秀な人間へと進化させたのだ。だからといってハゲス元騎士団長に戻ってきて欲しくないかと言われたら答えはノーだ。


だけど、兵士の練度は僕を殺すという目的で日々進化している。そんな中でハゲス卿が再任したら暗殺される恐れがあるのだ。世話になった人をみすみす殺すなんてことは僕にはできない。


それに僕は親のように思っていたハゲス卿の手を借りなくてもやっていけると証明したいんだ。だから、僕は元騎士団長と強調した。僕の言葉を受けて、現にハゲス団長の綺麗な頭から首元まで真っ赤っかになっていた。


それだけ喜んでいただけるなんて僕はなんて親孝行者なんだろうか!


「お坊ちゃん久しぶりザマスね」

「お久しぶりです。ルッセーナ夫人」


ルッセーナ夫人は自分の商会を持ちながらライト―ン領の財政顧問を担っていた。どんな税率であったとしても領民たちに確実に払わせていたその手法は今でも尊敬している。僕は税率を下げて媚を売るというやり方しか知らない。


そして、平民なのに贅の限りを尽くしたその貴族っぷりには脱帽していた。僕もいずれルッセーナ夫人と同じようなことをしたいものだ。


「私がいない間にライト―ン領は素晴らしく発展してきたザマスねぇ。私が再び財政顧問として雇われてあげてもいいザマスよ?」


マジか!それはとてつもなく嬉しい。この人がいれば僕の夢は一瞬で叶うだろう。しかし、アジーンとフィーアから殺気を感じた。


怖いよぉ!


またまた失念していたが、僕は常に死を両隣に置いている。そんな過酷な領地に天才商人のルッセーナ夫人に来てもらうわけにはいかない。税率を上げたら巡り巡って僕が死ぬ。贅沢をするという夢と共に心中する覚悟は僕にはまだなかった・・・


「申し訳ないのですが、ルッセーナ夫人では僕の領地で活躍する場はないと思います。むしろ僕を雇ってみませんか?経営を任せていただければ商会のさらなる躍進をお約束しますよ?」

「・・・言うようになったザマスね」

「お褒めに預かり光栄です」

「褒めてないザマス!」


やんわりとここにいたら死ぬよって言いつつ、僕をここから逃がしてくださいというニュアンスを込めたのが、断られてしまった。しかも、最後に厳しい言葉を僕にくれた。調子に乗りかけていた僕にはいい薬になった。


「ぐふふ、イイ女を侍らせるようになったじゃないグフかぁ、ノル~」

「デブス叔父さんこそお元気そうで何よりですよ」

「ぐふふ、なぁノル。どっちか女を貸してグフオぉ。昔から色々してやったグフオぉ?」


確かにそうだ。デブス叔父さんは魔法の使える人材として僕の家の自宅警備員をしてくれていた。そして、僕には働かないでお金を得ることの素晴らしさ、働く愚かさを啓蒙してくれた。魔法の使い方なんかもデブス叔父さんに教わったのだ。つまり、師匠ということだ。


父さんはたまにお金を使いすぎるデブス叔父さんに苦言を呈していたが、僕からすれば素晴らしき先生だ。もっとたくさんお金をあげてもいいと思っていた。


そんな大恩ある叔父さんが僕にお願いを言ってきたのだ。なんとかして叶えてあげたい。しかし、後ろの女共は僕の暗殺が目的のヤベぇやつらだ。そんなのを叔父さんにあげたら、殺されて財産を奪われてしまうに決まっている。


そして叔父さんの財産と僕からの給金でずっと遊び続けるに決まっている!なんて穀粒しだ!許せん!だとしたら僕のやることは決まった。


「すいません、叔父さん。フィーアとアジーン穀粒しにものをあげてはいけないという家訓(嘘)があるのです」

「ほ、ほぉ。穀粒しか・・・言うようになったグフなぁ」

「叔父さんほどじゃありませんよ」


ブチっ


叔父さんが僕の度胸を褒めてくれたぞ!やったね!


僕が暗殺者たちにいつでも殺される状態にあるにも関わらず、そこに勇敢に皮肉をねじ込んだ僕を褒めてくれたんだ。いやぁ、叔父さんはやっぱり凄い人だよ。見る目ありすぎだよ!


三人ともプルプル震えながら、僕の用意したコーヒーを飲んでいた。ずっと口を付けて僕の方を全く見ようとしないくらいに美味しく飲んでくれているのかぁ。いやぁ参ったなぁ。嬉しすぎる。


そして、最後までコーヒーを口にした後、叔父さんたちは顔を真っ赤にして立ち上がった。


「せいぜい領民たちに寝首をかかれないように気を付けるんだな」

「私がこれから坊ちゃんを支援することはもうないザマス」

「ぐふふ、キタネーゾ子爵と共に今度は千人の部下を連れてくる。後悔しないように振舞うグフな」


去り際になんて素敵なことを言ってくれるんだ!


僕が領民に狙われていることを知って応援してくれるハゲス元騎士団長、もう商会の力を借りなくてもやっていけると認めてくれたルッセーナ夫人、最後に、僕の領地の素晴らしさを知ってキタネーゾ子爵と共にまた遊びに来てくれると言ってくれたデブス叔父さん。


僕は感動で涙を流したかったが毒が効いているので、表情が貴族だ。こんな時くらいはガン泣きしたいものだ。ただ、ここで何もせずに帰してはノル=ライト―ンの名が廃ってしまう。


「お待ちください、皆さん」


僕の言葉を聞いて叔父さんたちはこっちを振り向いた。そして、僕はフィーアとアジーンに例のモノをとりに行かせた。


「これ、僕からの気持ちです。最期・・になりますが、再会できて嬉しかったです」


僕は金貨百枚を一人ずつに与えた。今までライト―ン領に尽くしてくれたお礼だ。大赤字の領地の虎の子だったが、人とのつながりは何よりも大事なものだ。こういうところで出し渋ってはいけない。


「ふん、礼儀はなっているらしいな」

「貰えるものはもらっとくザマス」

「ぐふふ、いい子に育ったグフねぇ」


僕からの気持ちを確認して、叔父さんたちは最後、満足そうな顔をして帰っていった。久々に良い一日を過ごせて僕も大満足だ。

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