キチーク団長のバーサーカー指導

「ねぇアレを見て?フィーアちゃん、ついにやったのね!」

「あれだけ頑張ってたんだ!団長、おめでとうございます!」

「ノル様羨ましいです!お二人ともお幸せに!」

「領主様ぁ!不幸にしたらぶん殴りに行きますからね!」


ヒぃ!やっぱり僕を粛清するために戻ってきたんだ!


僕は今、領内をフィーアと共に歩いていた。フィーアは僕を逃がさないように僕の腕をがっちりホールドしていた。


「黙れ〇〇〇ピー共!さっさと持ち場に戻らんか!」

「「「イエッサー!ボス!」」」


フィーアが領主顔負けの恐ろしい表情で領民たちに言い聞かせていた。めっちゃ怖いよぉ。そして、領民たちが自分の仕事に戻ると、


「すいません、はしたないところをお見せしました」


普段の顔と騎士の顔のギャップがとにかく恐ろしい。


「いいさ。それにしても随分変わったね。見違えたよ」


見違えたというか別人になったというか。毒を使ってるのに驚愕でいっぱいいっぱいだった。


「ありがとうございます!それもこれもノルさんのおかげです!」

「それは言い過ぎだよ」

「いえ、そんなことはありません!お酒を酌み交わし、そして、想いを伝えてくださったことで私は今日まで頑張ってこれましたから!」

「そうか」


寒気が止まらない・・・


『お酒を酌み交わし、想いを伝えた』って、つまりは僕が毒殺をしようとしていたことがバレたってことでしょ?そして、今日まで頑張ってこれたのは僕への殺意(愛)ということだ。


滅茶苦茶恨まれていることだけはよく伝わってきた。とりあえず・・・


「フィーアの騎士団ができたことは良かったね」

「き、き、き、騎士団ですか!?」


騎士団は直属の精鋭たちのことを指す。僕としてもこんな称号をあげたくはないが、名誉でもなんでも与えておかないと僕が死ぬ。ついでにこれもだ。


「騎士団設立を記念を祝して、君らに祝金を授与しようと思うんだけどどう?」

「ノルさん!」

「うお~なんだ?」


メンタルが鬼つよなので驚きが間延びしてしまった。


「私たち、一生忠誠を誓います!」

「よろしくね?」

「はい!」


フィーアは泣いて忠誠を誓っていたが、天才の僕には裏で何を考えているかなんてすぐにわかってしまう。つまり一生をかけて僕を監視し続けながら、給金を貰い続けるということだ。そして、変なことをしたらすぐに殺すぞって言われているわけだ。


祝金をもらったかとりあえずは見逃してくれるっぽい。


ああ、僕の美女を囲って美味しい食べ物を食べるという夢がどんどん遠ざかって悲しくなった。


このまま暗いことばかり考えていても仕方がないので切り替えることにした。


「それで、僕たちは今、どこに向かってるの?」


フィーアに促されるままに領内を歩いているのだが、僕だって忙しい。せめて目的地でも教えてくれればいいのだが、


「秘密です」


全然教えてくれない。もしかして、僕を暗殺しようというのではないのだろうか?このまま人がいない場所に連れ込み、そのまま集団でリンチにしようというのではなかろうか?


「着きましたよ」

「え?ああ、そうか」


考え事をしていたから、少し動揺した。そこは領内から外れた森の中だった。そういえば領民たちが森の中に入っていた気がすると思って顔を上げてみると、そこには、


「おらあああ!さっさと仕留めやがれ!」

「腹筋一万回じゃああ!」

「スクワット千回!巨岩を乗っけてなあああ!」

「腕立て伏千回はじめええ!」

「くたばれゴミクズ!」

「こっちの台詞じゃあ!」


魔獣を数人で追い込み、地獄の筋トレをして、木刀で斬り合いをする元領民バーサーカーたち。砂煙を巻き起こし、森の中に響き渡るその轟音はさながら戦場の雰囲気を醸し出していた。


「えっとこれは・・・」

「私の兵士、じゃなくて騎士団の修練です。森の一区画に修練場を作って日夜稽古に励んでおります」

「そうか」


ヤバイよぉ・・・僕の毒を喰らって進化したバーサーカーがさらなるバーサーカーになってるじゃん・・・


「おっ、キチーク団長だ。お勤めご苦労様です!」

「姐御!魔獣100体、倒し終わりました!」

「エルフのクソ共がちょっかいをかけてきたので追い払っておきました!」


一斉に男たちがフィーアの元に訪れた。怖すぎ。


「━━━おいクソ共、領主様の前で私に恥をかかせるなんて、偉くなったもんだなぁ、ええ?」

「ヒぃ!」


前言撤回。フィーアの方が滅茶苦茶怖い。そして、フィーアの声で僕が隣にいることに気が付いたバーサーカーたち。


「ノル様!いたのですか!?」

「大変失礼いたしました!」

「ということはついに姐御と!?」

「おめでとうございます!」

「じゃあああかましい!さっさと魔獣千体狩ってこんかい!」

「「「イエッサー!」」」


精錬された騎士のごとく、森の奥に領民たちは入っていってしまった。


「大変失礼いたしました。全くあいつらは・・・私ももっと精進しなければなりませんね・・・」

「ふっ、そんなことはない。君の努力は誰よりも知っているよ。よく頑張っているじゃないか」

「そ、そんなことありませんよ~」


そんなことあるんですよ~


照れ隠しなのか、そこら辺に落ちていた丸太を蹴り上げて、腰に下げている剣を目に見えない速度で抜刀し、縦横無尽に斬り裂いた。


フィーアさん、剣術だとキタネーゾ子爵のところでペケっていってなかったっけ?明らかに凄腕の剣士になっているんですけど・・・


「あ、そうだ。ノルさんに大変大事なことをお伝えし忘れていました」

「ん?何かな?」


これ以上驚くことなんてないだろうから、僕の心は凪のようだ。


「ノルさんはかつての私におっしゃいました。魔法の良し悪しは使い手次第であると」

「ああ、言ったね」


そんなこと言ったっけ?だとしたら僕もいいことを言ったものだ。


「ですので、私も通信魔法を極めてみました」

「ほぉ」


あのゴミ魔法を極めたところで特に驚くようなことはない。通信魔法はマーキングをした人間と遠距離でも会話できる程度のものでしかない。


━━━のはずなのだが・・・


「セイバー4!サボるな!貴様は帰ってきたら腕立て1万回だ!」

『イエッサー、ボス!』

「アーチャー7。そこで狙撃を外してどうする!外周1000周だ!」

『イエッサー、ボス!』

「セイバー1、ランサー6、良い連携だ!だが、ノル様を守るにはまだまだ足りない!」

『ありがたきお言葉!』


フィーアの前には透明で四角いものがいくつも現れて、そこにはこことは違った別の景色が見れた。そして、その一つ一つにフィーアが声をかけると、返事が来た。


「これは?」

「あっ、失礼しました。これは通信魔法を応用させた通称≪ビデオ通信≫です。私の魔力でマーキングしたクソ共部下たちの視界を共有し、声を相互に届けることができるというものです。我が通信魔法のおかげで騎士団の連携は国の中でもトップだと自負しております」

「そうか・・・」


誰だよ!通信魔法が弱いなんて言ったやつ(僕)!すげぇ強いじゃん(手のひら返し)。


「よくやったな。フィーアがライト―ン領に来てくれて助かったよ。君たちもよくやった」

「ありがたき幸せ!」

『ありがたき幸せ!』


フィーアだけではなく、バーサーカーたちからも感謝された。画面が水だらけになって視界が終わってるぞぉ?


でもよく考えたら、僕を殺せる人材を育てているともいえるんだよなぁ。バーサーカー達が連携をして僕を潰しに来たら、終わってない?


「ノルさんもいかがですか?通信ができれば何かがあった時にすぐに駆けつけることができますし、その、夜も話ができますし・・・」

「うむ」


つまり僕の視界を共有して、僕が悪いことをした時にすぐに殺せるように、監視がしたいということか・・・


しかし、僕には断るという選択肢はない。なぜなら、断る=死だからだ。


「よろしく頼む」

「は、はい!」


フィーアが僕の手に触れると、刻印が浮かび上がってきた。これがマーキングというやつなのだろう。


『いかがですか?』


お、脳に直接会話が届いた。


『悪くないな』

『それなら良かったです。視界を共有したい場合は頭の中で視界共有と念じてください』

『うむ』


ためしにフィーアの視界を共有してみたが面白い。フィーアの視点で自分を見ているのだが、僕ってこんなにイケメンなのかと自画自賛したくなった。


『当たり前です!ノル様は超絶天才聡明紳士美男子です!』

『ふっ、ありがとう』


通信拒否。危ない。僕が邪なことを考えたらすぐに殺されてしまうところだった。


「あの、ノルさん?なぜ通信拒否されたので?」


フィーアが主に裏切られた犬のような表情をしている。これ以上脳内で考えていることをバレたくなかっただけなんだけど、それを言うとアレだから・・・


「直接声で伝えたいことを脳内で共有じゃ、勿体ないだろう?改めてよく頑張ったね。君は最高の騎士だよ」

「~~~っ、ノルさあああん!」

(ぎゃあああ痛い痛い痛い痛い!)


抱き着かれて感触を楽しめたのは一瞬だけ。骨が軋みだし、死ぬかと思った。毒で感情が死んでいるので領主としての面子は保たれているだろう。


この後、フィーアは僕の屋敷に住むと言い出した。断ったら殺されるのは目に見えているので拒否権はなかった。だけど、同じ部屋で寝るのだけは勘弁してもらった。同衾などしたら僕が寝れなくなる(変な意味ではなくて死ぬかもしれないと)。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る