またまた毒殺!

領民を大量毒殺しようとしてから一週間後。疫病で死にかけていたライト―ン領の人間たちは逆に健康体どころか筋骨隆々の精錬した兵士のような体になっていた。僕の毒を乗り越えて最強の肉体を手に入れてしまったので、領民を粛清することができなくなっていた。


だから、ここから僕がやるべきことは平民たちが反乱を起こさないようにご機嫌を取りながら、税金をなるべく多く納めてもらうことだ。病気が治って一時的に僕への崇拝の念が増しているとはいえ、基本はライト―ン領のごろつきどもだ。


一か月もすれば、僕への恩など忘れて謀反を企てるに違いない。そうならないためにこの一週間で聞き込み調査をした。アンケートのようなものも考えたけど、基本的に領民の教育レベルは最低だ。文字なんて書けるはずがないので、面倒だけど一軒一軒聞き込みをした。


一位は予想できた結果だった。『食べ物が欲しい』というものだ。土地が死んでいるので農作物が育たない上に魔獣が領内に侵入してきて、なけなしの作物すらも食べてしまうのだ。


許せん!


僕は対策を考えた。野菜の中に毒を入れればいいじゃん、と。


「魔獣が嫌がるレベルの毒を注入すれば、作物を食べに来なくなるはずだ!ついでに土や水も洗浄してあげるかなぁ。いやぁいいことしか考えられない僕って天才じゃないかなぁ」


執務室で頭の後ろで手を組み、椅子をくるくる回しながら自画自賛をする。


「そうと決まれば今すぐ決行だ!これで食べ物に困らなくなるぞ!」


今は真夜中なので普通に怖い。絶対に悲鳴をあげないように緊張しなくなる毒を分泌しないと。


◇ ◇ ◇


翌日


「うう~ん!爽やかな朝だ!」


結局日が昇るくらいまで毒を使い続けた。一軒一軒、土の中に毒を入れ、作物に毒をやり、最後に水に手を突っ込んで毒を分泌した。途中、魔獣に見つかり、ビビって小便が垂れ流しになったけど、感情が死んでいたので冷静に毒殺できた。


ノル様最強じゃない?


ここまで重労働をしたんだ。一体誰がこんな素晴らしいことをしたんだと広場で噂になっているかもしれない。そうと決まれば町に繰り出そう。一体どんな賞賛の声がかけられるのかとうきうきしていた。


━━━そう思っていた僕の目論見は一瞬で崩れさった。


広場どころかあらゆる場所から断末魔が聞こえる。


「なんでだ?」


僕は原因を探った。すると、井戸の水をくみ上げ、それを飲みながら失神していたり、雑草にかじりついたりして死にかけている者がほとんどだった。よくよく見てみると魔獣も死んでいた。


「あっ、毒が強すぎたのか!」


僕が夜中のうちに仕込んでいた毒は魔獣対策と水質汚染、土壌汚染対策だったけど、それを食べるのは人間だった。そりゃあ大量の毒を食べたら死ぬわ。だって、広場で散布した毒に比べて何倍も強いもん。


運が悪いことに領内の人間たちは僕の毒に耐性を持っていた。だから、今も死にきれずのたうちまわっているのだろう。


「やっべえ、どうしよう・・・」


僕は何も見なかったことにした。


━━━三日後


僕は勇気を出して謝罪会見をすることにした。僕の家に領民たちが押し寄せてきたらたまったものじゃない。そうなれば僕は死ぬだけだ。だから、生き残るために広場の真ん中で土下座をすることにした。


・・・のだが


「領主様ぁ!ありがとう!おかげで作物が物凄く育ってるよ!」

「グスっ、うちもだ、もう死ぬしかないと思っていたのに・・・ありがとうノル様ぁ!」

「俺もだよぉ!子供を質にいれるしかないと思ってた・・・ノル様、この御恩は一生忘れません!」

「水が!水がうまい・・・!」

「ああ、ああ!」

「ノル様は救世主だ・・・」


作物は昨日の今日で生い茂り、飲み水は汚泥が消えて透明で物凄く健康に良さそうな色をしていた。口々に感謝され、戸惑ってしまう。確かに一定の成果は出てるけど、間違えて領民たちも殺しそうになったのだ。ちょっと聞いてみよう。


「・・・僕を恨んだりしてはいないのかい?」


すると、領民たちは顔を見合って、大爆笑が起こった。


「領主様も冗談を言うんですね!アレは魔獣を倒すのに必要なことだったのでしょう?」


魔獣なんて知らないよ?


「領主様は土の中にいたサンドワームが作物を育てなくしていることに気が付いたんですよね?」

「流石の慧眼ですなぁ。わしも長いことここに住んでおりますが、魔獣が原因だったとは・・・」


いやいや知りませんってそんなこと。


「川の水もそうです。まさか川にスライムが潜んでいて、それが毒を撒いていることに気が付くとは」

「スライムは透明で無味無臭・・・見つけるのが大変困難で魔法を使える貴族様でも討伐が困難な魔獣です。それを倒すとは・・・」


そう言われて町の外れを見てみると大量の魔獣が山のように積んであった。


あんなのが僕の領地に潜んでいたのか。そりゃあ作物も育たないわ。


それにしてもどうしようか。あの魔獣の山。捨てようにも捨てる場所がないんだよなぁ。あんな死骸を放っておいたら、腐敗臭がしてしまう。本当は食べられればいいんだけど、魔獣は余すところなくすべて毒でできている。


━━━のだが


「それにしても領主様は作物と水だけではなく、俺たちが魔獣を食べられる身体を作ってくれるとは・・・」


はい?という疑問と共に視界の端っこで子供たちがサンドワームを美味しそうにむしゃむしゃ食べて、スライムをごっくんしていた。


ヤバくね?


「俺たちの肉不足を補うために、魔獣を食べれる身体作りをする。そのために、俺らに毒を注入し続けたんですよね!」

「そこまで見越して毒を撒いてたとは・・・反乱を起こそうとしてすいませんでした!」

「私もです!」

「俺もだ!」


口々に感謝と謝罪を受け続けるが、僕としては本当に殺そうとしただけだし、食べ物に関してはそこまで思考が追い付いていなかったのでラッキーだ。


僕は内心とは裏腹に貴族らしい態度を取り続けている。


「・・・・計画通りだ」


「「「「「わああああああああ」」」」」


それっぽいことを言うと、領民たちの歓声は大爆発した。


魔獣すら食べられるバーサーク領民たちには絶対に内心を悟られないようにしないと・・・


◇ ◇ ◇


毒を広場で盛られたとき、領民たちは若き領主を呪った。たとえ、ここで死んでも孫子の代まで呪い続けると強く誓った。


「日没にまた来るよ」


そう言い残して消えた領主ことはまさに悪魔だと思った。あの人間を人ではなく、塵芥としてしか見ていない目。領民たちはその目を見た瞬間に恐怖で身体が動かなくなり、そのまま気絶した。


目が覚めると、息苦しくもなく、焼けるような痛みも消え、身体全体が軽かった。領民たちは死後の世界に着いたのだと思った。


しかし、場所は広場だった。お互いに顔を見合わせると、


「お、お前!斑点が消えてるぞ!」

「息苦しくない!空気がうまいよぉ!」

「走れる!走れるよぉ・・・!」


疫病が治って、領民たちは互いに抱き合い、そして、涙し合った。疫病で苦しみながら死ぬしかないと思っていた領民たちにとってこれほど嬉しいことはなかった。


そして、彼らはこの奇跡を起こした者が誰かに気が付いた。ノル=ライト―ン。領主様が領民たちのために魔法を使ってくれたのだと・・・


現に体の不調が治るだけではなく、芯から力が湧いてくる。腕を見てみると騎士のようにムキムキになっていた。


日没になると、堂々とした立ち居振る舞いでノルがやってきた。そして、未だに病で倒れている領民たちの声を聞いて、


「・・・いいだろう。全員治してやる」


領主様は一人一人、病に倒れる領民たちに向き合い、全員の病気を治すとなんの見返りも言わずに行ってしまった。


前領主と奥方様はこういうことがあると恩に着せて、税率を上げようとしていたのだが、そういう素振りは少しも見られなかった。


そして、今回の不作の問題だ。領主様はわざわざ領民の家を一軒一軒歩いて回り、そして、真剣に聞いてくれた。


結果的に、誰も解決できなかった不作の問題、そして、水の問題をたった一人で解決してしまった。しかも、領民たちの身体を強くし、魔獣を美味しく食べられるようにして、食糧問題も解決してしまった。


疫病の時も含めて、何も見返りも求めずに颯爽と屋敷に帰ってしまったノルに尊敬と羨望の眼差しが向けれられた。


この領地に集まった領民たちは誰からも必要とされず、差別を受け続けてきた者たちだ。それゆえ、無償の愛というものに感極まってしまうのも仕方がなかった。


「俺・・・領主様のために頑張る!」

「ああ俺もだ!初めて人間扱いしてくれた領主様に俺たちも報いよう!」

「私も!人間らしく生きるんだ!」


こうして、ノルの心配をよそに領民たちはすっかりノルに心酔してしまった。

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