第5話 獅子舞に頭を齧られる女

 前回、勢いでマッチングアプリに登録してから数ヶ月の時が流れ。

 お局様きっかけでアプリを再開させた私は、まず自分のあまりにも貧相なプロフィールをなんとかしようと考えていた。


 まず何よりも、適当に撮ったプロフィール画像から。


 マッチングアプリのプロフィール画像は“いいね”をもらう=出会いの選択肢を増やすという大切な役割を担っている。多分、というか確実に修正したり盛ったりした画像の方が好感触なんだろう。分かっている。分かっているんだけれど……。

 案の定ここでも私のネガティブがニョキニョキ頭を出してきた。


「写真と実物で、実物の方が残念ならマイナス評価になるんじゃない?」


 実際会った時、残念に思われるのは例え初めましての人だとしてもちょっと切ない。そして、相手にとっても騙されたような気持ちになるんじゃないのかな……?それはお互いにとってよくないだろう。

 よしんば実際の自分を気に入ってくれたとしても、可愛く見えるように盛って加工した詐欺画像に、自分自身が振り回されることになりそうだなぁ。何せ重々しく、キラキラ女子とは無縁だし……。

 それに、アプリ用にわざわざ決め顔で友だちに写真を撮ってもらったり、ましてや自撮りをするなんてそれって何の罰ゲーム!?ただの苦行でしかないことよなぁ。


 思うことは泉のごとく湧いてくる。


 でも、私が一番大切にしたいことって何だろう?と初心に戻って考えたとき、答えはとってもシンプルであった。


 よし!自分らしく、自分のキャラクターを偽らなくていい画像にしよう!!


 そうして携帯の画像フォルダーから選ばれた私の写真は、ニッコニコの満面の笑みで獅子舞に頭を齧られているものであった。


 どう考えても“婚活アプリのプロフィール画像”としてはおかしな選択だろう。

 でも加工された顔や、作られた可愛い雰囲気でやり取りを求めてくる男性は信用ならん!と思っていたのでこのくらいヘンテコなプロフィール画像が丁度いいと思った結果であった。

 “美人”や“可愛い”とはかけ離れていることは自分でも充分理解している。何たってこちとらプロの喪女!だてに孤高の女戦士を36年も貫いてきたわけではない。

 であるにも関わらずこんな慎重さを見せるのは、経験がないがゆえの喪女のプライドの高さと未知への恐怖からだと思っている。我ながらこじらせていることよ……。


 そんなこんなで獅子舞に嬉しそうに頭を齧られる画像を選んだ後、多少暗かった画像の色調を補正した私はついでとばかりにもう一つ暴挙に出た。


 目線に黒いバーを入れて、個人を特定出来ない(顔が分からなくなる)ようにしたのである!


 普通に考えてまず万人受けはしない。それでもこれで行こう!!と思ったのは、この画像を見て「面白そうだな」と思ってくれた人となら仲良くやっていけるんじゃないかと思ったから。

 顔ではなく、自分自身の個性や人間性を見てくれる人と出会いたいという気持ちであった。

 それに伴い、プロフィールの文章も以前よりもっと具体的なものに変えた。

 園芸や動物が好きなこと、ライブや映画や舞台が好きなこと。

 結婚はいい人がいればしだいが、焦らずまずはお互いよく知り合ってからがいいこと。

 ずっと一緒に笑っていられる人がいいなと思っていること。


 そんなことを丁寧に書いて最後によろしくお願いしますと添えてプロフィールの文章も更新完了。これで準備万端!やるぞ~!!という気持ちに燃えていた。


 まぁ、真面目に丁寧に書いても所詮は獅子舞に頭を齧られているお間抜けプロフィール画像なんですけどねぇ。当時の本人は至って真剣!

 こうして少し照準がずれている気がしないでもないけれど戦闘準備は整い、マッチングアプリでの婚活がようやく始まったのであった。


 本人は真剣、だけど少しずれている残念さは一生治らないかもしれないなぁ。




 余談として、目線に黒いバーを入れたのは顔重視の人を排除したいという理由もあるけれど、もうひとつ“ネットに顔出しすると危ない”という理由もあったりする。

 今の若者の感覚ではもしかしたら「それくらい」と思うかもしれない。もちろん一括りにするつもりはないので、ネットに顔出しなんてしないよ、という人もたくさんいると思う。

 でも私が遥か昔、まだまだ若い頃はネットリテラシーが今よりもうんと厳しかった。ネチケットなんて言葉、今の人にとっては死語かも?なんて思う。

 時代によって自分自身もアップデートしていかないといけないなぁ、と思うけれど教育というものは案外骨身に染みて自分の中に存在しているのかもしれない。




 



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