第20話 私と苦しむ彼と(高崎茅羽耶視点)
気が付いたら私の体は勝手に動いていた。
焦っていたからか、彼のことを上手いこと受けとめられず呻き声をあげさせてしまった。その申し訳なさから咄嗟に謝った私の顔を、目を開けた彼はじっと見つめてきた。
「詩音……?」
私は思わずその名前を聞いて、自分の名前でないにも関わらず少し嬉しくなってしまった。何故なら私は桜木くんとお似合いな神園さんのことが羨ましくてわざわざ見た目を寄せてもらっていたから。
橋の手すりの上に立っていた彼から伺えた辛さ、苦しさなどが込められた表情が以前の私と重なって、痛いほどその気持ちがわかった。だからこそ私は思ったままのことを伝えた。
「死なないでください」
「……えっ?」
「あなたが死んだら悲しむ人もいるんですよ」
「なんで初対面でいきなりそんなことを……?」
見た目が変わっているから仕方ないと思う反面、覚えられていないというのは少し悲しかった。
「そうですよね……、覚えてませんよね……」
ただたとえそうだとしても、私は彼が私を救ってくれたときのことを思い出しながら、彼をこの世界につなぎ留めるための言葉を必死に告げて、そして彼の手を強引にとり、雨で風邪をひいてしまうといけないからという口実を使って家まで連れて行った。
お風呂から上がった彼に名前を尋ねられたので、私の名前を明かす。
「あの……高崎さんって二年くらい前に転校しちゃった高崎さん……?」
良かった。少なくとも私のことを覚えていてくれてはいる。そうほっとしながら、彼がなぜ自殺しようとしていたのかを問い詰める。今度は私が助けたかったから。
ただ彼はどこか遠慮した様子で私に何も話してくれなかった。そこで引いたら駄目だと感じた私は彼に助けられたからこそわかる言葉を投げていく。
「話すだけでだいぶ楽になることもあるんですよ。……過去の私がそうだったように」
「……」
「人間というのは孤独を恐れる生物なんです。だから自然と学校などでも群れていますしね。一人じゃない。その事実があるだけで安心感も段違いなんです」
そこで彼は突然泣き始めてしまった。少し強引に行き過ぎちゃったのかなと心配になったが、温かいと言われて安心する。
そして控えめにぼそぼそとではあったが彼に打ち明けられた、彼にあった出来事。
神園さんが別の男と付き合っていたこと、またそれを知って桜木くんが幼馴染という関係を終わらせたということ。
なんであんなに全部が上手くいきそうな雰囲気が出ていたのにそんなことに?などの色々と驚かされることや、突っ込みたいことで溢れていて呆気に取られてしまったが、少なくともそれに関して彼の表情から汲み取れたことで私から言えることがあった。
それは彼のことを救いたいという純粋な思いのほかに、私の片想いをもしかしたら実らせられるかもしれないという打算、期待もあったと思うもの。そんな言葉を私は彼の自分を卑下するような言葉を途中で遮って、彼に伝えた。
「——それなら私にその片想いを終わらさせてください」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます