第4話 チビ虎vs野良猫軍団

 チビ虎と四匹の子猫達は、もう母猫のお乳を飲まなくなっていた。

 空地には、獲物になる様なものは無かったが、食べ物には、不自由しなかった。

 近所のおばさんや道行く人が、子猫達の仕草に癒されてキャットフードを持って来てくれた。

 それに黒犬の一件以来、チビ虎は小学生に大人気で、子供達も食べ物を持って来てくれた。

 子猫達のファンは日増しに増え、それと共に食べ物も増えていき、母猫と子猫達では食べきれない量になっていった。

 ある時、見知ら猫が子猫達に交じってキャットフードを食べていた。左目の周りに黒いブチのある痩せこけた大人のオス猫だった。

 すると、母猫が走ってやって来て、歯を剥き出してこのブチ猫を威嚇した。

 母猫は、この空地のボスであったので、不法侵入を見過ごすわけにはいかなかった。

 ブチ猫は、母猫の前で体を小さくしてうずくまり従順の意思を示した。すると母猫は、怒りの表情を解いて鼻をブチに近づけた。ブチも鼻を近づけて、友好の証を見せた。そして、ブチもこの空地に住み着く様になった。

 チビ虎も、母ちゃんが受け入れたのだから、仲間として認識していた。

 そのうちブチは、どんどん太っていった。

 ある日、また知らない黒いオス猫が空地の中でキャットフードを食べていた。

 また、母猫がやって来てこの黒猫を威嚇したが、黒猫は歯を剥き出して威嚇仕返してきた。

 すると、黒猫は母猫の後ろにいたブチに鼻を近づけて挨拶した。ブチをこの空地のボスと認識したのだ。そして、そのままこの空地に居着いてしまった。

 母猫は、憤懣やる方ない思いであったが、敢えて争うことはしなかった。

 その後、食い物を求めて野良猫が次々と集まって来て、十匹を超えてしまった。そして、皆、ブチに挨拶をして居着いた。

 ブチもまた、皆が挨拶にやって来るので縄張りのボスの様な気になってきた。

 だが、さすがにこれだけ猫が増えると食糧も行き渡らなくなってきた。


 そうして事件が起こった。子猫達のなかで一番小さい子猫が居なくなった。母猫は、必死に探したが終に見つけることが出来なかった。

 何日かするとまた子猫が一匹姿を消した。母猫は、探し回ったがやはり見つけることが出来なかった。

 この時、チビ虎はブチの周りに居る野良猫から、血の匂いを嗅ぎとっていた。こいつが子猫を殺したのではないかと疑い、不穏な空気を読み取っていた。

 そして、事はすぐに起こった。夜中、眠っていたチビ虎は、微かな物音に目を覚まして飛び起きた。その瞬間、一匹の野良猫が襲い掛かってきた。チビ虎は、素早くかわすと対峙して戦闘態勢にはいった。

 しかし、横を見ると子猫二匹が各々、大人の野良猫に押さえつけられ喉元を噛みつかれようとしていた。

 そして、反対側には母ちゃんが三匹の野良猫に襲われていた。その中の一匹は、ブチだった。

 それだけでは無かった、まだ数匹の野良猫が、後から襲い掛かって来る勢いだった。

 野良猫達は、食糧が行き渡ら無くなってきたので、力の弱いものから追い出しにかかったのだった。先に二匹の子猫を消して、残りの子猫と母猫を追い出しにかかったのだった。そして、その中心にいるのは、ブチだった。

 チビ虎は、子猫達と母猫の危機を脱する為にはこれしかないと、息を大きく吸い込み、口を大きく開けると思いっきり吠えた。その時チビ虎は、最強アムール虎の吠え方と感覚がピタリ一致したのを感じた。

 その声は、まさしく虎の吠え声のごとく大気を震わせて、遠く夜空に響き渡った。

 野良猫達の動きは、ピタッと止まり、すぐ側に巨大な野獣が居るのを感じた。そして味わった事のない恐怖を覚え、怯え、すっかり闘う意欲を無くし足がすくんでただ狼狽した。

 チビ虎は、子猫達を押さえつけてる野良猫に体当たりをして弾き飛ばした。子猫達は、何とか起き上がって逃げ出した。

 母猫も、野良猫達の動きが止まったのを機に脱出した。

 それを確かめたチビ虎も、母と子猫達の後を追って空地から脱け出した。

 そうして、母猫と子猫三匹はこの空地から姿を消した。


 この夜の怪異は、獣が逃げ出してきたのではないかとこの界隈で騒ぎになったが、その後、何も起こらなかったのでやがて人々の間から忘れ去られていった。

 そして、子猫達の居なくなった空地に、猫のエサを持って来る者はいなくなってゆき、野良猫達もまた食い物を探しに姿を消していった。

 悠人は、突然、チビ虎の姿が見えなくなってしまったので、言い様のない寂しさを感じていた。そして、毎日、空地の前を通っては、チビ虎が帰って来てるのではないかとその姿を探すのだった。


 

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最強のチビ虎 九文里 @kokonotumori

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