第33話 リート・マヤ


「ピーピーピー、サツが俺に何の用?」


リート・マヤという名の彼は、のけぞって笑った。


「昨晩、ホテルアクィラで起こった誘拐事件について、あなたにお話を聞きたいと思いまして」

「ふーん、俺を疑ってるんだ。証拠はあんの?」


そう言ってから、マヤは愉快そうに口の端を上げる。


「証拠があったら、とっくにパクられてるか」


「同じ声が二人いると頭がバグりそうだな」


後ろから合流してきたシバが言った。


「しかし、やけに堂々としてやがる。味方でも待ち伏せしてんのか?」

「そんな怖がらなくても、何も隠してないですよ」


マヤが警戒するパジーに声をかけた。


「なら、家の中を見せてもらってもいいですか?」


シバが聞く。


「どうぞどうぞ。いらっしゃいませ」


彼はホテルマンとして手慣れた仕草で恭しくドアを開け放して、三人を招き入れた。


小屋の中はこじんまりとして、暮らす場所というよりは山小屋などの方が近いような場所だった。

居間の他に部屋はなく、家具としても、机と椅子、簡易的なキッチンがあるだけで、ベッドすらも見当たらない。

本当に住んでいるのかも怪しく思える。


隅には湿っぽい闇と埃が積もり、カビのツンとした匂いが三人の鼻腔を刺激した。


「あんたらが調べてる昨晩の事件?ありゃ恐ろしい事件だったね」


三人が部屋を見渡す中、マヤは近くの椅子に座ると脚を組んで話し始めた。


「でも、あんなやつは世間からいなくなった方がいいでしょ。自分のことにしか興味のない政治家なんかさ、殺し屋より人の命を奪う大罪人、まぁ悪魔みたいなもんさ。自業自得だよ」


彼は一人で話し続ける。


パジーがゲーッと隠れて吐き捨てるジェスチャーをした。

「まあまあ同感なのがムカつくな」


「すいません。ここを調べても?」


床下が開く場所を見つけ、シバが指し示した。


「いいけど、確か漬物があるだけだよ」


シバが蓋を開け、床下に上半身ごと突っ込んで覗き込んだが、しばらくして、顔を上げた。


「マヤさんの言った通りでした」


シバは漬物を齧りながら言った。


「ピーピーピー、バカな……何勝手に食べてんだ!?」

「あ、すいません。ご飯食べてなくて。あと、ずっと気になってるんですが、そのピーピーっていうのは笑い声ですか?」


マヤは途端に固まった。


「……なんだよ。だったら文句あるのかよ」


「鳥の雛みたいで可愛い」


ナイラが思わず呟いてしまう。


「でもパジーはピーピーとは笑いませんよね」


シバがパジーに話を振る。


「いやお前、鳥だからピーピーって、安易すぎるだろ」


パジーが呆れて答える。


「あーもう!お前らピーチクパーチクうるさい!早く調べろよ!」



   ◇



その後も三人で手当たり次第に確認してみたが、物も少なく、隠し部屋のようなものもなく……

結局、何ひとつ手がかりは見つからなかった。


「だから最初に言ったでしょう。何も隠してないよって」


マヤが勝ち誇った顔で言った。


「すいませんが、これから一緒に署の方に来てもらっても?」

「それって任意だよね?」

「そうだが、断っても悪いことしかないぞ」


パジーが凄むが、彼はどこ吹く風という肩をすくめた。


「誰が断るって?なら、お出かけする準備をしないと。少し待っててね」


彼は部屋の隅にかかった服を取りに行く。

そのとき、ナイラがなんの前触れもなく、突然血相を変えて背後を振り返った。


「どうしたんです――」


シバが質問をし終わる前に、彼女は小屋を飛び出す。


シバとパジーが慌てて後を追い、外に出て初めて丘の裾の異変に気づいた。

シバたちの乗ってきた飛行車が、大型の鳥に囲まれている。


「ありゃ、どういう状況だ……?」パジーが困惑している。「ホテルのババァみてぇになってやがるじゃねぇか」


「あの鳥たち、車を壊そうとしてる!」


真っ先に坂を駆け降りながら、ナイラが叫んだ。


「えっ⁉」



――――――――――――――――――――


次話、パジーが刑事魂をみせます。





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